30話 乖離世界の世界
突如現れた炎の壁が、突撃してきた獣人種達を足止めする。
ミヤが驚き呆然としていると、炎の壁を作り出した者が声をかける。
「ミヤちゃん、助けに来たよ」
「だ、ダークさん……」
ミヤはまさかこんな場所でダークと顔を会わせるとは想像しておらず、すぐに反応することが出来なかった。
呆然としていた彼女が意識を取り戻すと、慌てた様子でダークへと迫る。
「だ、ダークさん!? ほ、本当に本物のダークさんですか!? だとしたら、ど、どうしてこんな所に!?」
「落ち着いてミヤちゃん。僕は本物のダークだよ。『巨塔の魔女』様とはエルフ女王国関係で知り合ってね。その『巨塔の魔女』様から、人質になっている人種達の救出協力を依頼されたんだ。その人質のリストにミヤちゃんも入っていると知って、助けにきたんだ。間に合ってよかったよ」
「ダークさん……」
ダークの言葉にミヤが胸を押さえ、頬をさらに上気させる。
『巨塔の魔女様から、人質になっている人種達の救出協力を依頼された~』云々は、殆ど作り話だ。
実際は、ダーク=ライトが命じて人質達の救出を実行している。
本来であればライトが、前に出て人質救助などする必要はない。
今回わざわざ『ダーク』として姿を現したのも、人質救助をダーク達の名声を上げる実績の一つにするためだ。
ミヤにわざわざ事実を教える必要はないため、口にする必要はないが。
ダークは懐から『SSR、転移』カードを取り出し告げる。
「それじゃ炎が消える前にミヤちゃんも安全な場所――『巨塔』へと転移しようか」
「あっ! ま、待ってください! 実は街にわたしのお友達が倉庫に居て――」
「大丈夫。『巨塔の魔女』様が『人質は全員助けた』って言っていただろ? 今頃、その友達も『巨塔』に転移済みだよ。だから安心して」
「は、はい。ダークさんがそう仰るなら」
ミヤはそれ以上、何も言わずダークの指示に従う。
ダークはミヤが落ち着いたのを確認して改めて『SSR、転移』カードを使用する。
「転移、『巨塔』へ。解放」
ダークの言葉と同時に彼とミヤの姿が戦場から消えてしまう。
炎が消える頃、約2000人居た人種達は全て消えてしまっていた。
残っているのは『巨塔の魔女』のみだ。
移動に使ったドラゴンすら姿を消していた。
この事実にタイガ種族長レバドが歯ぎしりする。
「クソが! まんまと逃げられやがって……ッ」
見せしめにヒューマンどもを殺すどころか、誰1人傷つけることすら出来ず逃げられた事実に、レバドが黒い毛皮が赤くなる勢いで怒る。
一方で、ウルフ種族長ガムが冷静な態度で『巨塔の魔女』を睨む。
「落ち着けレバド族長。ヒューマン達が魔女に誑かされ、1人も殺せずに逃げられたのは痛手だが、まだ自分達は健在だ。魔女も逃げずに残っている。ドラゴンの姿がないのもチャンスだ!」
「……そうだな、確かにチャンスだな」
レバトは言葉ではそう言ったが、『巨塔の魔女』が人質達と一緒に逃げず、その場に残っている事実に不気味さを感じる。
逃げるタイミングを見失っただけならまだマシだが、『ここから何か作戦でもあるのか?』とつい疑ってしまう。
(まさかこれからエルフ女王国を陥落させたように大量のドラゴンを今から呼び寄せるつもりなのか? だとしたら貰ったマジックアイテムを使うか、もしくはドラゴンが来る前に速攻であの細首を切り落とさなければ!)とレバドが思案する。
似たようなことを隣に立つガムも考えているようだ。
大量のドラゴンを呼び寄せられたり、他計略などを仕掛けられる前に、獣人達を嗾けて『巨塔の魔女』を殺害しようと企むガムとレバド達だが――彼らより早く彼女が動く。
彼女は1本のナイフを取り出した。
持ち手は黄金で、両刃の表面にはびっしりと文字が刻まれている。
芸術品としての価値は高そうだが、武器としては短すぎるために戦場には不釣り合いなナイフだ。
『巨塔の魔女』はそんなナイフを迷うことなく足下の地面に突き刺す。
ナイフは根本まで何の抵抗もなく刺さる。
それだけでは終わらない。
刺さったナイフの柄にはめ込まれた宝玉が発光。
次の瞬間、刺すような光線を形作り、ぐるりと光を走らせ一周する。
「な、なんだ! あの光は!?」
「うぉッ!?」
「光が通り過ぎたぞ!」
光線が動いた際に、一部の獣人種の足下を突き抜けた。
光自体に害は無いため、獣人種達も驚きはしたが被害は特に無い。
このナイフの効果はもっと別な所にある。
「……? なんだ? 空が赤い?」
最初に1人の獣人種が気付く。
空がいつのまにか赤くなってしまっていた。
さらに燦々と輝いていた太陽が黒く塗りつぶされ、周囲から立ち上る光も黒く染め上げられていた。
青く茂っていた草原も、気付けば枯れ果てカラカラに乾いた大地をさらけ出す。
先程まで立っていた場所から一歩も動いていないのに、一瞬で別世界に連れてこられたように世界が変わり果ててしまう。
「な、なんだこれ!? なんだよこれは!?」
「俺が分かるかよ!」
「どうなっているんだ! 一体、どうなっているんだよ!?」
流石に状況について行けず獣人種達が混乱し、動揺する。
ガム、レバドも困惑し、動揺してしまっているが、部下を落ち着かせようと族長として声を張るも、混乱は収まらない。
彼らの混乱を治めたのは『巨塔の魔女』――いや、『SUR、禁忌の魔女エリー レベル9999』だ。
エリーは顔を隠してたフードを取り、軽く髪を整えて澄んだ声音で告げる。
「『乖離世界の世界』。稀少な神話級を使ってまで貴方達を逃がさないよう隔離、閉じこめさせて頂きましたの」
動揺していた獣人種の視線がエリーへと集中する。
世界を隔離したため、姿を偽る必要のないエリーは隠す必要がなくなった狂気を表に出す。
「さぁ虐殺を始めましょうか」
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