16話 危機と逃走
今日は15話を昼12時、16話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は16話)。
「虫けら種族の分際で、僕様を待たせるとか不敬じゃないか」
人種の冒険者スバランが用を足し、仲間のところに戻ってきたと思ったら――そこにはエルフ種の見知らぬ若い男が立っていた。
蜂蜜色の金髪を後ろで縛り、宝石のような緑色の瞳に尖った耳を露出させている。
顔立ちも女性と見間違えてしまうほど整っていた。
ある意味、典型的なエルフ種の青年が幅広い大剣を手に立っていた。
側には先程まで楽しく会話をしていたパーティーメンバーのギルバートが首が胴体から切り離され、地面に頭を転がしている。
エルフ青年は、長年苦楽を共にしてきたギルバートの頭を足で踏みつけ、スバランの到着を待ち構えていたのだ。
「……ッ」
その姿を見て瞬間、頭に血が上って声をあげてしまったが、スバランはベテラン冒険者である。
仲間の理不尽な死はコレが初めてではない。
また相手はエルフ種で、どう見ても自分より格上の相手だ。
頭に血が上った状態のままでは、確実に命を落とす。
スバランは呼吸し、冷たい夜の空気で怒りを冷やす。
(落ち着け、落ち着くんだ……)
胸中で『落ち着け』を何度も繰り返し、自身に言い聞かせる。
テントで寝ている他メンバーにも視線を向けるが、赤い液体が大量に流れ出ている事から死亡は確定だろう。
現在の生き残りはスバランだけのようだ。
(……周囲は浅い沼地。徒歩で接近したら水音で確実に気付くはず。なのにギルバートは争った形跡もなく首を刎ねられている。十中八九、魔術によるものだろう)
冷静に判断を下し、腰を落として右手を腰へと伸ばす。
(相手は魔術を使う格上のエルフ種……。人種の自分が正面きって戦ったら確実に負ける。とてもじゃないが自分1人では対処不可能だ。冒険者を襲い殺害したこの件を冒険者ギルドに通報するんだ。そうすれば差別されている人種と言えども冒険者、ギルドによって討伐隊が組まれてこいつは殺される。自分は生き延びてこいつの特徴、種族、情報をギルドに通報すれば勝ち! 自分の力だけで勝とうと思うな!)
ジリジリと金髪エルフ青年から後退し、距離を取る。
金髪エルフ青年、カイトはつまらなそうに舌打ちした。
「僕様が話しかけているのに無視するとか、これだからヒューマンは嫌いなんだ。少しは気の利いた冗談のひとつも言えないものかね」
「…………」
「なんとか言ったらどうだい? 仲間を足蹴にされても黙っているなんて、いくら全種で最も劣っている種とはいえ、情けないにもほどがあるよ?」
カイトが切り落とされたギルバートの首を蹴る。
その隙を逃さず、スバランが腰からいざという時の切り札――逃走用の煙幕球を投げつける。
「!? 煙幕! 戦うどころか、逃走するつもりかよ!? 腰抜けにもほどがあるだろ!」
「言ってろクソエルフが! 仲間の敵はいつか絶対に取らせてもらうからな!」
爆発的に広がる白い煙りに紛れて、スバランが逃走を開始する。
(魔術師はどんな手を持っているか全く不明な所が怖い。だが、奴らにもちゃんと弱点はある! 倒すべき目標を視覚で捕らえなければ、大抵の攻撃魔術が意味をなさない。煙幕で目隠しをしている間に魔術範囲から逃げ出させてもらうぞ!)
何よりスバランはパーティーメンバーの耳目を自称する斥候職だ。
さらに何年も3階層沼地でモンスター相手に戦って来た。この広大な3階層のどこに何があるのか、頭の中に全てたたき込んである。
安全に隠れる場所も、食料となる食べ物、飲料に適した水場など、全てだ。
(絶対にあのクソエルフから逃げ切ってやる! そしてギルバート達を殺し、足蹴にした罪を償わせて――っ!?)
『ドン』っと背中を強く押された感覚。
背中から胸に幅広な剣が生え出る。
すぐに先程のエルフ種が手にしていた剣身だと理解した。
剣身はスバランの体を半ばまで突き破っていた。
致命傷だ。
ヌルヌルと自身の血で汚れた剣身を見下ろす。
「ばっ、かな! ごほぉ! 煙幕で、正確な位置は分からなかった、がっはぁ、はずなのに……ッ!」
鉄臭い血を口から吐き出しながら、理解できない現実に声をあげてしまう。
これが攻撃魔術の類なら、スバランも知らない高等な攻撃魔術の何かだと思う。
しかし剣での攻撃だ。
どうやって煙幕の中、自分の位置を正確に把握し、全力で逃げる背中をピンポイントで捕らえることが出来たのか。
彼は力を振り絞り、背後を振り返る。
――しかし、そこには予想していたモノとは違う光景が広がっていた。同時に煙幕で目隠しをしていたにもかかわらず背後から奇襲を受けた理由。
周囲が浅い沼地で警戒していたのにもかかわらず、ベテランのギルバートが無抵抗に殺害された理由を知る。
「ち、くしょう、が……はんそ、くだろうが、まさか――」
スバランはその答えを口にすることもできず意識が途切れる。
最後まで口にする前に命が流れ出てしまったのだ。
死亡したスバランを忌々しげに、カイトが蹴り飛ばす。
「僕様のレベルアップのため殺されるだけの家畜、虫けらの分際で手間を掛けさせやがって。まだ大人しく殺されるなら可愛げもあるけど、変な小狡い知恵を持っているから、この手のヒューマンは厄介なんだ」
彼は気分を取り直しステータスを確認する。
しかしカイトのレベルは上がっていなかった。
「まだ上がらないか……しかたない。上がるまで人種殺しを頑張るとするかぁ」
そして彼は音もなく、その場から姿を消す。
後に残ったのは無惨に殺された人種、冒険者達の遺体だけだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
無限ガチャの感想返答を活動報告に書きました。よかったらご確認ください。
感想を下さった皆様、本当にありがとうございます!
また今日も2話を連続でアップする予定です。
15話を12時に、16話を17時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は16話です)。
では最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




