22話 獣人種大虐殺へ
獣人種が人種を積極的に誘拐している理由は、ミヤ達が囚われている倉庫見張り番達が雑談として話していたため、楽々情報を得ることが出来た。
その理由とは――『人種絶対独立主義』を掲げる『巨塔の魔女』に獣人連合国として宣戦布告、勝利するための準備だった。
人種奴隷を購入したり、村を襲ったり、街道を移動中の旅人を誘拐などをして限界一杯まで集める。
集めた人種達の家族、恋人、親友などを特定し脅した後に可能な限り人質として隔離。
『人種絶対独立主義』を掲げる『巨塔の魔女』に獣人連合国が宣戦布告し、大切な人達を人質に取った人種の戦える男や女性冒険者、魔術師などを『巨塔の魔女』にぶつけるつもりらしい。
『巨塔の魔女』は『人種絶対独立主義』を掲げている以上、人種に手を出し辛い。
人質を取られている人種は逃げることも出来ず、文字通り死にものぐるいで戦うことになる。
他国からの物資面等含む協力もあり、『巨塔の魔女』や使役するドラゴンの動きを押さえつけておくことも可能。
そうなれば人種同士を戦わせることで、獣人連合国側の被害はほぼ出ないで済むかかなり少なくなり、かかった費用は勝利すれば『巨塔の魔女』やエルフ女王国を救うことによって徴収し補填し得る。
さらには、さらってきた人種や人質の人々を奴隷として売りに出すことも出来る。
まさに一石数鳥の作戦である。
全てが獣人種内部、獣人連合国内部で考えられている自らに都合の良い妄想で――人種の尊厳、感情を踏みにじり、ゴミを捨てるように命を消費させようという邪悪を通り越して、おぞましさすら感じる行為であることを無視すれば、だ。
「獣人種ぅううぅッ!」
僕は報告を聞いて、『奈落』最下層の執務室で怒りにまかせて声をあげてしまう。
報告に来たメイ、アオユキ、エリーが、僕の怒りの声に怯えて顔を青くし、微かに震える。
例え自分達に向けられた怒りではないと理解していても、レベル9999の実力者達でさえ肌を震わせるほどだ。
執務室の端に立つ妖精メイドなど今にも泣き出しそうな青い顔でガクガクと足を震わせる。
僕自身、彼女達が怯えているのを理解しつつも、獣人種のあまりの行いに怒りを抑えきれなかった。
家族、恋人、友人など大切な人を人質に取り、自らを安全圏に置いて操った者達の命を使い捨てるという獣人種のやり方を、僕はどうしても許せなかったのだ。
故郷を失い、両親を何者かに殺され、にーちゃんは行方不明、唯一妹ユメだけはどうにか無事に保護することが出来た。
もし妹ユメが、獣人種の人質に取られていたら――と考えるだけで怒りが後から後から止めどなく湧いて来るのだ。
獣人種の今回のおこないは、僕の逆鱗に触れた。
「獣人種共は一体何を考えている! 家族や恋人を人質に取って戦わせるだと? いくらなんでも許されないだろ! それともそんな悪魔のような所業は、人種に対してならば許されると言うのか!? だとすれば僕達は家畜以下の存在だとでもいうのか!? クソがッ!」
怒りと共に拳を執務室の机に叩き下ろす。
レベル9999の腕力で怒りにまかせて拳を振り下ろしたせいで、机は真ん中から割れて破壊されてしまう。
激しい音、怒声が扉の外まで響く。
僕は荒くなった呼吸を整えて、声をあげる。
「アオユキ!」
「はっ!」
彼女は名前を呼ばれると、一歩前に出て膝を突き頭を垂れる。
「獣人種共の企みを根本から叩き潰す。そのためにも奴らに捕らえられている人種、獣人種に使役されている人種奴隷達の位置を全て把握する必要がある。地上に構築した情報網を一時中断して構わないから、把握は出来るかい?」
「――ライト様はただ命じて頂ければ、アオユキの全身全霊を以て必ずや達成してみせます」
僕はアオユキの言葉に満足そうに頷く。
「ミヤちゃん達には悪いが、人質や奴隷全員を助け出すため、もう少し囚われたまま我慢してもらおう。下手に彼女達だけを救出して、相手に警戒される訳にはいかないからね。一応監視をつけて、命の危機になったら救出する手配だけはしておいてくれ。メイ」
「はい」
メイがアオユキのように一歩前に出て、膝を突く。
「獣人連合国から救出する人種達を『巨塔』に受け入れる。必要な物資、消耗品、人員など全ての使用を許可する。受け入れの準備を頼めるかい?」
「我がメイド道に誓って、ライト様のお望みを十全に叶えてお見せします」
「メイなら安心して任せられるよ」
次にエリーへと声をかける。
「エリー」
「ライト神様、何なりとお命じくださいですわ」
エリーも一歩前に出て膝を突く。
「エリーには獣人種達から宣戦布告された際に備えて人質と奴隷達の奪還と移送、戦場に立たされた人種達の救助の作戦立案を頼む。……そして、愚かにも戦場に立ち僕らを卑怯な手段で殺そうとしている獣人種達を、皆殺しにしろ。鏖殺だ。1匹たりとも逃がすな。自分達がおこなおうとしたことがどれほど愚かなことか、彼ら自身の命を以て分からせてやれ。その際、今回の戦場に最も適した神話級がある、その使用を許可する」
「!? あ、あの神話級をお使いになさるのですか!?」
『奈落』最下層宝物庫には、恩恵『無限ガチャ』から出た神話級の武具が3つ存在する。
ナズナのは本人が最初から所持しているため除外して――3年で3つなので、年に1つ程度神話級が排出されている計算だ。
ただし力は強力だが平時には扱いにくくピーキーだったり、代償が大きすぎたりなどもあるため、厳重に保管され将来に備えられていた。
しかし、戦場に立つ獣人種を皆殺しにするのに適している神話級が存在するため、それを投入しようとしているのだ。
ただし、かなりピーキーというか、特殊な神話級のためエリーが戸惑いの声をあげる。
「獣人種などわたくしや他『奈落』の戦力を投入すれば壊滅は容易いですわ。前回のヒソミにも使用を躊躇った神話級を獣人種如きに使用するのは些か勿体ない気がするのですが……」
「……確かにエリーの言う通り、僕達の戦力を投入すれば獣人種が数千、数万居たとしても殲滅させるのは容易いだろう。けど万が一にも、生き残りを出すなんてマネをしたくないんだ。僕は言ったよね? 『戦場に立った獣人種は皆殺し、鏖殺する』と」
エリー含め、メイ、アオユキが全身に重しを乗せられているかのように青い顔で冷や汗を流す。
僕が獣人種に対してどれだけ怒り、本気で『皆殺し、鏖殺する』つもりなのか伝わったようだ。
「戦場に立った獣人種は皆殺す。1人も生きて戻ることなど許さない。絶対にだ。だからこそあの神話級を使用する。エリー、出来るかい?」
「――畏まりましたわ。ライト神様の仰せの通り、1匹も生かさず、その命を悉く散らし、血と臓物で大地を赤く染め上げてご覧にいれますわ。全てはライト神様のお心のままに」
エリーは誰しもが見惚れするほどの所作で再度、頭を垂れる。
その姿はまるで絶対の神に自身の全てを捧げる信者のようだった。
僕は満足気に頷き、改めて皆に告げる。
「囚われている人種人質、奴隷達を救い出せ。今回の一件に関わり、戦場に立った獣人種達を殺せ。1匹も逃がすな。皆殺し、鏖殺しろ。僕は皆なら出来ると信じているよ」
「――是、全ては主のお望みのままに」
「我がメイド道に誓ってライト様のお望み全てを十全に、完璧にこなしてみせます」
「ライト神様の願いがわたくし達の願いですわ!」
僕の前に傅くメイ、アオユキ、エリーが爛々と輝く瞳で見上げてくる。
彼女達の姿に僕は満足そうに頷く。
この瞬間、獣人種大虐殺が決定したのだった。
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