34話 殲滅
「――た、た、助け! 助けてくれ! 話す、全部話すから! 自分はヒソミっていうヒューマンに騙されただけなんだ! だから自分だけは助けてくれぇ!」
垂れた耳が特長的なウルフ種族長ガムが、あまりの絶望的な状況に大声で命乞いを始める。
一番奥に居る『巨塔の魔女』へ届くように全力でだ。
当然、周りにいる獣人種達の耳に入るが、ガムは気にせず言葉を続けた。
「ヒソミは竜人帝国と獣人ウルフ種族長を繋ぐ諜報員で、今回も奴を通して依頼されたんだ! 竜人帝国の命令で、『巨塔の魔女』を殺せ、潰せって! 最初、自分は反対だった! エルフ種最強の『白の騎士団』を潰し、エルフ女王国を陥落させた『巨塔の魔女』――『巨塔の魔女』様を敵にするなんて! で、ですが、竜人帝国の圧力で敵対せざるを得なかったんです!」
「ガ、ガム……貴様……この作戦は全てオマエ自身が考えたモノじゃなかったのか? あれだけ自信満々にヒューマンを捕らえ、人質を盾に『巨塔の魔女』を殺せると息巻いていたのに……ッ」
「そうなんだ! 全部、ヒソミを通しての竜人帝国からの命令だったんだよ! だから自分は悪くないっ! 全て竜人帝国が悪いんだ!」
獣人タイガ種族長レバドが、突然ガムが始めた命乞いを聞いて、思わずあきれ果てたように言う。
その指摘にガムは『竜人帝国が悪い』と罪を擦り付けようと必死になっていた。
気付けばガムの命乞いが届いたのか、アオユキが指揮するモンスター達が攻撃を止めて彼の声に耳を傾けている。
『ここが正念場だ』と、ガムはより一層必死に命乞いをした。
「『巨塔の魔女』様! 不幸な行き違いで我々は争ってしまいました! ですが、自分は魔女様のお陰で目を覚ますことが出来ましたッ! 自分は魔女様に忠誠を誓います! どうか、どうか今後は魔女様の配下として自分を手足の如くお使い下さい! 自分は獣人種ウルフ種族長を務めております。ですから配下にすればきっとお役に立つことが出来ますっ! 打倒、竜人帝国! 全て竜人帝国が悪いのです! 魔女様の下で竜人帝国を倒すのに協力させてください!」
「ガム! 抜け駆けするな! 魔女様! こんなウルフ種よりウチらタイガ種の方がきっとお役に立てます! 竜人帝国と繋がり、ウチ等を騙し魔女様と争わせたことからも明らか! なのでどうか貴女様の配下にタイガ種を!」
ガムの命乞いを聞き、竜人帝国が引き金だと知り最初こそ驚いていたレバドだったが、彼も生き残るためプライドを投げ捨て同じように命乞いをし始める。
族長2人の命乞いに刺激され、他獣人種達もそれぞれ声をあげ始める。
「『巨塔の魔女』さま! どうかお許しを!」
「俺達も貴女様のしもべになります! なのでどうか命だけは!」
「魔女様バンザイ! 魔女様バンザイ! 魔女様バンザイ!」
「魔女様と俺様達の力を合わせれば、竜人帝国なんて敵じゃないぜ!」
命乞い、恭順を希望するだけならともなく、すでに許され配下として竜人帝国を滅ぼし、その上に立つことを夢想する輩まで存在した。
アオユキが指揮するモンスター達も、表情こそ分かり辛いがあまりの手のひら返しに唖然とした雰囲気を醸しだしていた。
一方、エリー達はというと――。
「商人でヒソミ、ですの? ドワーフ王国で倒した『ますたー』らしき人物も商人で、人種のヒソミという名前でしたが……。別人ですわよね? だってライト神様とメイさんが、目の前で死亡を確認したのですから……」
「――否。相手は『ますたー』らしき人物。何らかの手段を用いての生存、もしくは特殊な能力を保持して自らを複製等している可能性等も考慮すべき」
「アオユキさんの指摘、ごもっともですわ。なら詳しい情報を得るため、最初に叫んだあの垂れ耳と、念のためもう1匹の族長は今は殺さず確保をお願いしますわね」
「にゃ~」
アオユキの返事を聞くと、エリーは一方的に盛り上がる獣人種へ改めて向き直り、声をかける。
エリーの声音は、『乖離世界の世界』の力によってか、獣人種の元へ響き渡る。
「皆さんの忠誠心、確かにわたくしの耳に届きましたわ」
『オオオォ!』
エリーの一声に獣人種が心の底から歓喜の雄叫びを上げる。
彼らは『助かる』、『殺されずに済む』と頭から信じ切っていた。
その希望は次のエリーの台詞で潰される。
「であれば、皆さんが本当にわたくしに本当の忠誠心を捧げているならば…………死になさい。自分達のおこないを悔やみながら、なるべく苦しみ抜いて今この場で死になさい」
彼女の言葉に獣人種側が沈黙の後、爆発したように声をあげる。
「どうして!? 忠誠を誓うのに、どうして殺されないといけないんだ!?」
「忠誠を誓うって言っているじゃないか!」
「どうして!? 俺達が何をしたっていうんだよ!」
エリーは獣人種の嘆きの叫びなど一切気にせず、髪を弾き冷たく断言した。
「わたくし、言いましたわよね? 『降伏も許しませんわ。ただただ苦しみ抜いて、後悔しつつ死になさい』と。なぜなら貴方たちの言う忠誠は偽物だから。ただ生き残りたくて口に出している偽の言葉に、誰が騙されるというのでしょう? わたくしを殺し全てを奪おうと考えたけれど、わたくしが強いからしっぽを振り、今度はわたくしの威を借りて竜人帝国の上に立ちたい……そんなゴミ屑の言葉の、何が信じられると言うのですか?」
エリーは冷たい瞳を獣人種達に向け、言葉を続ける。
「わたくしが敬愛しているライト神様は仰りました……貴方達は鏖殺されるべき、と。貴方たちの魂は汚れきり、嘘を垂れ流し欲望にまみれている。弱き者を殺し虐げ続け、挙げ句の果てに戦場に立って殺し奪うことを望む余り、殺される側になることすら想像できない愚か者。常に自分は奪われないと信じこみ、目をつぶって崖下に落下する道化。貴方たちは今すぐ死んで浄化されるべき愚かな存在なのです」
そして最後に、彼女は全てを断罪する神のごとき笑みを浮かべる。
「そう、貴方たちは忠誠の何たるかすらも全く知らない。仮にライト神様がわたくしに『死ね』とお命じになられたら、喜んで地獄の苦しみがともなう死でも受け入れますわよ。ならば本当に忠誠心があるのなら死ねますわよね? だから本当の忠誠心を持っているなら、喜んで今すぐ自らの手で死になさい」
この返答に獣人種達は絶句する。
エリーの声音から、本気で命令されたら喜んで『死ぬ』という強い意思があることを彼らは感じ取った。
同時に自分達の死が避けられないのも理解する。
「そうそう。そこの族長2人は情報を引き出すためこちらへ来なさい。モンスター達は危害を加えないよう指示を出していますから」
エリーの言葉にガム、レバド両族長は九死に一生を得た喜びに声をあげそうになるが――すぐに絶望へと突き落とされる。
「死んだ方がマシという苦痛を与えながら必要な情報を引き抜いた後、ちゃんと殺してあげますわ。しっかり殺さないと、ライト神様のお言葉に沿わないですもの」
「にゃ!」
アオユキがエリーの言葉に同意するかのように短く声をあげた。
彼女の言葉を聞き絶望的な表情を浮かべたガム、レバドは……どちらが最初か分からないが、気付けば2人とも後方へと向かって逃げ出す。
「い、嫌だぁぁあぁぁぁッ! ど、どうして自分がこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ!」
「死にたくない! 死にたくない! しにたくない! ごめんなさい! ゴメンナサイ! 許して!」
どちらの台詞か分からないほど錯乱し、涙、鼻水などを垂れ流し叫び声を上げながらみっともなくエリー達から距離をとろうと逃げ出す。
また、2人の逃亡を切っ掛けに他獣人種も示し合わせたかのようにエリー達から遠ざかろうと逃げ出す。
『乖離世界の世界』で閉じられ、彼らの力では絶対に抜け出せないと知らずにだ。
エリーは獣人種達の無駄な足掻きに呆れたかのように軽く溜息をつく。
「ここから逃げ出すなど出来ないというのに、無駄なことを……。アオユキさん、練習を再開してくださいまし」
「――是。主のためにもこの機会を十全に利用させてもらう」
再びアオユキ指揮の下、モンスター達が獣人種狩りを再開する。
「助け、助けてください! 助けてください!」
「嫌だ! 嫌だ! 死にたくない! 何でヒューマンを楽しく狩る筈がこんなことに――」
「うぎゃぁぁ! 痛い! 痛いぃぃいぃいぃぃッ!」
地獄の方がまだマシだという死の暴風が目の前で繰り広げられる。
そんな光景を前にしてもエリー、アオユキの表情は変わらない。
ただただ絶対的忠誠心を捧げる主の心を損ね、死の前日まで自らが狩る側の上位者だと勘違いしていた愚か者達が消えていくのを見守る。
ガム、レバドは自殺することも許されず巨大スライムによって捕獲。
『ヒソミ』、『竜人帝国』などに関する情報を抜き出した後は、しっかり命令通りに殺す予定である。
こうして獣人種約2000人は1時間かからず2人を残し、誰1人残らず粉々、バラバラにされて殲滅されてしまったのだった。
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