20話 vs獣人種
「魔力よ、顕現し氷の刃となりて形をなせ、アイスソード!」
ミヤが素速くアイスソードを顕現させ、飛来してくる矢を弾く。
突撃した獣人×4名が足止めされたのを確認すると、敵のリーダー格のウルフ種が即座に矢を放って来た。
アイスソードで現在視覚を潰されている仲間の獣人達が追撃を受けないよう、援護したようだ。
ミヤはその状況判断の早さに内心で舌打ちをする。
だが、彼女も防御に徹しているばかりではない。
すぐさま状況が掴めず、呆然としているクオーネに指示を飛ばす。
「クオーネちゃん! 矢はわたしが防ぐから攻撃をお願い!」
「み、ミヤ! ちょ、ちょっと待って! どうしてワタクシ達が獣人種の冒険者達と戦わなければならないの!? ワタクシ達は別に敵意も無いし、襲われる理由も戦う理由もないわよね!?」
クオーネはミヤだけではなく、自分に襲いかかってきた獣人種達にまで訴えかける。
だが会話をしているその間に、初見殺しのアイスブレイクで目潰し・足止めをした4人の獣人種がダメージを回復させつつある。
ミヤがクオーネに叫ぶ。
「クオーネちゃん! わたしも理由は分からないけど、彼らが襲って来ているのは確かだから! 戦わないと駄目だよ!」
「で、でも……」
「俺達からすればそのまま大人しくしてくれるとありがたいけどな!」
回復した獣人種×4人は攻撃が来ないことを良いことに、再びミヤとクオーネに武器を持ち襲いかかる。
さすがに彼らの敵意を前に、もたついてる場合ではなくなる。
声を震わせながらも、クオーネは呪文を唱えた。
「ま、ま、魔力よ、顕現し炎を作り形をなせ、フレイムランス!」
4本のフレイムランスが突撃してくる獣人種×4人へ向かって飛翔する!
「チッ! 炎の槍かよ! 厄介な!」
獣人種が舌打ちし、突撃しつつも回避行動を選択する。
敵がこれで最短距離で向かってくることはなくなったので、この隙にミヤが追撃をしかけてもよし、誰か1人に攻撃を集中し、確実に殺害し相手の戦力を落とすもよし――のはずなのだが……。
「ははははは! 温い温い! 俺さま達を本気で殺すつもりがあるのかよ!」
「ぎゃははは! このヒューマン魔術師、実戦経験ゼロの素人だぜ! 超狙い目だ!」
クオーネの操る4本のフレイムランスにキレがない。
先程練習で木の幹に向けてフレイムランスを叩き込んだ際は、ミヤが称賛するほどの速度、威力、コントロールだった。
しかし、現在は見る影もない。
相手を殺害する覚悟がないため、攻撃が中途半端、相手に気を遣ったような攻撃になってしまっているのだ。
クオーネは優秀な魔術師だ。
『シックス公国魔術師学園4級魔術師』ではあるが……殺す覚悟が無い、殺意の無い攻撃などこの土壇場では何の役にも立たない。
敵のリーダー格の獣人種が『クオーネが穴だ』と気付き、執拗に攻め立てる。
彼女に狙いを定め、矢を連続で放ち続けた。
ミヤがその矢を全てアイスソードで防ぐ――が、突撃してくる獣人種の攻撃までは意識を割けなかった。
「ヒィッ!」
獣人種の1人が手にしたナイフを投擲すると、クオーネの足をかすめ、地面に突き刺さる。
運良く足に刺さりはしなかったが、クオーネは浅い傷の痛みに驚き、怯えてフレイムランスを解除。腰が抜けてその場に尻餅をついてしまう。
「クオーネちゃん!」
ミヤが慌てて彼女を庇うためにと駆け寄ろうとするが、
「一番厄介なオマエをフリーにさせる訳ないだろうが!」
「……ッ!」
矢の攻撃の他に獣人種×3名が、足下に転がっている石を拾いミヤの足止め狙いで攻撃を集中させる。
獣人種の腕力で投擲される石の威力は馬鹿に出来ず、ミヤは自身を守るため、アイスソードを防御に回さなければならなかった。
彼女はすぐさま攻撃用に無理をして新たなアイスソードを作り出そうとするが――それより速く獣人種の腕がクオーネに伸びる。
ショートソードを握った獣人種が、クオーネの頭を掴み喉元に刃を当てる。
「ひぃ、た、助けて、こ、殺さないで……ッ」
「黙ってろ。魔術を唱えようとしたら遠慮なく喉を裂くからな。赤髪の魔術師、それ以上抵抗するなら、こいつがどうなるか分かっているだろうな?」
「み、ミヤ……」
クオーネ自身、ダンジョンに潜ってモンスターを倒した経験はあるが、自身の身が危険にさらされたことは皆無だ。
当然、喉元に冷たい刃を押し当てられ、明確な殺意を向けられるのも初めてである。
その恐怖に逆らえず、年相応の少女のように怯えて涙をこぼすしかなかった。
ミヤ1人で残る獣人種相手に戦い、逃げ切ることは難しいというのもあるが……クオーネを見捨てることが出来ず、アイスソードを霧散させる。
投石をしていた獣人種が、ミヤへと近づき手にしている杖を奪う。
もう1人の獣人が背後に回って、ミヤの腕を縛り安堵の溜息を漏らす。
「そっちの金髪魔術師はともかく、こっちの赤髪魔術師はマジでやばかったな。こいつが金髪魔術師を見捨てて本気で戦っていたら死人が出ていたんじゃないか?」
「だな。金髪が足を引っ張ってくれたお陰で助かっちまったよ」
「てか、この赤髪は一体何者だ? これだけ強いヒューマンが居るなんて聞いたことないぞ?」
「赤髪魔術師の氷の破片で体中傷だらけなんだけど……ポーションを使っても怒られないよな?」
獣人種達は気が抜けたのか、口々に軽口を言い出す。
唯一、リーダー格の獣人種が強い声音で指示を叫ぶ。
「いいからさっさと拘束を終わらせろ! 人に見られて騒がれたらどうするつもりだ!」
リーダーに叱り飛ばされて、他獣人種が慌てて行動を開始する。
手足を縛り、口を塞ぐための布も取り出す。
さらにポーチから意識を奪うための薬品まで取り出し、布に染みこませていた。
クオーネは恐怖心から逆らう意思が最初から無く、彼らに声ひとつ上げることができずにされるがままにだった。
ミヤは彼らを睨みつけながら、問いかける。
「わたし達をどうするつもりですか?」
「……この状況で心が折れず、まだ俺達を出し抜く算段を立てているとは大したタマだな。ヒューマンじゃなくて獣人種だったなら、嫁に欲しいぐらいだ」
「…………」
ミヤが機嫌悪そうにさらに瞳を吊り上げ、睨む。
リーダー格の獣人種が鼻息を一つして、拘束されたミヤを見下ろす。
「悪いが、詳しい話は後だ。目を覚ましたら教えてやるよ」
薬品を染みこませた布でクオーネが意識を奪われる。
次にミヤの口元に同じ布が押し当てられた。
ミヤは意識を失う寸前まで、リーダー格を含めた獣人種達を睨み続けたのだった。
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