1話 竜人帝国で1
竜人帝国は、大陸の真東に存在する。
シックス公国は彼らにとって植民地扱いになっているため、竜人種は自国を『竜人帝国』と呼ぶ。
竜人帝国の上半分は世界最大の原生林が存在する。この世界最大の原生林に世界最大最強最悪ダンジョン『奈落』が存在する訳だが……。
もう半分を竜人帝国が占めていた。
竜人帝国は広いが海と原生林に囲まれているため、他国と違って出入口が限定されている。
秘密主義的側面が強いのもあるが、そのせいか竜人帝国は他5ヶ国の中で最も情報が少ない。
そんな竜人帝国のとある場所に、見た目こそ『人種』な者たちが4名ほど集まり話し合いをしていた。
最初に話を切り出したのは、身長は170cm前後で細身、全体的に特徴が乏しい人種で強いて言うなれば、糸のように細い目と、胡散臭い笑みが記憶に残る人物だった。
名前を――『ヒソミ』という。
彼は投資で痛い目を見た者のように、やや疲れが混じった声音で報告した。
「力を入れて作った『小生』からの定時連絡が途絶えました。恐らく調査に失敗して殺された可能性が高いかと……」
「ヒソミさんの『傀儡人形』が報告を忘れたとか、現地種やモンスターに襲われて壊された可能性はありませんか?」
「ヒロ殿、その可能性はゼロですよ。定時連絡は多少遅れても必ずおこないますし、あれはこの世界では高レベルの人種冒険者や健康な男性人種をバラして組み上げ、さらに小生の恩恵、『眷属作製』でレベルを分け与えることまでして作り上げた一品ですよ? 現地種やモンスター程度にレベル5000の『小生』を倒すことは不可能ですよ」
ヒソミに質問した人物――ヒロは、人種でこれから舞台で王子役でもやるかのように、華美な衣装を身に纏っていた。一般的な人種がそんな衣装に袖を通したら衣装負けするが、彼は負けるどころかあつらえたように似合っている。
顔立ちも整い女性と間違ってしまうほどの美形で、背も高く、衣服の上からでも分かるほど無駄な脂肪が無いスラリとした体型をしている。
人種王国のリアル王子であるクローと彼が並び、『どちらが人種王国の王子か?』と質問したら、100人中100人ががヒロを『人種王国の王子だ』と断言しただろう。
それだけヒロから輝くような王子様的オーラが醸し出されているのだ。
ヒロはヒソミの報告に軽く溜息を漏らす。
「ならやっぱり、本命はそっちだったかな? ドワーフ種ナーノが消されていたら確定かな……」
「可能性は高いですが、小生としては早計な判断は慎むべきだと思いますよ。まだ『崇拝派』のミスリードの可能性も捨て切れませんから」
「ヒソミ! 『崇拝派』などと高尚な言い方をするでない! あんな奴らなど頭のイカれた破滅主義者か、もしくは現実が見えていない自殺志願者で十分だ!」
「落ち着いてください、カイザーさん。言いたいことは分かりますが、仲間に噛みついては駄目ですよ」
リーダー格のヒロが、暴れ馬を落ち着かせるように両手を広げる。
カイザーと呼ばれた男は、金髪に上半身が裸で、作業ズボンのような服を履いていた。さらに黄金の首輪に腕輪、ピアス、指輪などじゃらじゃらと黄金の装飾品を身に着けている。
まるでダンジョン奥地で一山当てて、財宝をあるだけ身に着けて帰還した冒険者のような出で立ちである。
身長が高く、筋肉質で引き締まった体型のため、黄金の首輪や腕輪を身につけていても装飾過多ではあるが『似合わない』ということもない。
ヒロとは違って、物理的にキンキラと光っていた。
あまりに堂々としているため、変な人間――と勘違いする前に、『どこぞの王族なのか』という感想を抱いてしまう。
怒鳴られたヒソミは気にしていないと言いたげに、肩を竦め話を続ける。
「とりあえず人形が破壊されたのはほぼ確実、定時連絡は来ていたのですがそれ以外の情報はなし。死因を様々に推測することは出来ても、それが当たっているかどうかは別問題ですからね、何があったのか実際に調査する必要アリかと。小生1人では手が回らないので、出来れば誰か手伝って頂けるとありがたいのですが……」
「ボクも手伝いたいけど、交渉ごとや他仕事があるから……」
「余が手伝っても良いぞ。余の仕事を代わりにこなすことが出来るならいくらでもな」
「カイザー殿が抜けたら『P・A』が完全にストップするじゃないですか。代わりが居ないのを理解して提案するのはズルイですよ……」
ヒソミの演技っぽい情けない声音にヒロ、カイザーが微苦笑を漏らす。
『P・A』は彼らにとって非常に重要なモノというのが共通認識。その中心に居るカイザーの代わりを務められる者など存在しない。
彼自身、それを分かった上で冗談めかしに口にしたのだ。
一通り笑みを零した後、3人の視線が残る1人に向けられる。
「…………」
「あの、黒殿は手伝ってくれないのですか?」
黒と呼ばれた男は、黄金を体中に身に着けたカイザーの影に溶け込むように立っていた。
名前の通り黒は頭から爪先まで黒で統一。目を黒布で覆って、結んだ紐を長く背中に垂らしている。
彼はヒソミの問いかけに、すぐには答えず、皆の注目を集めた。
さらに時間が経過してからぼそりと返答する。
「……断る。コレにはカイザーを守る役目がある」
「この場で余に手を出す馬鹿者共などいないわ!」
「絶対ではない。もう二度とカイザーは殺させない」
「……チッ、昔のことをネチネチと」
カイザーは面白くなさそうにそっぽを向く。
不機嫌そうな彼に対しても、気にせず黒は影のように付き従った。
2人の関係性を知るヒロ、ヒソミは互いに視線を合わせ黙るしかない。
カイザーが苛立ちながら他2名を上げる。
「今ここにはいない奴ら――爆弾小僧と鮫野郎はどうだ?」
「どちらも『P・A』から今は離せません。離したら、プロジェクトが止まりますよ」
「となると……やっぱり小生が頑張るしかありませんか……あぁ、人手が欲しい……」
「チッ、竜人種共がもう少し使えれば、情報収集や策も色々打ちやすいのだがな」
竜人帝国内部に居て、世話になっていながらカイザーは苛立ち、舌打ちした。
竜人種は6種トップで、国家も位置的に引きこもっており、国民はあまり帝国を出ようとしない。
若者が冒険者や商人となり、見聞を広めるためなどで帝国を出ても、見た目が見た目のため非常に目立つ。
故に隠密行動が非常に苦手だ。
仮にそういったことが必要な場合は金を払い外部に任せた方がスムーズである――が、表沙汰に出来ず、内々に事を進めようとした場合、竜人種だけでは色々難しい面がある。
リーダー格のヒロは溜息を吐きつつ、肩を竦める。
「とりあえず、ドワーフ王国を調べてナーノが消されているかどうかの確認をしよう。もし消されていたら……獣人種ガルー、エルフ種サーシャ、偽『マスター』事件にかかわった関係者が次々に消えているということになる。偶然と考えるには出来すぎている。そして突然現れた『巨塔』。この2つを考えれば、奴らが偽『マスター』事件に関わっており、『C』、もしくはC隷属、支持者の可能性が高い。だからボクに提案があるんだけど……」
ヒロに皆の視線が集まる。
彼は何でもないように提案した。
「獣人種を『巨塔』にぶつけましょう」
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
新章に突入しました!
これからも頑張って書いていければと思います。引き続き宜しくお願い致します!
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