24話 宣戦布告準備
獣人連合国首都、中央にある屋敷の大部屋に5部族族長が一同に集まる。
座席の位置で揉めないように、椅子やテーブルはなく、毛足の長い絨毯の上に車座になって腰を下ろすことになっていた。
話を進める議長は持ち回りでおこなわれており、再び獣人タイガ種族長のレバドが議長を務める。
レバドは頭から尻尾の先まで黒いヒョウで、右目から額にかけて深い傷が走っていた。
傷のせいもあり非常に厳つく圧力のある印象で、同族の若者達からも怖れられていた。外見の威圧感だけではなく、中年に差し掛かる年齢だが肉体は頑強で戦闘能力が高く、単純な強さでも若者達から恐れられている。
そんなレバドが、議長ということもあり威圧感を抑えた声音で話を進める。
「ウチの若者どもを含めて、ウルフ種や翼人種の積極的な協力もあり、まともに戦えそうなヒューマンが約2000人、人質となるヒューマンが約1000。合計約3000人が確保できた。……近くの村は襲い終わり、街道を移動するヒューマン達の警戒心も強くなり過ぎた。ここらが潮時だと思うが、どうだろう?」
「ワシらはレバド殿の意見に賛成ですな」
「……自分達、ウルフ種も賛成だ。そろそろ準備を終えて計画を実行に移すべきでしょうな」
レバドの問いにすぐさま頭がツルリと禿げた人種に似た顔だが、両腕が鳥のように羽で覆われた翼人種族長イゴルと、垂れた耳が特長的なウルフ種族長ガムが賛同の声音を上げた。
反対に面白く無さそうに5部族で最も体格が良い獣人クマ種族長オゾが、腕を組み煙管をくわえたまま口だけで上下に揺らす。
まるで不機嫌な猫の尻尾のようだ。
同じく眉間に皺を寄せ、オゾ同様あからさまに『機嫌が悪い』と表現している族長の中で紅一点の獣人ウシ種族長ベニが、返事をせず黙り込む。
3人の視線が2人に集まる。
獣人クマ種族長オゾが心底不機嫌そうな表情で煙管を片手に口から離すと、重い声音で漏らす。
「オイは反対ぞ。こんなこと正気じゃなか」
「ワタシもオゾさんと同意見です。人種が相手だからと言って、いくらなんでもやり過ぎですわ」
「お2人とも今更そんなこと言われても困りますな。これは族長会議で決まったことでしょ? 第一、村を襲ったり、街道を移動中だったヒューマンを捕まえて誘拐してきた以上、もう後戻りは出来ないんだよ」
議長を務めるレバドが強い口調で2人に釘を刺す。
ベニは後ろめたそうに視線を逸らすが、縦にも横にも大きいオゾは眼力を強めレバド達を逆に睨みかえす。
『…………』
族長会議の場に一触即発の空気が漂い始めた。
非戦闘員である翼人種族長イゴル、獣人ウシ種族長ベニの顔色が緊迫した空気に当てられ悪くなる。
1分ほど経過した後、さすがに場を取り仕切る立場の議長レバドが軽い調子で肩をすくめると、軽い調子で話し出す。
「――オゾ族長、ベニ族長、個人の感情はともかく族長会議で決まった事柄を蔑ろにするのは感心しませんな。獣人種が今まで生き残ってこられたのも、一族の垣根を越えて団結し合ってきたからこそ。そのための族長会議だということをお忘れ無く」
「……分かっておるわい」
「ワタシも忘れたことなどありませんわ」
レバドが今回の議長らしく、不満顔の2人に深く釘を刺す。
再び空気が悪くなるより速く、さっさと話し合いを進めた。
「では、ヒューマン狩りで戦力は十分整った所で、『巨塔の魔女』を謳う売女に宣戦布告する準備に取り掛かるとしようか」
レバドの進行で獣人連合国が『巨塔』へと宣戦布告する日時、決戦場所、各部族の役割決めなどを話し合う。
一部不満を持つ族長達が居るものの、話し合いは順調に進んでいく。
部屋の隅に居る小動物の存在に誰も気付かずにだ。
☆ ☆ ☆
族長会議の話し合いによって獣人連合国が『巨塔』への宣戦布告、戦端を開く場所と日時などが決定する。
その情報は獣人ウルフ種ガムを通してヒソミの分体から、本体へと届けられた。
本体であるヒソミは、竜人帝国のとある場所でリーダー格であるヒロへと情報を伝える。
「ついに、獣人連合国が『巨塔』とぶつかる日時が決まったんですね。ボクの予想よりずいぶんと早いですが、大丈夫なんですか?」
「小生の分体曰く、話を聞く限り問題なさそうですよ。身体能力しか取り柄のない獣人種の割りにはまあまあ頑張ったようですね」
竜人帝国に席を置くマスター達のまとめ役、リーダー役を務めるヒロが不安げな表情で尋ねる。
見た目、人種王国の王子より王子らしい、キラキラと輝き出しそうな華美な衣装に袖を通している。さらに本人は衣装に負けないほどの美形で、背丈も高く非常に似合っていた。
胡散臭い細目のヒソミが、ヒロの問いに獣人種を小馬鹿にしたような返答をした。
ヒロも彼の認識を否定せず、あっさりと流す。
彼らにとって獣人種など頭が悪く、身体能力しか取り柄のない二足歩行で歩く動物と変わらないらしい。
ヒソミがフォローを口にする。
「ヒロ殿が不安を感じるのは理解できますが、獣人種程度だって、策を与えてマジックアイテムも与えたんですから、勝利できずともそれなりに情報を引き出す程度には役に立ちますよ」
「だといいんだけど……。全滅してもいいからちゃんと『巨塔』が何者か、『C』に関係しているのか、相手の戦力はどれ程か等の情報を得られることを願わずにはいられないよ」
ヒロとヒソミにとって、獣人種など情報を得るための道具でしかない。
獣人種が全滅しても彼らにとっては、たいした問題ではないのだ。
「ところで、彼らが『巨塔』とぶつかる際、監視役は小生以外いませんかね?」
「うーん……ちょっと難しいかな? ボクは相変わらず調整、交渉役で忙しいし他の皆は『P・A』で忙しいから」
「あの、黒殿は?」
「……カイザーさんの護衛、みたいな」
「カイザー殿は『P・A』の中核、設計などで忙しいのは分かりますが、黒殿は側にいるだけじゃないですか! もう本当に人手が足りないんだから小生の手伝いをしてくれてもいいのに……」
「他2人も『P・A』のために海底に行って忙しいし……なんだか申し訳ない。いつもヒソミさんばかりに負担をかけている様で」
「ヒロ殿が謝る必要はございませんよ。小生達のため調整役として忙しく走り回ってくれているのですから……。はぁ、黒殿がカイザー殿にべったりなのも過去のことを考えれば理解できますが、もう少し融通が利いてくれるとありがたいのに。あれで実力が小生達の中でヒロ殿と1、2を争うほど強いとか、詐欺ですよ」
ヒソミは一通り愚痴った後、気を取り直す。
「とりあえず当日、小生自身が現地の状況を確認してきます。時間を作るため、ヒロ殿に仕事の一部を任せるかもしれませんが、お願いします」
「その際は遠慮無く言ってくださいね。代わりに情報収集はお任せしますんで」
「出来る限り努力しますよ」
ヒロとヒソミは、『巨塔』と獣人連合国がぶつかり合う際のやりとりを話し合う。
こうして誰も止めることなく戦争準備が進行していくのだった。
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