31話 異形の軍団
神話級、『乖離世界の世界』。
『奈落』最下層にある3つの神話級の一つだ。
『乖離世界の世界』はかなり特殊なアイテムで、使用すると周囲約3km、上空約4kmの隔離空間を作り出す。
隔離空間に取り込まれた者は、どのような手段を用いても使用者の許可無く外へ出ることが出来ず、外部からも一切干渉することが出来ない。
例え、創世級のアイテムを用いたとしてもだ。
仮に創世級、神葬グングニールを能力全開解放したとしても『乖離世界の世界』からの脱出は不可能だ。
しかし当然、『乖離世界の世界』にも欠点は存在する。
その欠点とは……1度しか使用できない使い捨てアイテムだ、ということだ。
神話級のアイテムにもかかわらず、1度しか使用できない使い捨てのため創世級の干渉を受けないほど強力なのである。
エリーは不機嫌そうに髪の毛を弾く。
「正直に言えば獣人種程度に『乖離世界の世界』を使用するなど勿体ないというレベルではありませんわ。ゴブリンに金塊どころではないですの」
彼女の声音は心底、『勿体ない』と伝わるほど感情が篭もっていたが、次の瞬間には無感情で淡々と事実だけを並べた。
「ですが、貴方達はこの世で最も偉大なお方、ライト神様の逆鱗に触れてしまいましたの。なのでライト神様がこれをお使いになると判断したのだから、貴方達全員がここで死ぬのは決定事項。まさに運命ですの。なので――死になさい」
『…………』
エリーのあまりの言い方に流石の獣人族も反応しきれず唖然としてしまう。
彼女は気にせず話を続けた。
「ライト神様のお言葉は全て正しいのですわ。だから、貴方達は全員死ななければいけませんの。鏖殺ですわ。少しでもライト神様のお心が晴れるように、絶望しながら苦しみ抜いて、産まれて来たことを後悔しながら死になさい。降伏も許しませんわ。ただただ苦しみ抜いて、後悔しつつ死になさい。それが貴方達に出来る最後のことですの。なので精一杯頑張って殺されなさいな」
エリーは『当然』とばかりに言い切る。
唖然とした獣人種達も彼女の言葉が終わって暫くすると、毛の上からでも分かるほど青筋を立て怒鳴り散らした。
「ふ、ふざけるな! ヒューマンの魔女が! たった1人で俺達を殺すだと!? 調子に乗りやがって!」
「なにが絶望して、苦しみ抜いて、産まれて来たことを後悔しながら殺してやるだ! 逆に調子に乗っているオマエに剣を刺して苦しませ、『殺してくれ』て懇願するまでいたぶってやるわ!」
「俺様達を閉じこめたのは逆に失敗だったな! ドラゴンが居なきゃ貴様のようなクソアマヒューマンなんて怖くないんだよ!」
「さんざんいたぶって、自分の内臓がどんな色、味なのか確認させてから殺してやる! 貴様を殺せば、この気色の悪い空間からも出られるんだろうからなぁ!」
神話級、『乖離世界の世界』で隔離され、エリーを前にしても獣人種の威勢は衰えなかった。
レベル9999のエリーが未だ本気で威圧していないため、彼女を侮っている部分もある。
獣人種側からすると、『人種には逃げられたが、マヌケにも魔女はドラゴンも帰して隔離空間に自分達ごと移動してしまった』と考えているのだ。
また『巨塔の魔女』エリーによって『人種絶対独立主義』を逆手にとった人種盾化は失敗してしまったが、竜人帝国から対ドラゴン用のマジックアイテムを入手しているし、レベルの高いモンスターが封じ込められた獣魔球も複数用意している。
獣人種視点から考えると、現在のエリーは『カモがネギを背負って、鍋まで用意してきた』と見えてしまうほど無防備なのだ。
一方、エリーはというと……獣人種の殺気、威圧など一欠片ほど気にもせず、『SR、念話』で連絡を取る。
連絡を取り終えると、彼女の側で空間が歪み――一瞬でモンスターの大軍が姿を現した。
赤、青、黒の鱗を持つドラゴン、一つ目の巨人、鈍い金属色をした巨大ゴーレム、三つ頭のある大きな狼、『神獣・始祖フェンリル』、イソギンチャクのような体に無数の触手が蠢く異形モンスター、複数の頭を持つ巨大な蛇、巨大な斧を手にした巨体のミノタウロス、巨大な蜘蛛、獅子の体に鷲の頭、蛇の尻尾を持つグリフォン、巨大な液体の塊のスライム、赤い肌に複数の角が生えた二足歩行の鬼――などなど、一目で凶悪、強大な存在だと分かるモンスター軍団がエリーの側に姿を現す。
見た目だけではない。
レベルも上は9000から、下は最低でも5000はある。
『――ッ!?』
獣人種はようやく自分達が何と戦い、誰の機嫌を損ねたのか本能で理解する。今更遅すぎるが……。
毛皮の上からでも分かるほど冷や汗、脂汗がだらだらと流れ出す。
『乖離世界の世界』は内部から抜け出すことも、外部から影響を与えることも出来ない。
しかし、例外があって使用者――この場合、エリーが許可すれば外部に出ることも、内部に入ることも出来るのだ。
エリーは使用者権限で『奈落』最下層で待機していたアオユキ達と念話で連絡を取り、『SSR、転移』で『乖離世界の世界』にモンスター達を送り込んだのだ。
化け物達の間を縫い、背の低い青い幻想的な髪で、パーカーにネコミミがついた少女――アオユキが本物の猫のように、スルスルとエリーの横へと立つ。
エリーの方が頭一つ分ほど高いため、彼女のネコミミを見下ろす形になる。
「アオユキさん、こちらの準備は整いましたの。あとは思う存分、訓練を楽しんでくださいですわ」
「にゃぁ~」
アオユキと呼ばれた少女が可愛らしい猫語で返事をした。
化け物集団を前に青ざめる獣人種にエリーが向き直ると、分かり易いように説明する。
「獣人種の皆さんの皆殺し、鏖殺、虐殺は決定事項ですの。悪事に手を染めライト神様を怒らせた上に、戦場に自らの意思で立ちわたくし達を殺そうとしたのですから、当然の報いですわ。ですが、どうせ皆殺しにするのならわたくし達、引いてはライト神様のお役に立つ死に方をすべきですの。なので最大限の利益を目指し、将来に備えてアオユキさんによるモンスター部隊の指揮練習台に使わせて頂きますわ」
アオユキの『天才モンスターテイマー』の名前の通り、テイムしたモンスターとリンクを繋ぎ五感を共有することが出来る。
その能力を使ってモンスターの指揮官のように行動を指示し、軍隊の兵隊の如く戦わせることが出来るのだ。
普段は『奈落』や『巨塔』周辺監視、地上に散らばった者達からの連絡受け取り程度にしか使っていない。
だが今回、相手が弱い獣人種とはいえ約2000人、世界から切り離された隔離空間に居るのだ。
ここなら外部から監視され、情報を抜かれる心配もない。
地形が変化するような強い力を使っても、最終的には元に戻るため手加減の必要もない。
実際にアオユキに指揮をさせて、モンスターを動かし戦わせる練習台として非常に優れた状態なのだ。
エリーは青ざめている獣人種達に改めて向き直ると笑顔で告げる。
「では獣人族の皆様――少しでもライト神様の益になるよう、頑張って死んでくださいね?」
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