35話 聖女誕生
――少し、時間を戻す。
『乖離世界の世界』内部で文字通り、地獄絵図が作られている頃、救出された人質達はどうなっていたのか?
戦場に立ったミヤが、もう少しで獣人種兵士に追いつかれ殺害されそうになった際、彼女が大切にしているミサンガをプレゼントしてくれた少年――ダークが助けに入る。
ダークは『巨塔の魔女』に、人質になっている人種達の救出協力を依頼された。
その人質リストにミヤの名前を発見し、慌てて駆けつけたらしい。
ミヤはダークの話を聞いて、顔が赤くなり心臓が痛いほど高鳴った。
その後、ミヤはダークの指示に従い『巨塔』へと転移。
「転移、『巨塔』へ。解放」
ダークの言葉を耳にした瞬間――燃え盛る炎の戦場が一瞬で切り替わる。
青空は消えて高い天井、周囲には白い太い柱が規則正しく並んでいた。どうやらここがダークの言う『巨塔』内部らしい。
ミヤは本当に一瞬で転移したことに驚き、都会に出た田舎者のごとく周囲をきょろきょろと見回してしまう。
高い天井、太い柱の他に、獣人連合国港街倉庫に囚われていた人種奴隷達が多数居て、戦場に立たされた人種達と再会し、喜びを分かち合っていた。
「ミヤ!」
その救助された人質の中に、ミヤを知る人物――少し前に別れた、ミヤと同い年くらいの人種の魔術師であるクオーネも居た。
クオーネはミヤを見つけると、短くない監禁生活で弱った足を必死に動かし、彼女の元へと向かう。
ミヤもクオーネの声に気付き、近寄ってくる彼女へと駆け寄る。
駆け寄ったミヤにクオーネは涙ながらに抱きつく。
ダーク――ライトは気を利かせて、何も言わずそっと距離を取った。
クオーネが涙ながらにミヤの無事を喜ぶ。
「よかった! ミヤが無事で本当によかったよぉおぉっ!」
「ありがとう、クオーネちゃん、心配してくれて」
ミヤは泣きじゃくるクオーネを母親のごとく抱きしめ、頭を撫でながらお礼を告げる。
そんなミヤの優しさがさらにクオーネの涙を溢れさせ、無事だった喜びを加速させる。
クオーネは涙ながらに謝罪した。
「お礼を言われる資格なんて無いわ。ワタクシはただ怯え震えて、ミヤの足を引っ張るだけで、何も出来なかった……。こんなの友達失格よ」
「そんなことないよ。わたしはクオーネちゃんが側に居てくれたから、最後まで諦めずに足掻くことが出来たの。だから、クオーネちゃん、やっぱりありがとうだよ」
「……ミヤは優し過ぎるわ」
クオーネはあまりにお人好しなミヤに思わず、涙をこぼしながら微苦笑を漏らしてしまう。
彼女の指摘に、ミヤは照れ笑いを零す。
「そんなことないよ。普通だよ」
「いいえ、ミヤは優しいわ。……でもその優しさのお陰でワタクシや大勢の人が救われた……『巨塔の魔女』様が人種の救い神なら、ミヤこそ人種の癒し手! 聖女様よ!」
「うん? ……うん?」
涙を流し自虐していたクオーネが元気を取り戻し、大きな声をあげたのは良いが……なぜか急に変なことを言い出したため、ミヤの笑顔が凍る。
クオーネは笑顔が凍ったミヤの胸から顔を上げると、『巨塔』1階内部に広がるような大声で告げた。
彼女はオペラ歌手のような通る声音で語り出す。
「ミヤはワタクシを庇って獣人種に捕まった。ミヤ1人なら、逃げることが出来たにもかかわらず。さらにミヤは人質になっている間、ずっと同じ捕らえられた皆を励まし、魔術で怪我人を癒し、少ない食料を自分の分を幼い子供に分け与え、魔術で水を作り出し独占することなく平等に分け与えた! さらに心が弱く臆病なワタクシを庇い代わりに戦場へと立った! これを『聖女』と言わずなんと呼べばいいの!」
「く、クオーネちゃん、お、落ち着いて、落ち着こう、ね、ね?」
クオーネは羞恥心で真っ赤になったミヤの制止も届かず、思いの丈をぶちまける。
彼女の言葉に、ミヤの世話になった人種女性、子供達も賛同の声をあげる。
「確かに私が獣人種に捕らえられる際に負った怪我を、なんの見返り、要求もせず回復魔術で治してくれたわ」
「おねえちゃんはぼくにパンをわけてくれたよ!」
「わたしはお姉ちゃんにお水をもらったの」
他にもミヤに助けられた、彼女が矢を防がなければやられていた等々、施しを受けたり彼女に護られた者達の賛同の声が上がった。
さすがにここまで騒げば、『巨塔』に転移、救助された人種達の視線が集まる。
クオーネは賛同の声が途切れたタイミングで再び、『巨塔』の内部により広がる澄んだ声音で告げた。
「もう一度言わせてもらうわ! 『巨塔の魔女』様が人種の救い神なら、ミヤこそ人種の癒し手! 聖女様! 人種の希望、聖女ミヤよ!」
「聖女様……」
「聖女さま?」
「聖女様のお陰で我々は無事だったのか……?」
「聖女様は我々を矢から護って下さった……!」
「聖女ミヤ様……」
「聖女様のお陰で我々は助かった……!」
「聖女!」
「巨塔の魔女様、聖女ミヤ様バンザイ!」
一部がクオーネに釣られて『聖女』と口にすると、波紋が広がるようにミヤに助けられた人種を中心に『聖女』、そして『巨塔の魔女』を讃えるコールがされる。
他一部人種達も勢いに釣られて『聖女』『巨塔の魔女』を讃えるコールを開始しはじめた。
「えぇぇえぇぇ……」
一方、『聖女』呼びされているミヤ本人は……ダークに助けられた際に赤くなった時と同程度に羞恥心から顔を真っ赤にし、その場に蹲る。
クオーネは感慨深そうに、羞恥心で蹲るミヤの前でしみじみと漏らす。
「……ワタクシがこの世界に産まれた意味は魔術を極めることではなかったのね。ミヤと出会い、『巨塔の魔女』様に助けられ、『聖女』が人種の中に産まれる……その瞬間をこの目で見て、その素晴らしさ、奇跡を広めるために産まれたのよ。ミヤ、貴女との出会いは運命だったのね!」
「違うよ……絶対違うよ!!」
ミヤは真っ赤な顔で、涙目になりながら否定する。
しかし、感情が高ぶり盛り上がったクオーネ、『聖女』、『巨塔の魔女』コールをする人種達には届かない。
一縷の望みに縋りミヤはダークへと視線を向ける。
他にも妖精メイド達が『どう対処します?』とちらちらダークへ視線を向けていた。
彼女達的には本当の主、救い主である『ライト』に、彼、彼女達の忠誠心、賛辞を向けるべきだと内心では考えているようだ。
「だ、ダークさん……」
ミヤの救助要請にダーク――ライトは……。
(ミヤちゃんには悪いけど、『巨塔の魔女』だけではなく人種の中に新たな英雄として『聖女』が産まれるのは有りだな……。人々に寄り添い癒やす存在は人々の精神的支柱になるし、力の『巨塔の魔女』と癒やしの『聖女』ということで、相性も良い。僕と親しい彼女が『聖女』として認識され喧伝されるのは、『巨塔』街の統治的にも、人種関係の問題にかかわる際の大義名分的にも非常に有効だし……。それに実際、ミヤちゃんの行動を聞く限り、聖人、聖女扱いされても仕方ないしな。ミヤちゃんは『聖女』呼びに困惑してるようだけど、自分の功績を誇らない点も奥ゆかしくて可愛いし、見た目も愛らしいから聖女として皆も讃えたくなるんだろうな)
「……うん、いいんじゃないかな? 『聖女』ミヤちゃん。いい響きだと思うよ」
「えぇぇぇ……。ダークさんまで……恥ずかしいよぉ……」
自分達側の利益的にも、ミヤの功績的にもライトは応援側に回った。
笑顔の人々からで拍手、聖女、魔女様バンザイとどこからともなく声が聞こえ、それはだんだんと広がり、大きな声になっていく。
妖精メイド達もライトがそれを認めているのを見て、『聖女、魔女様バンザイ』と声をあげる。
ダーク――ライトが白といえば白、黒といえば黒となるのが彼女達の絶対的ルールだ。
妖精メイド達が皆と同じく声をあげるのを見て、様子を見守っていた人種達も『聖女、魔女様バンザイ』とコールを開始する。
逃げ道が無くなったミヤは、
「ァァァァッ……」
再び羞恥心に悶え、その場に蹲ってしまうのだった。
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