17話 友達
「娘が失礼を働き、誠に申し訳ない」
シックス公国近くの街でも有数の商家の主が、対面ソファーに座るエリオとミヤに頭を下げる。
現在、エリオとミヤはミサンガ関係で絡んできた金髪の少女クオーネの父親、商家の主ゲトから謝罪を受けていた。
クオーネがミヤの身に着けているミサンガに興味を抱き、それを売れとミヤに絡んできた。
そこにモヒカン達が姿を現したのだが、彼らの人相や恰好からクオーネが『ミヤが危害を加えられる』と誤解を抱き、ミヤ達を引き留めた。
ミヤ達はクオーネの誤解だと説明したのが上手くいかず、ごたごたしていると行商人ヨールムが顔を出す。
彼も偶然通りがかり、何やら騒ぎが起きていたため野次馬として様子を窺うと、知り合い同士が揉め事を起こしていた。
ミヤ達は村人で街まで付いてきてくれた護衛で、クオーネは取引先の娘だ。
故にヨールムが間に入って、ミヤと一緒に誤解を解く。
翌日、クオーネの父ゲトが謝罪と、依頼のためミヤとエリオの2人を呼び出し、商会の応接室で先程の台詞を告げて頭を下げたのだ。
ゲトは髪が白く細身で、いかにもやり手商人といった風貌をしている。
だが、クオーネのような娘の父親というにはやや年齢が高すぎた。
そんなゲトが頭を上げると、今回の一件について改めて謝罪を口にする。
「あの子、クオーネは遅くに出来た子でね。初めての娘ということもあり、上の兄達も非常に可愛がり、甘やかしてしまって……。本当に申し訳ない」
「いえ、お気になさらないでください。最初は確かに色々ありましたが、途中からはミヤの身を案じてくれていたのが分かりましたので」
「そうなんだよ。口調や態度は強めだが、根は良い娘なんだよ」
エリオの言葉に、ゲトは父親らしい返答をする。
実際クオーネに絡まれはしたが、彼女は途中モヒカン達とミヤ&エリオが食事をすると知り、モヒカン達の厳つい見た目や人相を警戒して他人であるミヤ達を必死に守ろうとしたのも事実だ。
言動こそ上から目線だが、根は良い子なのは確かなのだろう。
ゲトがちらりと向かい側に座るミヤへと視線を向ける。
「……クオーネがミサンガを気に入ったのは本当だろうが……もう一つには、ミヤさんと友達になる切っ掛けが欲しかったんじゃないかと思うんだ」
「お友達、ですか?」
ミヤの言葉にゲトが頷く。
彼は滔々と語り出す。
「あの娘が言う通り、クオーネは公国の魔術師学園に通っていたんだが……現在は休学中なんだ。親馬鹿と思うかも知れないが、娘は魔術師として才能がある。才能はあるが……あくまで『人種としては』だったんだ」
クオーネは魔術師としての才能があり、若くして『シックス公国魔術師学園4級魔術師』を得たが――所詮は人種だ。
同期や後輩の他種がさっさと3級へとあがり、自身を追い抜いていく。
地元では天才ともて囃されても、他種からすれば凡才だっただけの話だ。
クオーネは魔術師学園で初めての挫折を味わう。
立ち直ることが出来ず、現在は学園を休学し病気療養という理由で実家の商家に戻ってきていたのだ。
「人種の魔術師は少ない。それが自身と同じ性別、近い年齢ならなおさらだ。ウチの娘は不器用だから、嬉しくなってもそれを表に出せずに絡むようなマネをしたんだろう。……迷惑をかけた上に、こんなことをお願いするのは厚かましいが……どうか娘の友達になってもらえないだろうか?」
本来ならば謝罪の場にクオーネが居ないのはおかしい。
だが、この場に彼女は居なかった。
理由は、ゲトがミヤに対して『クオーネの友達になって欲しい』と持ちかけるため、一時的に娘に席を外させていたのだ。
下手に同席させて、親から今口にしたような話が出れば、クオーネが反発する可能性が高い。
だからと言って、ここで伝えなければ、彼女はプライド的に『友達になって欲しい』などと言わないだろう。
故にゲトが泥を被る形で頭を下げているのだ。
『娘に甘い』と言えばそれまでだが……娘の性格を分かった上での親心とも言える。
ミヤもゲトの心情を察しているため、断る理由もないため素直に同意する。
「もちろんです。わたしも歳が近くて、魔術のお話が出来るお友達に出会えるなんて貴重なことですから」
「ありがとう、本当にありがとう」
ゲトはミヤの返事に、何度も頭を下げた。ミヤとの話を終えると、彼は娘であるクオーネを応接室へと呼ぶ。
彼女の口から高圧的にミサンガを要求し、絡んだことを謝罪させるためだ。
部屋に顔を出したクオーネも父から十分怒られたのか、最初に顔を会わせた時と違い借りてきた猫のように大人しくなっていた。
彼女は申し訳なさそうに謝罪の言葉と頭を下げる。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたわ。モヒカンさん達との事も誤解してしまって……」
「ううん、気にしてないからもう大丈夫だよ。それにモヒカンさん達は、話をする前までわたしも警戒していたからクオーネさんのことは言えないよ」
ミヤの言葉に、実際モヒカン達を見ていないゲト以外の間に、『だよな……』という納得の空気が漂う。
モヒカンという奇抜な髪型に加えて、トゲのついた肩パット、厳つい顔つきに背丈も高く威圧感がある。
10人中10人が『やばい』、『危険そうな人達』と感じるだろう。
それだけモヒカン達の見た目が警戒心を抱かせるほど厳ついのだ。
ミヤが空気を払拭するため、話題を振る。
「クオーネちゃん、折角こうして知り合えたんだから、わたしとお友達になってください。そして公国の魔術師学園について、色々お話を聞かせてもらえないかな? わたし、魔術師学園に興味があるんだ」
「しょ、しょうがないわね! それじゃお友達として色々ワタクシがお話しを聞かせてあげるわ!」
クオーネはミヤの申し出に嬉しさを隠しきれない態度をとり、声音を上げる。
「ここは店の応接室でくつろげないから、ワタクシの部屋に行きましょう!」
「エリオお兄ちゃん、行ってもいい?」
妹がエリオにお願いしてくる。
ここで拒否できる度胸はない。
エリオは笑顔で妹を送り出す。
「もちろん。でも、あまり遅くなるなよ?」
「分かってるよ、それじゃ行こう、クオーネちゃん」
「ええ、行きましょう。こっちよ! では失礼しますわね」
クオーネは一礼すると、ミヤの手を取り部屋を出る。
応接室に残されたゲトとエリオは互いに視線を合わせて、微苦笑を漏らし合う。
ミヤとクオーネは歳が近く、魔術師同士ということで話が盛り上がり、この日はそのまま泊まっていくことになった。
エリオが待つ宿屋まで使いの者が出向き今日は別所に泊まると報告。
そして翌日――。
☆ ☆ ☆
「それじゃ行きましょうか、ミヤ!」
「もうクオーネちゃんは強引なんだから」
ミヤは愚痴をこぼしつつ、微苦笑を漏らし2人一緒に街の外へと出る。
魔術師2人の向かう先は――。
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