15話 新鋭パーティー『黒の道化師』
今日は15話を昼12時、16話を17時にアップする予定です(本話は15話)。
ダンジョンの3階層。
沼地に大型カエル、毒ヒル、蚊などのモンスターが跋扈している。
大小沼地が多く、足下が滑りやすいし、取られやすい。
故に1、2階層より危険度の高い階層と認識されていた。
その分、得られる収入も多額だが、この3階層で稼げる冒険者は多くない。
今夜も狩りを終えた熟練人種パーティー4名が、見晴らしの良い地面にテントを張り、野営準備を終えていた。
明日に備え夜番を残し、睡眠を取る。
全員が人種でレベル50前後。
沼地で何度も狩りをしているベテランパーティーだ。
2名ずつ夜番を交代でおこなう。
燃える焚き火を前に、夜番の2名が眠気を忘れるため雑談をする。
内容は当然冒険者関係だ。
「この前獣人種が人種に絡んで騒ぎになったらしいな。だが相手は最近現れた人種の新鋭パーティー『黒の道化師』で、敵うはずもなくボコボコにされたとか。普段から威張り散らす獣人種がボコボコにされたって聞いて、胸がすかっとしたね」
パーティーの目、索敵を担当するスバランが白湯を口にしながら心底楽しげに漏らす。
同じく寝ずの番で前衛を担当するギルバートが、傷だらけのゴツゴツとした手のひらで顎を撫でながら問い返す。
「なんだその『くろのどうけし』って言うのは?」
「知らないのか? 今もっとも注目されている冒険者パーティーだぞ。道化師の仮面の少年に黄金騎士、妖精姫の3人でたった数日でもうダンジョン5階層に到達したって話だ」
道化師の仮面を被った少年が、黄金の甲冑を纏った騎士とお伽話に出てくる『妖精の御姫様』のように美しい女性を従えてダンジョンを攻略している。
少年の道化師の仮面と黒い髪にフードから、彼らの事を『黒の道化師』といつの間にか呼ぶようになったのだ。
この話にギルバートは胡散臭そうな視線を仲間へと向けた。
「おいおいスバラン、担ぐのはなしだぞ。数日で5階層に到達するなんて無理なことは俺達なら骨身に染みて分かっているはずだろ? 嘘を吐くならもう少しリアリティーあるのにしろよ」
「いやいや、本当だって。実際、冒険者ギルドにイエティーの魔石が持ち込まれたって話だし。実際にその場で目にしたっていう冒険者は多い。ただ『黒の道化師』達がどうやって5階層まで潜っているのか? その方法を知っている者はいないようだが……」
さらにスバランは、信じがたい事実の内容を告げる。
「しかも道化師の仮面を着けた少年はあの歳で、戦術級の魔術を詠唱破棄できるらしい」
「……いやいや、さすがにそれは法螺だろ。魔術の素人ならともかく、俺は騙されないぞ。いくら前衛で魔術のことは疎くても、斬った張ったを長年やっているんだ。魔術の基礎知識ぐらいは齧っているんだぞ」
「ギルバートの気持ちも分かる。自分だって最初耳を疑ったさ。けど、詠唱破棄してるところを実際に見た奴がいるんだよ。しかもただの冒険者とかじゃなくて人種の魔術師がだ」
「ああ、あの赤髪の兄妹の妹、ミヤか」
人種で魔術師は珍しい。
しかも女性ならなおさらだ。
ミヤは金銭的な問題で魔術学校を中退しているが、冒険者からすれば魔術師には変わりなかった。
彼女の姿がこの街に現れた当時、いくつかの人種のパーティーが声を掛けたが、兄達がいる上にミヤの人見知りが激しく惨敗。強引に勧誘して魔術師を怒らせると、反撃が怖いと以後手を出す奴らはいなくなった。
他種からすれば、『人種の魔術師なんてどうせ役立たずだろう』という偏見があり、さらに『自分達より劣っている人種に頭を下げるなどプライドが許さない』という本人達的には譲れない一線から、彼女が他種から声をかけられることがなかった。
そんな一部から有名なミヤが、食堂で興奮気味に話していたらしい。
『戦闘級もだけど、戦術級の魔術を詠唱破棄した』と。
ギルバートが『ごくり』と緊張感から喉を鳴らす。
「……もし本当ならとんでもない話だな。人種が戦術級の詠唱破棄をするなど。そいつは魔術の天才――いや、英雄か、勇者の生まれ変わりとかじゃないよな?」
これが魔術に長けたエルフ種、魔人種、竜人種なら理解できる。
しかし話では人種がやってのけたらしい。
冒険者としての常識から考えて『天地がひっくり返ってもあり得ない』ことが実際に起きたと言われているのだ。
驚くなと言う方が無理な話である。
ギルバートの驚きを肴にスバランが白湯を舐めるように飲む。
「英雄、勇者の生まれ変わりか……ギルバートにしては良い例えをするじゃないか。将来、その英雄か勇者様がこのくそったれな人種差別を覆してほしいものだ。何かあるたびに自分達を他種は見下しやがってよ」
「まぁ確かに……他種の人種への差別は本当に酷いな。昔に比べて最近は特に酷くなっている気さえするぞ」
「そうか? 昔から酷かった気がするが――っとすまん。ちょっと飲み過ぎた」
スコップを手にスバランが立ち上がる。
白湯の飲み過ぎでトイレに行こうというのだ。
ギルバートがからかうように告げる。
「ちゃんと穴を掘って埋めろよ。オマエの臭いを嗅ぎながら、夜は明かしたくないからな」
「分かってるって。そっちこそパーティーの耳目である自分がいないからってモンスターに襲われるなよ」
「ははは、言ってろ。ほら早く行け漏らしてズボンを濡らすなよ」
「オマエこそ、言ってろ」
男達は馬鹿話をしながらも警戒を怠らない。
スバランは臭いが届かないよう焚き火から離れ、暗がりへと足を踏み出す。
さすがに仲間内とはいえ、最中の姿を見せる気にはならない。だから距離を取り、暗がりへと移動したのだ。
十分離れたところで地面に穴を掘る。
「ふぅぅ……」
男のため立ったまま済ますことができる。
一通り終わると土で手を洗い、スコップで穴を埋めた。
浅いと臭いが焚き火、テントまで届くのでベテランになるほど、しっかりと深く埋め固める。
新人はそれを知らず見よう見まねで適当に穴埋めして、失敗するのだ。
スバランも駆け出し時代、何度失敗して仲間にどやされたか……。
「今では良い思い出……じゃねぇな。ギルバートのが臭過ぎて野営が中止になったのを良い思い出と言い張るのは無理だわ」
ふと思い出し腹が立ったので、一緒に寝ずの番をしているギルバートに改めて嫌味の一つでも言ってやろうと焚き火側へと戻る。
つい先程、数分前に別れたギルバートが、熊のような巨体を丸めて座り、火に当たっている筈だった。
しかし、そんな彼は既に居なかった。
「なァッ!?」
「虫けら種族の分際で、僕様を待たせるとか不敬じゃないか」
地面には、首が胴体から切り離されたギルバートの死体。
そしてそれを踏みつける、見知らぬエルフ種の男が立っていた。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
ライト達がダンジョン攻略で有名になる際、2つ名に悩みました。
その結果、『黒の道化師』とつけさせて頂きました。
ゴールド&ネムムの『黄金騎士』、『妖精姫』は割とすぐ思い付いたのになぜかライトだけはちょっと苦労しました。
2つ名は難しいですね。
また今日も2話を連続でアップする予定です。
15話を12時に、14話を16時にアップする予定なのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は15話です)。
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