9話 開戦提案
――時間を巻き戻す。
獣人連合国首都中央に建てられた屋敷に会合のため5部族族長達が集まっていた。
今回の会合の議長は、獣人ウルフ種族長ガムが務める。
彼は最初から爆弾を投下する。
「自分は『巨塔』に宣戦布告することを提案する。このまま座視すれば、自分達が滅ぼされるからだ。それを避けるためにも奴らが力を付ける前に叩く必要がある!」
彼の提案に獣人タイガ種族長、クマ種族長、ウシ種族長が『こいつ突然何を言い出すんだ?』と驚きの視線を向けてくる。
獣人ウルフ種族長ガムは彼らの態度を既に予想していたのか、慌てた様子も見せず淡々と話を続ける。
「別に迂遠な自殺をしたくて宣戦布告を提案している訳じゃない。ちゃんと勝算があるから提案をしているんだ」
「勝算ね……」
『こいつは前回の会合で上がった内容を忘れたのか? 相手は多数のドラゴンを率いてエルフ女王国を落としたんだぞ。我々が宣戦布告したら最悪、多数のドラゴンとエルフ女王国を敵に回す可能性があるんだぞ。なのに勝算ってどういうことだ?』
互いにライバル視している獣人タイガ種族長レバドが、口には出さないが、嘲笑するような態度を取った。
ガムがその態度に苛立ちつつも、議長として提案者として話を止める訳にもいかず口を動かす。
「『巨塔』は情報を集める限り強大な力を持っているのは確かだ。しかし、逆に大きな弱点も抱えているのさ。その弱点は……『人種絶対独立主義』だ。自分達は奴らが掲げるお題目、『人種絶対独立主義』を逆手に取ればいいんだよ」
そう言ってガムは皆の顔を見渡し、言葉を続ける。
「別に難しい話じゃない。あいつらは『人種絶対独立主義』を掲げ人種を護るというお題目を掲げている以上、人種に手を出せない。だから人種を兵士として使えばいい。獣人連合国に居る人種奴隷達はかなりの数が居るだろ? 他にも急ぎ人種王国や他外部から人種奴隷を買い込めば、かなりの戦力になる。そいつらを奴らにぶつければいい」
全てはヒソミが提案した作戦内容だが、まるで自分が考えたかのようにガムは口にする。
彼の話にまず最初に反応したのは、獣人クマ種オゾだ。
彼は鼻で笑い、手の中にある煙管を遊ばせる。
「典型的な机上の空論だな。『人種絶対独立主義』を掲げる魔女が、戦場に立つ人種奴隷達をドラゴンを使って保護に走ったらどうする? オイ達にドラゴンを退ける力は無いぞ。なにより人種奴隷達がオイ達の指示に素直に従う保証はなか。何より、大勢の人種奴隷を連れてどうやってエルフ女王国原生林奥地に居る『巨塔』まで行くつもりぞ? 海路を使っても数ヶ月はかかる上に、金もぎょうさんかかるぞ」
オゾの指摘にガムは、既に答えを用意していたらしく慌てず返答した。
「別にわざわざ自分達が、『巨塔』まで出向く必要はないだろ。宣戦布告した後、『巨塔の魔女』に自分達が指定する場所まで来させればいいだけだ。『来なければヒューマンを一匹ずつ殺していく』とでも言えば、『人種絶対独立主義』を掲げる魔女は嫌でも来なければならないからな」
そう言って、ガムは下卑た笑いを見せる。
「人種奴隷が自分達の指示を聞かない場合、どうするかって? そんなの簡単だ。聞かせるようにすればいいだけだろ? 親兄弟、恋人、友人を人質にして『逃げれば殺す、自分達の指示に逆らえば殺す』と言えば、奴らは必死になって戦うだろ。ああそうそう、だから外部から奴隷共を購入する際は、なるべく親兄弟、友人、恋人関係等の弱みを持つ奴らを中心に購入するよう、指示出しを忘れないようにな」
「!? 正気か貴様! そんな外道なマネをするつもりなのか!? オイ達、獣人連合国の名を地に落とすつもりか!」
「オゾ殿、獣人連合国の名を地に落とすなんて大袈裟な。ヒューマンが裏切らないよう人質を用意して、対魔女の兵士に仕立て上げるだけじゃないですか。ワシはガム殿の案に賛成です。むしろ、実は事前にガム殿に相談を持ちかけられておりまして……既にワシの商業ルートで、竜人帝国から対ドラゴン用のマジックアイテムや獣魔球を手に入れる算段をつけました」
獣人連合国の商業を担当する獣人翼人種族長イゴルが手を上げ、ガムの発言に賛同の声をあげる。
会合が開始される前に、ガムが根回し済み。
会合で今回の作戦案を破棄されるのを防ぐためにも、獣人翼人種族長イゴルを巻き込んだのだ。
イゴルの持つルートで対ドラゴン用マジックアイテムや他必要なものを用意し(実際は竜人帝国の斡旋だが)、獣人連合国の資金で購入すれば、労せずしてイゴル側の懐に大金が入り込む。
商売人の彼が断る理由はない。
ガムがいやらしく笑う。
「ドラゴンはマジックアイテムで防ぎ、人質を取りヒューマン奴隷を従わせて魔女を討つ。自分達を脅かす『巨塔』は消え、助けたエルフ種に大恩を売ることができる。どうだ、ガキが買い物をするより簡単だろ?」
「……作戦内容は理解したが、ヒューマン奴隷を短期間に多数用意するのは難しくないか? 奴隷を大量購入したら、『巨塔』に動きを感づかれる可能性が高いのでは」
獣人タイガ種族長レバドは、どうにか頭を捻ってライバル関係であるガムの穴を突き足を引っ張ろうとする。
だがガムはこの質問も想定済みで、淀みなく返答した。
「確かに骨は折れるがやって出来ないことはないだろう。他にも数を揃えるため、うちの若い者にヒューマンの村、移動している者を襲わせて連行する予定だ。獣人タイガ種族の奴らには難しいかもしれないが、うちの若い者達は優秀な奴らが多いから、それぐらい余裕でこなしてくれるだろうさ」
「……ッ!」
以前の会合でレバドがガムに当て擦った台詞をそのまま言い返す。
黒い毛で覆われているはずのレバドの顔色が、一目で分かるほど怒りで赤くなった。その場で怒声をあげないのは、族長として体面があるからである。
ニヤニヤと笑うガムの顔に『オマエ達、獣人タイガ種の無能には出来ないだろうがな』と書かれていた。
ここで引き下がっては獣人タイガ種族長の面子が潰れる。
何より武闘派の獣人タイガ種族が、獣人ウルフ種族相手に弱さなど見せる訳にはいかない。
「――エルフ種共に貸しを作れるのは大きいな、獣人タイガ種族も賛成だ。ヒューマン狩りにウチの若い者も出そう。ウルフ種族の足は引っ張らないと約束しよう」
「いやいや、むしろ我々の方が音に聞く獣人タイガ種族の足を引っ張らないか心配ですな」
ガムは笑みを浮かべつつ内心で『脳筋が。挑発すれば簡単にノッてきやがって』と嘲笑する。
表面上は友好的に笑い合うガムとレバドに、獣人クマ種族長オゾが渋面で断言した。
「オイは反対だ。相手は多数のドラゴンを従える魔女ぞ。軽く見過ぎている。なにより作戦が乱暴すぎるわ!」
「ワタシもオゾさんに賛成です。勝率は確かに高そうですが、内容が乱暴過ぎます。第一、獣人連合国国境付近での人種狩りならどうにか誤魔化せますが、奥地で人種狩りをおこなった場合、連れて移動したらすぐにバレてしまいますよ?」
「ベニ族長、もっと頭を柔軟に使ってくださいよ。自分達には捕らえたヒューマンを安全に移動させる方法があるじゃないか」
ガムがやれやれと肩をすくめて、ツッコミを入れた。
紅一点のベニがその指摘に少しだけ考え込み、すぐに答えを出す。
「ま、まさかワタシの仕切る商船を使うつもりですか!? た、確かに商船なら荷物に紛れて安全に移動させられますが、船の底にはワタシ達の同胞が船を漕いでいるのですよ。もし人種が抜け出して暴れたらどうするつもりですか!? 船員を下手な危険に巻き込むわけにはまいりませんわよ!」
「……ならベニ族長はこのままヒューマンの繁栄を許し指をくわえて見ていると仰るのか? そして将来、自分達の子孫達がヒューマンの奴隷として扱われても良いというのだな?」
「べ、別にそこまで言ってませんわ……」
ガムの指摘にベニがつっかえて、黙り込んでしまう。
これ以上声をあげたら、彼女自身が不利な立場になってしまうからだ。
会合の席に静かな緊張感が漂う。
議長であるガムが切り出す。
「では決をとりましょう。賛成が多数なら作戦を続行、反対が多数なら取り下げ新たな案を模索するということで」
一見、公平そうに見せているが、既に趨勢は決まっている。
ガムの言葉はパフォーマンスでしかなかった。
オゾとベニはこれでもかという苦渋の表情を作る。
――賛成3、反対2。
こうしてガム提案の作戦案が可決してしまったのだった。
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