33話 『狂奔の笛』と『獣魔球』
『グルガガガガガァァァァァァァァァァッ!』
赤、青、黒の鱗を持つアオユキ配下のドラゴン達が上空を旋回。
地上へ向かって急降下し、長い首をくねらせ鋭い牙だらけの口を開き、獣人種を喰らう。
再び上空へと舞い上がり、くわえた獣人種を『バリ、ゴリ』と音を鳴らし嚥下した。
時折、口から零れた手足、装備品、頭などが地上へと落ちていく。
それらが地上へ落ちるたびに、まだ生き残っている獣人種は恐怖に駆られ悲鳴を上げる。
赤、青、黒の鱗を持つドラゴン達が本気を出して口からブレスを吐き出せば、地上に居る獣人種は瞬く間に死亡するだろう。
さすがにそれではアオユキの指揮訓練にならず、ドラゴン達は手を抜いて戦っていた。
とはいえ、上空からの強襲だけで圧倒的脅威ではあるのだが……。
「早く笛を鳴らせ! し、死にたいのか!」
「わ、分かっております! 分かっておりますから!」
獣人ウルフ種族長ガムが、ヒソミ経由で竜人帝国から入手した『狂奔の笛』を部下に早く吹くよう急かす。
この『狂奔の笛』は、ドラゴンの骨から削り出され、魔術文字を彫り込み、ドラゴンの血を染みこませたマジックアイテムだ。
名前の通りこの笛を吹くと、ドラゴンが混乱・狂乱し無秩序に暴れるという効果を持つ。
『巨塔の魔女』が大量のドラゴンを連れてエルフ女王国を落とした情報から、用意した代物である。
部下は『狂奔の笛』を取り出すと、上空へ向けて全力で吹く。
『ピィー』と甲高い音が上空まで届く……が、縦横無尽に暴れる赤、青、黒の鱗を持つドラゴン達には特に変化がない。
部下は焦った様子で何度も何度も全力で息を吐き出し『ピィー』と鳴らすが、やはりドラゴン達に変化はなかった。
むしろ、『なんだうるせぇな』と苛立ちの雰囲気を発して、ガム達へと視線を向ける。
混乱・狂乱させドラゴンを無秩序に暴れさせるどころか、無駄に注目を集め自身の命を危機に追いやっただけだ。
ガムは予想外の事態に混乱する。
「ど、どうなってやがる! 全然効果がないじゃないかッ!? あ、あのクソ商人! もしかして自分を嵌めやがったのか!?」
ガムが話を持ちかけてきた商人――ヒソミの胡散臭い笑みを思い出しながら叫ぶ。
実際のところは、ヒソミはしっかりと対ドラゴンに効果を持つマジックアイテムをガム達に渡していた。
ではなぜ上空を飛ぶ、ドラゴン達には効果がないのか?
単純に『巨塔』配下のドラゴン達のレベルが高すぎて効果が無いのだ。
『狂奔の笛』の効果があるのはレベル3000前後まで。
赤、青、黒の鱗を持つドラゴン達はレベル5000を超えているため、ただうるさい音でしかない。
しかしガム達がそんな理由を知るはずもなく、効果がないと分かりながらも必死に笛を吹く。
赤、青、黒の鱗を持つドラゴン達の次の標的に選ばれたため、部下も必死の形相で『狂奔の笛』を鳴らし続ける。
ガム達は族長として部下達を指揮するために後方に下がっていた。
お陰でアオユキ率いるモンスター達は前線の獣人種を襲うことに夢中になっていたため、ガム達の所までまだ辿り着いていなかった。
だが『狂奔の笛』のせいで、上空を飛ぶドラゴン達の興味を引いた結果、次の標的にされてしまう。
「クソ! クソクソクソが! こんな所で死んでたまるか! 化け物には化け物をぶつけるだけだ!」
タイガ種族長レバドと彼の部下達がこちらも商人ヒソミ経由で、竜人帝国から持ち込まれたマジックアイテム――獣魔球を割る。
獣魔球とは、遺跡やダンジョンで稀に発見されるマジックアイテムで高レベルの魔獣が封じられている球だ。
球を割ることで一時的に高レベルのモンスターを召喚し、支配下に置くことが出来る。とはいえあくまで一時的、1時間程度で消えてしまう代物だ。
この獣魔球も、『巨塔の魔女』がドラゴンだけではなく、『尻尾が蛇で巨大な4足獣』を飼っているという情報を得ていた。
その『尻尾が蛇で巨大な4足獣』に対抗するため高レベルが封印されている獣魔球を十数個も購入したのだ。
レバド達が割った獣魔球から、レベル700~900もあるモンスター達が姿を現す。
彼ら獣人族からすれば、どれも切り札になりえる高レベルモンスター達である。
「空を飛ぶしか脳がないトカゲが! 地面に叩き落としてウチらが直々にその首を切り落とし息の根を止めてやるわ! 野郎共! タイミングを合わせて一斉に上空へ撃て!」
族長レバドの鼓舞に、タイガ種部下達が一斉に返事をした。
獣魔球を割った人物は一時的に魔獣の主に認定され、魔獣のレベルや特性、特技、弱点、能力を把握することが出来る。
レバド達はその情報を元に、モンスター達が持っているスキル等の中で最も攻撃力が高い遠距離攻撃で、上空から襲いかかってくるドラゴンを撃墜させ、地面に落ちた所を倒そうと算段を立てているようだ。
獣魔球を所持していなかった者達は皆、武器を抜き一斉に地面に落ちたドラゴンを狩る準備をしていた。
彼らは皆、青ざめているが、まだ『自分達に助かる道がある』と信じて族長達の言葉に従う。
レバドがタイミングを計って、声をあげる。
「今だ! 撃てぇぇぇぇぇぇッ!」
獣魔球によって召喚されたモンスター達によるタイミングを合わせた遠距離攻撃が放たれる!
離れた位置から見ると、まるで花火を打ち上げたかのように色とりどりの遠距離攻撃が放たれ、非常に美しかった。
実際は各モンスターの全力攻撃で、どれも獣魔球によって召喚されたモンスター達と同レベルであれば、まともに喰らえば重傷又は致命傷は免れない威力だった。
それが数十、同じタイミングで放たれる。
――しかし相手はレベル5000を超えるドラゴン達だ。
正面からまともに一斉攻撃を受け、爆発。
獣人種達が『わぁ!』と歓喜の声をあげるが、その声音も長くは続かない。
『グルガガガガガァァァァァァァァァァッ!』
すぐさま爆炎からまるで何事もなかったかのように、無傷のドラゴン達が姿を現す。
「ひぃいぃッ!」
反射的にガムとレバド含め、獣人種の誰もが悲鳴をあげ咄嗟に地面へと伏せる。
『ゴウッ』と強い風の音が鳴ると、獣魔球から召喚されたモンスター達がドラゴン達の口にくわえられ肉、骨、内臓などが噛み砕かれ、血飛沫を散らし絶命する。
文字通り血の雨がガムとレバド、そして獣人種の元に降り注ぐ。
「う、うわぁぁあああッッ!」
「ひぃいっっ……!」
先程まであった希望は潰え、今は絶望しか漂っていない。
獣人種からすれば切り札、怪物と断言しても良いレベル700~900もあるモンスター達が一斉に遠距離攻撃をしかけた。
当事者、第三者の獣人種からしても、『必殺』たりえる攻撃だった。
にもかかわらず、ドラゴン達は怯むどころかまったくの無傷で元気よく攻撃をしかけてきたのだ。
縋っていた希望が潰えて、絶望に包まれてもしかたがない。
「うわぁあぁあっっ!」
「逃げろぉぉっっ……!」
前線からもアオユキが指揮するモンスター達にまったく歯が立たないことを悟った獣人種兵士達が一目散に逃げ出してくる。
その後ろから悠々と、化け物という表現すら足りない『巨塔』が操るモンスター達が突き進んでくる。
まさに『乖離世界の世界』によって切り取られたこの世界は地獄と表現しても、まだ足りない絶望、苦痛、嘆きに満ちていた。
「――た、た、助け! 助けてくれ! 話す、全部話すから! 自分はヒソミっていうヒューマンに騙されただけなんだ! だから自分だけは助けてくれぇ!」
この地獄に我慢できず、ウルフ種族長ガムが全力で助けを請う。
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