19話 不意の戦闘
「――魔力よ、顕現し氷の刃となりて形をなせ、アイスソード!」
ミヤが呪文を唱えて1本のアイスソードを作り出し、高速で撃ち出す。
クオーネが4本のフレイムランスで突き刺した幹に、『ズドン』と重い音を響かせてアイスソードの刃を半ばまで突き立てる。
「へぇ、やるじゃない」
クオーネは1魔術師として、ミヤの力量を前に無意識に独り言を漏らす。
彼女の想像よりずっと高いレベルで攻撃魔術を使ったことに驚いてしまったのだ。
ミヤが振り返り、感想を求めてくる。
「わたしの魔術はどうかな?」
「流石、ワタクシのライバルと言った所ね。詠唱速度、魔力の量、展開速度、コントロール全てが高いレベルで纏まっていたわ。しかも1本のアイスソードに集中したとはいえ、あそこまで攻撃魔術の威力を高めるなんて、なかなか出来ることではないわ。ミヤ、本当に貴女、公国魔術師学園に通ったことはないの? 並の生徒よりレベルが高い気がするんだけど」
「クオーネちゃんにそこまで言ってもらえて嬉しいよ。多分、冒険者生活を何年もしていたから、実戦で色々学べたのが大きいと思う」
特にエルフ種カイトとの戦いはミヤにとって大きな経験となった。
レベル1500の怪物が相手だろうと、攻撃魔術アイスソード1本だけでも色々戦い方があり、格上の攻撃を防ぐ防御技術や、不意を突きダメージを与える方法などがあることを知った。
文字通り命懸けでだ。
以後、彼女は薬学勉強の暇を見つけては魔術の応用・工夫などに手を出す。
試行錯誤するので無駄になることも多かったが、クオーネが手放しで称賛するほど、アイスソードの単体の威力をあげる方法を発見することも出来た。
決して、ミヤの努力は無駄ではないのだ。
「学園の校外学習でダンジョンに潜ってモンスターと戦ったことはあるけど、本格的に冒険者として潜ったことはなかったわね。この機会にワタクシも冒険者登録してミヤのように経験を積むべきかしら……?」
「クオーネちゃんが本気なら止めないけど……冒険者生活は大変だよ? モンスターに襲われて命を落とす危険もあるのは当然として、ダンジョン奥まで潜ったら2、3日お風呂に入れないのは当たり前だし、食べ物だって自分達で持ち運ばなくちゃならないから乾物が多くなるし、どんな時でも襲撃を警戒して気を張って無くちゃならないし……色々大変だよ」
「ミヤ……貴女も苦労したのね」
クオーネがしみじみと同情的な声音を漏らす。
「どうも冒険者家業はワタクシには向いてなさそうね……。でも、とりあえず決めることを決めちゃいましょうか」
「決めること? 何かあった?」
「何って、ワタクシの『紅蓮の片翼天使』のような、格好いい2つ名をミヤのために決めないといけないでしょ!」
「なんで?」
ミヤは思わず素で尋ねてしまう。
なぜ『紅蓮の片翼天使』のような痛い――否、少々風変わりな二つ名を自分に付ける必要があるのか、本当に理解できなかったのだ。
一方クオーネは当然とばかりに胸を張る。
「『なんで』って、ミヤほどの実力ある魔術師が2つ名も無いなんて恰好がつかないじゃない! 大丈夫、安心してライバルで親友のワタクシが付けてあげるから! こう見えてもネーミングセンスには自信があるんだから」
クオーネは自信たっぷりにウィンクを飛ばす。
完全にミヤの二つ名を付ける勢いだ。
彼女は腕を組んで考え込む。
「ミヤの攻撃魔術はアイスソードだから、氷、姫、オーロラ、雪原、雪の結晶――」
「ああああぁ……」
クオーネは真剣な表情でブツブツとミヤの二つ名を考え出す。
ミヤもクオーネが善意から申し出てくれているため、断ることも出来ずおたおたしていた。
「……ッ!?」
しかし彼女の動揺も長くは続かなかった。
あわあわとしていたミヤが、急に真面目な表情で警戒するように森を睨みつける。
彼女の雰囲気が変わったことにクオーネも気付き声をかけた。
「ミヤ? どうかしたの?」
「……クオーネちゃん、今日はもう街に帰ろう」
「?」
突然の提案にクオーネが首を傾げてしまう。
彼女が気付かないのも無理はない。
ミヤは冒険者として修羅場を潜ってきた経験がある。だからこそ、モンスターとはまた違う体にまとわりつくような悪意の気配に気付くことが出来たのだ。
ミヤはなるべく自然な立ち振る舞いでクオーネの手を取り、街へと帰ろうとするが――どうやら遅かったようだ。
がさがさと音を鳴らし、5名の獣人種男性が顔を出す。
狼が二足歩行したような者達がミヤとクオーネの前に姿を現す。
動きやすそうな革鎧に、武器はナイフ、短弓、大きくても鉈などがメインだ。速度、動きに重点を置いているのか、鎧も武器も軽量のものだ。
これだけなら森の奥でモンスター退治から帰ってきた冒険者に見えなくもないのだが……。
彼らの目はねっとりと重く、まるで獲物を見つけた肉食獣のような視線だった。
ミヤの警戒心が最大限警鐘を鳴らし、手に握る杖に力が篭もる。
その警戒心が正しかったことを、獣人種達は行動で示す。
「――貴重な人種の魔術師だ。怪我はさせても良いが殺すなよ。行け!」
リーダー格らしき人物の合図と共に、4人の獣人ウルフ種がミヤとクオーネに向かって駆け出す。
手にはナイフ×2、鉈、ショートソードを握り締めていた。
「ちょ、ちょっと何のつもり!」
「魔力よ、顕現し氷の刃となりて形をなせ、アイスソード!」
クオーネは突然の悪意に戸惑いの声をあげ、ミヤはすぐさま攻撃魔術を唱える。
いついかなる時も敵に襲われることを想定していたミヤは、最速で攻撃魔術を詠唱。
アイスソードを1本作り出すと、すぐさま突撃してくる獣人種に向けて飛翔させる。
「たった1本のアイスソードで何が出来る!」
「速度も遅くて温いんだよ!」
「所詮、魔術師といえど無能なヒューマンだな!」
余裕の態度で突撃してくる獣人種の声などミヤは完全に意識の外へと置き、発動のタイミングを計る。
互いの距離感、最大限の効果を発揮する地点までアイスソードを突撃させ、
「――ブレイク!」
1本だけ飛ばしたアイスソードはミヤの声にあわせて砕け散る!
砕けた氷の礫は細かく、鋭い破片へと変化し広範囲に散らばった。
シックス公国近くの街に移動途中、ゴブリンに襲われた際に使用したアイスソードの飛礫を、彼らにも使用したのだ。
高速で広範囲に氷の礫が散らばるため、初見での回避は非常に難しい。
予想通り、単純に真っ直ぐ突撃していた獣人種の足と、視界を潰す。
「ぐあぁッ!? 目が!」
「足に飛礫が刺さって……ッ」
「足だけじゃねぇ! 体中が傷だらけにされちまったぞ!」
「クソ! クソ! クソ! ヒューマンの雌ガキが!」
先制の一手で、相手の突撃を無事に止める。
ダメージは与えたが、敵の足を完全に奪えた訳ではない。ミヤは自分達の足では獣人種から逃げるのは不可能と判断し、自分とクオーネが助かるため、確実に相手を倒すことに意識を切り替える。
「魔力よ、顕現し氷の刃となりて形をなせ、アイスソード!」
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