17話 手のひら返し
今日は17話を昼12時、18話を17時にアップする予定です(本話は17話)。
今日も1日が終わる。
夜のとばりが下りて、冒険者ギルドにはダンジョンから帰還した冒険者達で溢れ出す。
長い期間篭もっているため、臭いがキツイ者達が多い。
そんな中、僕達は臭いどころか、汚れ一つ付いていない姿で受付の列へと向かう。
僕達の姿に気付くと、一度魔石の売買で押し問答を繰り返し睨まれ、『ヒューマンの癖に生意気よ……ッ』と小さく文句を言っていたドワーフ種受付嬢がカウンターから飛び出してくる。
彼女は以前の態度が嘘だったかのように大歓迎してくれた。
「ダーク様、今日も無事にお戻り頂き嬉しく思います! お疲れではありませんか? 夕食を準備させましょうか? それともお酒の方がよろしいでしょうか?」
「いえ、どちらも大丈夫ですよ。先に精算をお願いしても?」
「はぁい! もちろんでございます! 今日も大量の魔石ありがとうございますぅ!」
受付嬢に返答すると、彼女は空いているカウンターへとすぐさま移動する。
大量の魔石を入れた袋を担ぐゴールドが、その背中を見送り、
「……ある意味、気持ちの良いぐらい見事な手のひら返しだな。つい最近まで『ヒューマンが~』と五月蠅かったのにな」
「自分としてはダーク様に色目を使うのが許せません……ッ」
ゴールドが呆れた声音を漏らし、ネムムが頬を膨らませる。
僕は仮面の下で微苦笑を漏らしながら、カウンターへと向かった。
ゴールドに持たせている袋をカウンターの上へと置かせた。
受付嬢はまるで金銀財宝を前にしたかのようにとろけた表情を浮かべる。
「はぁぁぁぁ~、今日も5階層イエティーの魔石がこんなに……ッ! さすがダーク様ご一行です! 素晴らし過ぎます!」
なぜ受付嬢の態度がこれほど変わったのか?
5階層は雪原で、そこに住むモンスターの魔石は氷属性を持つ。
物を冷やしたり、武器防具に属性を持たせるのにも使用される。しかし、需要に対して供給が圧倒的に少ないのだ。
この街のダンジョンの階層は――1階層が草原、2階層が荒野、3階層が沼地、4階層がジャングル、5階層が雪原となる。
4階層のジャングルは鬱蒼とした森が広がり、方向感覚に優れた獣人種でも迷うレベルだ。
故に5階層の雪原に到達できる冒険者が極端に少ない。
だが僕達は『SR、飛行』があるため方向感覚を狂わせるジャングルなど関係なく、空を飛んで階段まで移動し、5階層の雪原に到着できた。
結果、日帰りで大量の氷魔石を抱えて戻って来たのだ。
圧倒的供給不足の氷魔石を前に受付嬢は土下座で謝罪。
涙目で訴えかけてきた。
『先日は大変失礼しました! 今後はあのような失礼な態度を取らないようわたしを含め、ギルド員にはきつく申し渡しますので! どうか、どうか活動場所を変更等しないで下さい! お願いします! 氷魔石をたった1日で大量に持ち込む冒険者にひどいことを言ったなんて知られたらわたしの身どころか、この街のギルド員全員の首が危ないんです! 冒険者ランクも特例で駆け出しから、1人前に2階級特進させるのでお願いします!』
氷魔石を必要としているのは飲食店だけではない。
氷属性を付与する時に必要なため、武器・防具関係でも需要があり、研究用としても引く手あまただ。
故に需要に対して供給が圧倒的に不足しているのである。
なのに1日で大量に持ち込む冒険者を『ヒューマンが』と見下し馬鹿にして見限られ、他ダンジョンに向かわれたら……。
物理的に彼女達の首が飛びかねなかったのだろう。
お陰で冒険者ランクが上がり、顔を出すと文字通り下にも置かない対応を取られるようになってしまったのだ。
「ありがとうございます! ありがとうございます! 次回も是非よろしくお願いします!」
精算を終えると、受付嬢の熱い視線と共に見送られカウンターを離れる。
そんな僕達を待ち構えていたかのように一部冒険者が大声で挨拶をしてくる。
「坊ちゃん、姐さん、兄貴、お疲れ様です!」
『お疲れ様です!』
「なんだお主達、今日も酒場で飲んでおったのか」
冒険者ギルドに併設されている酒場で、以前僕達に絡んできた熊獣人とその部下達が席から立ち上がり、挨拶してくる。
僕達に絡んできた後、無力化。その後、ゴールドが『我輩が直々に騎士道精神を教えてやる』と言い出したので任せた。
熊獣人達はどうやらゴールドに『騎士道精神』を叩き込まれたせいか、非常に礼儀正しくなったのだ。
特に僕達を見かけると酒場だろうが、街中の路上だろうが僕のことを『坊ちゃん』、ネムムを『姐さん』、ゴールドを『兄貴』と慕い深々と頭を下げてくるようになる。
これがゴールドの言う『騎士道精神』なのだろうか?
(子供の頃に聞いた騎士様のお話や、『種族の集い』時代に耳にした『騎士道精神』となんか違う気がするような……)
僕は思わず首を傾げたくなるが、本人達は満足そうなので口にするのは野暮だろう。
ゴールドは熊獣人達を前に楽しげに声をかける。
「主よ、折角だから我輩はこ奴らと一杯ひっかけたいから今夜はここで別れて良いか?」
「マジですか兄貴! だったら坊ちゃん、姐さんも一緒に飲みましょうよ!」
初対面で見下してきた熊獣人が、ヘコヘコ頭を下げ誘ってくる。
彼の誘いに部下達が先に声をあげた。
「ね、ネムムの姐さん! 是非おいらの隣で飲んでください!」
「オマエのような臭い奴が隣じゃ姐さんが飲める訳ないだろう! だから是非オラの隣で!」
「いいや、姐さんは俺の隣で――」
部下達のお誘いにネムムは心底嫌そうに鼻までマフラーを押し上げ、拒絶する。
「話しかけるなうざい」
一刀両断され、部下達が肩を落とす。
雰囲気を変えるように熊獣人がするりと再び提案してきた。
「坊ちゃんもたまにはどうですかい? 俺様も――俺も坊ちゃんぐらいの年齢の時は既にがばがば飲んでいたので問題ありませんよ」
一応飲酒は15歳からと決まっているが、律儀に守っている者は少ない。
ただ子供の頃から酒を飲むと健康に良くないとは認知されているため、親は幼すぎる子供には飲ませないよう気を付けてはいるらしいが。
この提案にネムムが割って入る。
「ダーク様に悪い遊びを教えるな! ダーク様にはまだ早い」
「いやいや、姐さん、別に早くはありませんって。それに酒を飲むぐらいなら全然健全ですよ。悪い遊びって言うのはクスリで頭を回しながら、女とやるとかですって。アレは脳味噌が破裂するぐらい気持ちいいんですが、あんまりやり過ぎると頭が馬鹿に――ごぶっ!」
「ダーク様の前で下品なことを言う奴があるか!」
「ありがとうございます! ありがとうざいます!」
熊獣人はネムムに殴られ強制的に台詞を止められる。
彼は鼻血を流しながらも、心底幸せそうな表情でお礼を繰り返した。
そんな熊獣人の姿を見て、
「オヤブン狡いッス! オラもお願いします!」
「姐さん、おいらにも!」
「いえこんな奴らより俺を殴ってください!」
他にも獣人達がわらわらと『殴ってください』と集まり声をあげる。
あまりの光景に僕は思わず仮面の下で笑ってしまう。
「オマエ達は本当に最悪だな……」
僕は笑ってしまったが、ネムムは『殴ってください』と集まる男達を前に心底嫌そうな表情で蔑んだのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
受付嬢&先輩冒険者の手のひら返しを書かせて頂きました。
手のひら返しシーンはどちらも書いていて楽しかったのですが、特に先輩冒険者達がネムムに殴られて『ありがとうございます』と言い出すシーンは、個人的にも後で読み返して笑ってしまいました(笑)。
シリアスも書いていて楽しいですが、コメディもやはり書いていて楽しいですね。
また今日も2話を連続でアップする予定です。
17話を12時に、18話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は17話です)。
では最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




