16話 紅蓮の片翼天使
「その女の子が身に着けている赤い糸の腕輪。気に入ったわ。言い値を払うからワタクシに譲りなさい」
声に振り返ると、そこに1人の気の強そうな少女が立っていた。
魔術師風のマントを身につけ、金髪を縦ロールに巻いて、吊り上がった瞳をしている。背丈はミヤより頭一つ分高く、スタイルもミヤと比べると胸が大きい。
見た目から気が強そうな美少女で、立ち居振る舞いに非常に似合っていた。
彼女は無意味に縦ロールを腕で弾きながら、ミヤ達へと近付く。
ミヤは一瞬の迷いもなく拒絶する。
「大切な人からプレゼントされた物に値段なんてつけられません。行こう、お兄ちゃん」
「あ、おお」
ミヤにうながされて2人揃って彼女の脇を通り過ぎようとしたが、当然のように気の強そうな金髪の少女はそれを遮った。
「待ちなさい! 大切な人からのプレゼントなのは理解しましたが、ワタクシは欲しい物は必ず手に入れる主義なの」
少女は無意味にマントをはためかせ、片目を押さえて彼女なりの格好いいと思っているであろうポーズを取り、自己紹介を始める。
「ワタクシの名はクオーネ! 人呼んで天才魔術師、『紅蓮の片翼天使』!」
「「…………」」
エリオ、ミヤ兄妹は、今まで生きてきて出会ったことのないタイプ――中2病タイプを前にどんな反応すればいいか分からずフリーズしてしまう。
クオーネは自身の自己紹介が2人を圧倒していると錯覚し、さらに調子に乗って口を開く。
「ワタクシはシックス公国魔術師学園に通う4級魔術師。見たところ貴女も魔術師のようね。なら、その腕輪を賭けて勝負しましょう」
ちなみに『シックス公国魔術師学園4級魔術師』はどの程度の実力なのか?
これはシックス公国魔術師学園が定める階級で、大雑把に定義すると……。
1級――戦術級を扱える魔術師。1流。
2級――攻撃魔術の詠唱破棄が出来る準1流。
3級――攻撃魔術の詠唱破棄は出来ないが、詠唱短縮が出来る2流。
4級――学園が認めた一般的な実力がある魔術師。
5級――魔術師見習い。
以上だ。
つまり4級とは魔術師にとって最高峰の学園が『一定以上の力量を持つ魔術師』と認めた存在ということだ。
一般的に田舎で学ぶ者や自己流で修行する魔術師と比べて、高い実力を持つと考えられている。
クオーネは片目を押さえていた手を大きく動かし、ミヤへと突きつける。
「勝負の内容は街を出てどちらがより多くのモンスターを狩れるか。もしワタクシが勝負に負けたら貴女を『公国魔術師学園』に推薦してあげてもいいわよ」
「――確かにわたしも魔術師ですが、お断りします。先程も言ったようにミサンガは大切な人からのプレゼントですから。どんな条件でも、大金を積まれても決してお譲りすることはありません。失礼します」
ミヤは彼女の勢いに驚きはしたが、出された条件を一顧だにせず再び却下する。
それだけダークからプレゼントされたミサンガを大切にしているのだ。
また彼女はミサンガを賭けの対象にされて内心で怒り、クオーネに対して珍しく冷たい態度を取る。
クオーネの脇を通り過ぎようとするが、再び彼女に止められた。
「ま、待ちなさい! 話はまだ終わってないわよ!」
「こちらに話をすることはもうありません。それにこの後、友人達と食事を摂る約束があるからわたし達、急いでいるので」
モヒカン達との食事会にはまだ時間があるが、クオーネを振り切るためミヤが言い訳として活用する。
しかしクオーネは引き下がらず、ミヤへとしつこく絡む。
「なら後日、勝負をしましょう。貴女達、この辺りでは見ない顔だし、冒険者か何かでしょ? 泊まっている宿を教えなさい。そして、後日、改めて勝負をしましょう!」
「いえ、ですからわたしは勝負をするつもりはないと――」
「ミヤちゃんとエリオさんじゃないですか、偶然っすね」
ミヤ、クオーネが言い合いをしていると、モヒカン達がタイミング良く通りかかる。
どうやら彼らも時間まで街を回って暇潰しをしていたらしい。
ミヤは『ナイスタイミング』と言いたげに、モヒカン達へと手を振る。
「ちょうど友人が来たのでこれで失礼しますね。皆さん、早速、無事にクエストを達成することが出来た打ち上げをしましょ――」
「ちょ! ちょっと待ちなさい!」
ミヤがモヒカン達に笑顔で駆け寄ろうとするのを、クオーネが慌てて腕を掴み引き留めた。
クオーネの方がミヤと比べて頭一つ分背丈が高く、体格的に腕を掴まれ引き留められると振りほどくのが難しい。
ミヤはあからさまな不機嫌顔でクオーネに振り返る。
「……なんですか。わたし達はこれからモヒカンさん達とクエスト達成の打ち上げをするので忙しいですが」
(う、打ち上げって何を言ってますの! あんな見た目が明らかにヤバイ奴等と一緒に食事を摂ろうとするだなんて! 騙されているのに決まっているでしょ! あんなナイフを舐めながら、脅してきそうな恰好しているやつらなんて! 絶対に食事に睡眠薬とか入れられて捕まって、奴隷として売り飛ばされるわよ! いえ、きっとその前に『へっへっへ、ちょっと味見するぜ』、『ひゃっはー! 役得だぜ』とか言って、ええええ、エッチなことをされるに決まっているわ! 特に貴女は可愛いんだから口には出せないような酷いことをされるわよ! 女の子なんだからもっと自分の体を大切にしなさい!)
クオーネの小声での指摘にミヤが羞恥心から顔を赤くし否定する。
「へ、変なこと言わないでください! あの人達は見た目こそ怖そうですが良い人達ですから」
(本当ですの~?)
「大丈夫です、信じてください」
クオーネが疑わしそうな視線を向ける。
ミヤは大きくなり始めた胸を張って断言した。
2人がやりとりしていると、ミヤ達の会話を眺めていたモヒカン達が雑談を始める。
「ミヤちゃん、もう街で友達が出来たのか?」
「あのくらいの年齢の女の子はすぐに友達が出来るもんだから、不思議じゃないぜ」
「そうそう。森で捕まえて奴隷商に売り払った女の子達も、すぐに同じ奴隷の女の子達と仲良くなっていただろ。そういうもんだって」
「ああ、確かに俺達が捕まえて奴隷商に売った女の子達もすぐに仲良くなっていたな。彼女達も元気でやっているといいんだが……」
「大丈夫だろ。『巨塔』に売り払われたって話だし」
モヒカン達の会話にミヤ、クオーネの間にある空気が凍る。
クオーネが限界以上に目を見開いて、ミヤの肩を掴みガクガクと揺らす。
「ほら見たことか! あいつらは貴女の幼い体を狙っているのよ! お金に困っていたら相談に乗りますし、弱みを握られているのなら力になりますから!」
「だから違いますって! 森で捕まえた云々も事情があるんです! だから貴女が考えているような人達じゃないんです!」
クオーネの迫力に負けないようミヤも力強く否定する。
彼女の強い否定にさすがのクオーネも考えを改めた。
「――つまり、あのモヒカン達の狙いは貴女ではなく……お兄さん!?」
「兄が狙いでもないですよ……。しかもなんでちょっと嬉しそうなんですか……」
クオーネはミヤの肩から手を離すと、兄エリオへ視線を向けて頬を染める。
ミヤはそんな彼女の態度に頭を抱えてしまう。
彼女の誤解をとくのに、もう少しだけ時間を要したのだった。
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