4話 族長会合
獣人連合国は、エルフ女王国と竜人帝国の間に存在する。
国土は縦に長く、他5種族の領土の中で最も狭い。
そんな国土のほぼ中央に首都が存在する。
獣人族ウルフ種が『奈落』で行方不明になったガルーの捜索隊を出し、多くの犠牲者を出してからしばらくの後――首都のほぼ中心にある屋敷に、獣人たちを纏める各部族のトップ陣が続々と集まっていた。
強面が多いため、第三者から見るとヤクザか、マフィアの集会にしか見えない。
強面が多いのにもちゃんと理由がある。
獣人連合国の主要産業が冒険者、傭兵稼業のため、暴力的雰囲気を纏う者が多いのだ。
獣人種は他5種の中でも身体能力が高く、五感も鋭い上、複数連携の戦闘を得意としている。
故に冒険者、傭兵稼業に向いているため、その道を目指す者が多い。
獣人連合国の国土は狭く、入り江が深く入り込んでいるため農耕地面積が少ないという理由もあるが……。
良い面として海に接している面積が多く、各国に向かう船の中継港として栄えていた。
冒険者を目指さない者達は、船の漕ぎ手、商人を目指す傾向が強い。
船の漕ぎ手は、他種はきつい底辺仕事としてやりたがらないため、人種より肉体的に優れている獣人種の独占状態と言える。
意外と収入も良く、常に人手を募集しているため獣人種にとっては人気の職業だ。
――話を戻す。
獣人連合国首都中央に建てられた屋敷の大部屋に5部族族長が一堂に集まる。
獣人ウルフ種
獣人タイガ種
獣人翼人種
獣人クマ種
獣人ウシ種
計5部族だ。
座席で揉めないために、毛足が長い絨毯に座布団を敷き、車座になって腰を下ろすことになっていた。
話を進める議長は持ち回りでおこなわれている。
今回は獣人タイガ種族長が議長を務める番だ。
頭から尻尾の先まで黒いヒョウで、右目から額にかけて深い傷が走っていた。
傷のせいもあり非常に強面で、もし一般的人種男性が彼に睨まれたら、恐怖心から腰が抜けその場にへたり込んでしまうほどの威圧感がある。
獣人タイガ種は5部族の中でも武闘派で、多くの冒険者、傭兵を輩出している。その族長であるレバドも元冒険者で、B級まで昇り詰めた過去を持つ。
老いて中年に差し掛かる年齢だが、未だ若者たちに戦闘で負けるつもりは微塵も無い。
レバドが現在最も話題の議題を上げる。
「――どうも最近、エルフ女王国近郊に巨大な塔ができたらしい。エルフ種共がこの塔に関しての情報を集めるため冒険者を募っているが、ウチの若い者たちを出してエルフ種に貸しを作るのはどうだろうか?」
「なるほど、だがそう上手くいくかね?」
レバドの提案に、垂れた耳が特長的なウルフ種族長ガムが横槍を入れた。
眼光が鋭く、暴力的な気配を漂わせているが、同時に獣人種的には珍しく知的な空気を纏っている。
タイガ種のレバドが血の臭いを常に漂わせているマフィアなら、ウルフ種のガムは暴力と知力を使い分けるインテリヤクザ的空気を醸しだしていた。
ウルフ種も5部族の中で武闘派で通り、タイガ種とはライバル関係にある。そのため何かあるたびに互いに嫌味の応酬、相手を下げる言動や行為をおこなっていた。
レバドが忌々しげに『またこいつイチャモンつけやがって。とりあえず俺様の意見には無条件で反対するよな』と言いたげに牙を覗かせて彼を睨む。
心臓が弱い人種相手なら、恐怖で鼓動が止まるレベルだ。
しかし、ウルフ種族長ガムは気にせず話を続けた。
「募集の件は自分の所にも届いていますが、今から下に声をかけて集めるのでは、少々遅くないですかね?」
「ガム殿の仰る通り、時間がかかりそうですな。集めてから船を使えば間に合うかも……ですが採算が合わず確実に赤字でしょう。だから毎回ワシが提案しているように、エルフ女王国との間にある森林を切り開き直通の道を作るべきです。その道があれば、すぐにエルフ女王国へ向かうこともできたでしょうに」
頭がツルリと禿げた人種の顔だが、両腕が鳥のように羽で覆われた翼人種族長イゴルが同意しつつ、自身の意見を押しつけてくる。
族長会議に出席している代表者全員が『またか』と顔をしかめた。
翼人種は5部族の中でもかなり商業に力を入れている種族だ。
現在、エルフ女王国に荷物を運ぶ場合、間にある森林を大きく迂回する陸路か、船に乗って海沿いを進む海路しかない。
仮に彼の提案通り、間にある森林に直通の道ができれば、陸路で迂回せず時間も短縮し、かかる費用を節約、利益を上げることができる――が、
「――オイは反対だ。エルフ種との間にあの森林が、竜人種との間に海があるから、オイたちは余計な干渉を受けずにすんでるんだ。わざわざ自分からドラゴンの口に頭を突っ込むマネをする必要はなか」
5部族で最も体格が良い獣人クマ種族長オゾが、ふぅーと煙管のような長い機具から煙を吐き出しつつ反対する。
オゾは二足歩行の熊で、縦にも横にも大きい。身長は軽く2mを超えている。武闘派のウルフ種、タイガ種族長に引けを取らない迫力を持っているが、周囲に突き刺す威圧ではなく、どっしりとした深く重い気配を漂わせていた。
また獣人クマ種は基本的に体格が良いため冒険者になる者たちも多いが、その腕力で大工、船舶の荷物おろし、農業など体力、腕力を使う仕事に従事する割合の方が多かった。
オゾの発言に族長の中で紅一点の獣人ウシ種族長ベニも、賛成に回る。
「イゴルさん、陸路を開拓したいお気持ちは理解できますわ。ですがワタシたち海路側のことも考えてくださいな。下手に陸路を開拓し、船便が縮小して雇用が落ちたらどうするのですか。陸路と違って、船乗りや漕ぎ手を育てるのには時間がかかるのですよ」
獣人ウシ種族長ベニは一見すると頭に牛の角が生えた人種である。割合は少ないが、見た目が人種寄りの獣人は存在し、特に女性にその傾向が強かった。
獣人ウシ種族の者たちは、獣人の中で最も人数が多い。
獣人のため身体能力は高いが、性格は大人しい者たちが多く冒険者や傭兵稼業に就く割合は低かった。
むしろ、海運業に関わる者が多い。
船の漕ぎ手だったり、船乗りとなって海運技術を学んだりする。
故にあまりに陸路が強くなり過ぎると、海運業が脅かされることを危惧し、商業中心の『とにかく利益を』の翼人種とは意見対立が起きやすかった。
クマ種族長オゾから軍事、ウシ種族長ベニから商業的に反対を受けたが、翼人種族長イゴルもより利益を得るため引かない。
「オゾ殿、ベニ殿の言い分も理解できますが、今までエルフ種とは仲良くやってきましたでしょ? 今更、エルフ種がワシらを襲うと考える方が失礼では? また陸路の開拓によって商業的利益があがり、より海路にも盛んになると考えられませんか? もしかしたら一時、海路が落ち込む可能性もゼロではありませんが、その分、上がった利益での補填は可能だと何度も説明してますよね?」
「イゴルさんは、『補填する』と仰りますが、何度も説明している通り、陸路と違って海路の場合は専門家を育てるのに時間がかかるのです。お金を払ったからといってすぐに専門家が育つわけではありませんのよ?」
「ですから、その専門家の維持に関しても補填に含めて――」
イゴル、ベニの議論に熱が入る。
進行役を務めるタイガ種族長レバドが手を叩き、注目を集めた。
「今回の議題は、エルフ種共に若いのを派遣して貸しを作るかどうかだ。商業の話はまた今度にしてくれ。まぁ話の流れ的に全員賛成での派遣は難しそうだが……。それならば出したい奴は出す、ということでいいな?」
「――オイは異議無しじゃ」
「ワタシも賛成します」
「ベニ殿、また後でお話を。ワシも賛成です」
「自分も賛成です。出したい奴が出せばいい。まぁ間に合うとは思えませんがね」
ウルフ種族長ガムがライバル視しているタイガ種族長レバドの揚げ足を取り、ほくそ笑む。
しかし、その笑みは長くは続かなかった。
タイガ種族長レバドは、怖すぎる笑顔を浮かべて挑発し返す。
「まぁウチの若い者たちは優秀な奴らが多いから。陸路でも十分間に合う可能性は高いし、エルフ種共に貸しを作れる公算もある。ダンジョンで無駄死にしたりはしないし、遺品の一つくらい持ち帰る実力ぐらいはあるさ」
「――ッ!?」
『獣人ウルフ種次期族長候補』だったガルーが『奈落』で消息を絶った。彼を捜すためウルフ種若者たちを集めて調査隊を派遣したが……遺品一つ持ち帰られず半数が死亡してしまった。
そのことを当て擦られ、ウルフ種族長ガムの眦が吊り上がる。
他族長たちも『また始まった……』と胸中で呆れつつ、何も言わず流していた。
武闘派のタイガ種とウルフ種の対立は今に始まったモノではない。
ピリピリとした空気が流れるが、タイガ種族長レバドは無事、やり返したことで機嫌良く話を続ける。
「続いての議題だが――」
他族長たちも気にせず、議題について意見を交わしあう。
こうしてある意味、いつも通りの会議が続いたのだった。
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