3話 ガルー救助隊
――時間は大きく遡る。
獣人連合国は、東に竜人帝国、湾を挟んで、西にエルフ女王国の間に存在した。
領土も縦長で人種王国より狭い。
人種王国は他国の食料を生産するため、大陸中央のわりと広い範囲で領土を所持している。結果として約9割が農民として働き食料を作り出し、他国に買い叩かれていた。
獣人連合国は国土は狭いが、人種王国と違って裏から手を回され内政干渉を受けていないだけ『マシ』という考えがもあるが。
獣人連合国は他国に比べてやや変わった運営をされている。
他国からすると『獣人種』というくくりだが、内部ではさらに5つの部族に分けられるのだ。
獣人ウルフ種
獣人タイガ種
獣人翼人種
獣人クマ種
獣人ウシ種
計5部族だ。
この5部族代表者たちが獣人連合国首都で会議を開き、国の方針を決めている。
その内の獣人ウルフ種の族長案件で、ウルフ種の若手冒険者たちに仕事を依頼された。
依頼内容は……『獣人ウルフ種次期族長候補者の1人であった、ガルーの捜索』である。
――謎のメイドの仕事依頼で、ガルーが所属していた『種族の集い』人種メンバーであるライトが死亡した場所まで案内して欲しいと依頼を受けた。
ガルーは快諾し、人手を募集。
獣人ウルフ種次期族長となる可能性が高いガルーの覚え目出度くなるため、当時、若手はほぼ全員手を上げる勢いで集まった。
その中からガルーは優秀なウルフ種を選抜し、人種が死亡した場所である世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』へと向かったのだ。
ガルーはレベル150前後あり、連れていった若者たちも似たレベルだ。
いくら世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』といえど、人種が死亡した場所は一度行って戻って来ているのだ。
ガルー自身、危険度を理解し、必要な人手、道具、移動手段なども準備した。
にもかかわらず、帰還予定時期を過ぎても戻ってきていない。
移動途中でモンスターに襲われて全滅の可能性もあるが、恐らくなんらかのトラブルがあって、『奈落』で遭難したと考えるのが一般的だろう。
無事、自力で『奈落』を脱出、戻ってくるのが理想だが……ウルフ種の長的にはこのまま放置する訳にはいかなかった。
ただの一般ウルフ種冒険者なら放置1択だが、相手は自分たちが推した『獣人ウルフ種次期族長候補者』である。
このまま何もせず黙っていた場合、
『へぇーウルフ種さんの所って、自分たちで推した次期族長候補がダンジョンで遭難しても何もせず見捨てるんですね。大切な仲間、しかも次期族長候補をそんな簡単に斬り捨てるなんて薄情なんですね。うちではそんな薄情なマネできませんわ~』
遠回しに嫌味を言って、ウルフ種の株を下げるため獣人連合国中に話を流すだろう。
自分たちウルフ種だって同じ立場なら、似た行動を確実に取る。
既に死んでいる可能性が高いが、メンツ的、対外的に『捜索隊を出しました』、『仲間を見捨てない』という体面を取る必要があった。
故に『ガルーの捜索』依頼が大々的におこなわれたのだ。
本人が無事だったら過酷なダンジョンから帰還した英雄と祭り上げ、既に死亡していた場合は遺品など、それっぽいのを手に戻って美談に仕立て上げる予定である。
本当にガルーが心配で捜査隊を出すのではない。
あくまで政治として行動しているに過ぎないのだ。
それでもガルーの『奈落』選抜から落とされた若手ウルフ種たちからすれば、非常に美味しい仕事依頼だった。
獣人連合国首都、ウルフ種区画の安宿で寝泊まりしているグドもその1人である。
「どうやら俺様にもようやくツキが回ってきたようだな」
グドは安木製テーブルに置かれた自身の大型ナイフの手入れをしつつ、心底『チャンス』だと言わんばかりの声音を漏らす。
彼は中堅獣人冒険者だ。
レベル70後半で、片耳が欠けている。新人時代、自身のミスでモンスターに噛み千切られたのだ。
以後、慎重に戦うことが多くなり、レベルの上がりが他中堅と比べて遅い。
――実際は『慎重に戦う』ではなく、ビビってしまい積極的に戦わなくなっただけなのだが、本人はプライド的に認めていない。
そんなグドだが、ガルーの『奈落』選抜に手を上げたが落とされている。
自分よりレベルが高く、実力、経験もある者たちが選ばれたのだ。
当時は、悔しがったが、今では逆に『あの時、落とされていてよかった』とさえ考えるようになる。
負け惜しみではなく、本心からだ。
それにもちゃんと理由がある。
グドはナイフに映った自身の顔、欠けた耳を見つめながらも暗い笑い声を漏らす。
「『奈落』には浅い階層だが一度行ったことがある。この経験を買われて俺様が捜査隊に選ばれるのは確実だろう。さらにガルーがもし生きていて、助けることが出来れば獣人ウルフ種次期族長様の覚え目出度くなる。仮に死んでいたとしても、遺品らしい物を適当に持って帰るだけで上からの覚えが目出度くなる。本当に美味しい仕事だぜ!」
大型ナイフの手入れが問題無いのを確認しつつ、自身に回ってきた幸運を噛みしめ笑い声が漏れ出す。
「最初、ガルーから選ばれなかった時は『くたばれ! 幸運に恵まれただけの若僧が!』と思ったが、本当にありがたいぜ。この幸運を利用して上手く立ち回れば……もしかしたら俺様が獣人ウルフ種次期族長の候補の1人に指名されるかもしれないぞ」
グドの脳内で今回の功績で獣人ウルフ種次期族長候補に選ばれ、さらに最終的に自身が族長になる妄想を描く。
まさに薔薇色の未来だ。
思わずグドの口から涎が落ちそうになった。
「――おっと、そろそろ準備して出ないと時間に遅れるな」
グドは口元を拭いつつ、革鎧を身につけメインウエポンである大型ナイフを腰に下げる。
鼻歌交じりで、『ガルーの捜索』を受けるため、ウルフ種族長が指定する屋敷へと歩き出す。
グド自身の予想通り、『奈落』の浅い階層とはいえ一度行ったことがあることが評価されて、ガルー捜査の一団に加わる。
ガルー捜査のため集められた者達は数十人を超えた。
そして彼、彼女たちは世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』へと向かった――が、結局ガルーや向かった者たちの遺体どころか、遺品ひとつ回収できず、半壊してしまったのだ。
ガルーの捜査に向かった者たちの丁度半分が死亡し、もう半分が生き残って依頼失敗を告げた。
半壊した理由は世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』が、その評判通り、あまりにも過酷でモンスターも強く、罠も凶悪なため碌に探査も出来ず半壊してしまったらしい。
生き残った者たち曰く、『あれほど凶悪なダンジョンで生きている可能性はゼロ。ガルーたちはもう死んでいるだろう』というのが見解の一致だった。
ガルー探査の大失敗を受けて、ウルフ種族長は依頼を断念、打ち切る。
今回の依頼に参加したグドは、なんとか生き残りはしたが大怪我を負い、這々の体で逃げ帰ってきたのだった。
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