15話 呼び止め
行商人ヨールム、エリオ&ミヤ、モヒカン達が目指す街は、シックス公国の近くにあった。
シックス公国は名前が示すとおり、建前上は竜人帝国の植民地扱いになっているが、6種が出資し代表して竜人種が管理している国家である。
6種出資のお陰で、この世界でも経済的に繁栄した国の一つとなっている。
彼らが目指す街は、人種王国領土内部で最もシックス公国の近くにあるため繁栄していた。
乱暴な言い方をすれば、シックス公国の衛星都市に近いイメージである。
そんな街に向かう途中、ゴブリンに襲われたりなどしたが、無事に行商人ヨールム達は辿り着くことが出来た。
街に着くとヨールム、モヒカン達は冒険者ギルドへ。
モヒカン達はこの街までの護衛として雇われていたが、彼らが見た目と違って真面目で実力のある冒険者だと判明したため、ヨールムは帰り道も護衛を依頼しようとしたのだが――。
モヒカン達はシックス公国を通って竜人帝国へと入国する予定だとかで、そのためヨールムとの護衛契約もここまでが限界とのことだった。
エリオとミヤ達ともお別れだ。
とはいえ、モヒカン達も別にすぐにシックス公国へ向かう訳ではない。
数日ほどこの街に滞在して、情報収集をしながら体を休める予定だ。
なのでタイミングがあえば、まだまだダーク達の話をしたり、一緒に訓練したり、遊んだりしようと約束を交わす。
今夜も、無事にクエストを達成したのを記念して、打ち上げの食事会を開こうと約束していた。
エリオとミヤはモヒカン達と約束を交わすと、一度行商人ヨールムから離れる。
2人は村から街までの移動費などはヨールムに支払って貰っているが、滞在は別だ。
エリオとミヤは泊まる所すら決めていないため、まず宿屋を取らなければならなかった。
このままでは泊まる宿が無く、街で野宿するはめになる。
エリオとミヤは並んで歩き宿屋を探す。
「ミヤ、宿屋に希望とかあるかい?」
「お風呂なんて贅沢は言わないから、お湯が使える所が良いな。さすがにずっと野宿だったから……」
「別にそこまで汚れていないと思うけど? 第一ドワーフの街のダンジョンじゃ、2、3日ぐらい体を拭かなくても大丈夫だったじゃないか」
「昔は我慢するしかなかったけど、今は別にその必要が無いんだからいいでしょ! 今だから言うけど、エリオお兄ちゃん達、当時、本当に汗くさかったからわたし凄く嫌だったんだからね!」
エリオの指摘に怒ったミヤが頬を膨らませて抗議する。
妹の機嫌を損ねてしまったエリオは、すぐさま機嫌を取るためお湯で体が拭ける宿屋を探し出す。
――エリオの頑張りのお陰で、雰囲気が良い中級以上の宿屋を取る。
兄妹で一部屋を借りる。
値段のわりに整った内装や掃除が行き届き清潔な部屋だった。
店員からお湯の入った桶を受け取ると、
「お兄ちゃん、体を拭くから部屋から出て行って」
「別にわざわざ部屋から出なくても……」
「出て行って」
「……はい」
妹の迫力に負けてエリオは部屋を出る。
エリオ的には『兄妹なんだから別に半裸くらい』と胸中で考えつつも、素直に従う。
下手に妹に逆らっても、勝てないと理解しているからだ。
折角なのでタオルを手に宿屋の裏手庭にある井戸を借りる。
井戸から水を汲み、タオルを濡らしてガシガシと体を洗った。
(冬でもないのにミヤのようにお湯で体を拭くより、俺はこっちの方が性にあっているな)
ドワーフ国ダンジョンで冒険者をしていた時も、亡くなった親友ギムラとワーディと一緒に馬鹿話をしながら、こうして宿屋の井戸を借りて体を洗ったのは良い思い出だ。
3人とも着替えを忘れて腰にタオルを巻いて部屋に戻ったら、ミヤと鉢合わせして彼女が顔を真っ赤にして恥ずかしがり、怒られたのも良い思い出である。
少しだけ感傷に浸ったが、すぐに水で流す。
ミヤが体を拭き終わる頃を見計らい、エリオは部屋へと戻った。
☆ ☆ ☆
ミヤは体を拭き終えた後、兄エリオのためにお湯を再度お願いする予定だった。しかし彼は井戸で体を拭き終えたと言う。
ならばと、彼らは着替えをして、貴重品を手に宿を出る。
街に到着したのは昼前。
軽く宿屋で昼食を摂ると、街へと出かける。
モヒカン達との打ち上げ食事会まではまだ時間があり、それまで街を見て回ろうというのだ。
2人とも大きな街に来るのは久しぶりで、若者らしく胸を高鳴らせる。
「お兄ちゃん、ポーション店に行ってもいい?」
「構わないぞ。その後、武器防具の店に行ってくれるならな」
ポーション店は文字通りポーションを売っている店だ。
他にも薬や安価なマジックアイテムなども置いている。
ミヤは街の大きなポーション店で薬学関係に使えそうな薬や、最新のポーションの品質の確認などをしておきたいらしい。
エリオも冒険者を廃業したとはいえ、武器防具関係の店はチェックしておきたいようだ。
ミヤ自身、愛用している杖以外も一応チェックしておきたいため否の声はあげない。
安全も考えて兄妹は1人で行動せず2人揃ってそれぞれの店を見て回った。
最初にポーション店、次に武器防具関係の店を回る。
店を出た後、市場にも足を伸ばし屋台や露店などをぶらぶら見て回った。
娯楽の少ない自分達の村に比べてさすがにシックス公国近くにある街だけあり、人も店も比較できないほど多く、娯楽も溢れている。
村から出たばかりのお上りさんなら、浮かれてスリにあったり、因縁を付けられて金品を巻き上げられることもあるだろうが、エリオとミヤは2人ともこの規模の街に来たのは初めてではない。
浮かれて楽しみつつも、ちゃんと注意を払い市場、屋台を見て回る。
お陰でスリにもあわず、因縁を付けられチンピラに絡まれることもない――が、トラブルがゼロという訳ではなかった。
「――ちょっと、そこの赤髪の2人。兄妹かしら?」
エリオとミヤが声に振り返る。
2人の視線の先には1人の少女が立っていた。
魔術師風のマントを身につけ、金髪を縦ロールに巻いて、吊り上がった瞳をしている。
気は強そうだが美少女と表現して問題ない顔立ちで、自信ありげな立ち居振る舞いが非常に似合っていた。
気の強そうなお嬢様風の少女は、想像通りの気の強い声音で告げる。
「そこの女の子が身に着けている赤い糸の腕輪。気に入ったわ。言い値を払うからワタクシに譲りなさい」
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