番外編 メラの愚痴
時間は深夜、近く。
『奈落』最下層食堂で『UR、キメラ メラ レベル7777』、『UR、炎熱氷結のグラップラー アイスヒート レベル7777』の2人が長椅子に並んで座り酒を口にする。
身長が2m以上もあるメラと、右側髪が赤で左側髪が青のアイスヒートが並んで飲んでいる姿は遠目からでも非常に目立っていた。
2人の前にウイスキーグラスが置かれ、琥珀色の液体が注がれている。瓶に入っている年代物のウィスキーはメラが自費で購買から購入。グラスに入っている丸い氷はアイスヒートが作り出したモノだ。
ライトの『奈落』最下層での護衛を務めるアイスヒートが仕事を終えたタイミングで、メラが酒に誘った。
アイスヒートはお風呂に入った後、改めてメイド服に着替えて友人であるメラと並んで酒を酌み交わしていた。
会話の内容はメラの愚痴だ。
「ケケケケケ……アタシは弱い、弱すぎる……」
「何を言う。メラが弱いなら、『奈落』最下層に居る殆どの者たちがそれ以下ではないか」
「アイスヒートが言いたいことは分かるが、これはアタシが『大規模過去文明遺跡』に潜って感じた実感さ」
『大規模過去文明遺跡』とは、ドワーフ王国が長年秘匿してきた過去にあった文明遺跡である。
メラはどうやらそこに潜っていた際に何かがあって落ち込み、仲が良いアイスヒートに愚痴を零しているらしい。
アイスヒートは舐めるように琥珀色の酒を飲み、首を傾げる。
「聞いた話では『大規模過去文明遺跡』では大活躍したそうじゃないか。なのにどうして『自分は弱い』などという話になるんだ? ご主人様も褒めていただろ?」
アイスヒートが敬愛するご主人様であるライトの護衛中、『大規模過去文明遺跡』について話を聞かされた。
その中で、メラは探査・護衛などそのキメラ能力を生かして大活躍したと聞かされていたのだ。
ご主人様であるライトが『大活躍した』と言うなら、本当にメラは『大活躍した』のだ。
なのになぜか彼女は愚痴をこぼしつつ、ウイスキーグラスを不機嫌そうに袖越しに掴み一息で空けて、新たにグラスへと注ぐ。
「ケケケケケ……確かにご主人さまの言う通り、無限ゴーレム、人工海、最下層の住居階層ではお役に立てた自負がある。だが、人造神話級兵器が出てきた階層では完全に足を引っ張っちまった……」
人造神話級兵器、通称『蛇擬き』。
『蛇擬き』の能力は『世界からの希薄』だ。
『世界からの希薄』の能力を発動する事でレベル9999の皆やレベル7777のガンナースズの気配察知にも引っかからず、奇襲をしかけてきた。
攻撃も『世界からの希薄』能力を転用し、敵や地面なども『消し飛ばす』力を持っていた。
対抗できたのは同じく神話級、『大剣プロメテウス』を持つナズナと『蛇擬き』の能力に気付き、すぐさま対処したライトのみだ。
「ケケケケケケ……アタシは能力を認められて今回の探査に抜擢されたっていうのに、危険が訪れたらご主人さまの足を引っ張るだけとか……。マジ、無能で弱すぎるだろ……」
「落ち込む気持ちも分からなくないがな……」
普段こそ飄々とした態度のメラだが、他顕現したカードたち同様、ライトを敬愛し、彼のためなら死ぬことすら恐れない。
むしろ一番恐ろしいのはライトの足を引っ張り、主に被害を与えることだ。敬愛するライトの邪魔になるぐらいなら、さっさと自身で命を絶つ方が数億倍マシである。
アイスヒートは同情しつつも冷たい現実を突きつける。
「気持ちは理解できるが、アイスヒートたちのレベルはこれ以上あがることはない。それもまた現実だ」
「ケケケケケ……分かっているよ。もしレベルが上がるならとっくの昔にエリー様に頼み込んで『悪夢召喚』を使用してレベルを上げているわ」
『悪夢召喚』は、極限級で異界に存在するモンスターを召喚する魔術だ。
過去、この魔術によってライトはレベル9999まで上げることが出来た。
しかし、彼の恩恵『無限ガチャ』カードから排出、召喚されたメラたちは、いくらモンスターを倒した所で表記以上にレベルが上がることはないのだ。
これは明記されてはいないが、メラたち『無限ガチャ』カードたちが認識するルールである。
メラは『蛇擬き』戦を振り返り、悔しげに歯噛みする。
「もしあの時、ナズナ様が居なければライト様自身でしか対処できなかった。アタシが前に出ても『世界からの希薄』の能力を利用した敵の攻撃を防ぐ手段も無く、最悪瞬殺だっただろうな」
あくまで最悪の話だ。
仮にメラが『蛇擬き』と戦った場合、体から多数のキメラを排出し、消されるより速く敵を倒す作戦を採るしかない。
勝利する確率はお世辞にも高くない上、勝ったとしてもメラ自身、相当の被害を受けていただろう。
「ケケケケケケ……一方でナズナ様は後半にご主人さまの手助けがあったが、殆ど本気も出さず快勝だ。レベル差、手にしている武器性能の高さが嫌になるぜ」
後半こそ『蛇擬き』に逃げの一手を打たれてまごついたが、終始ナズナが優勢だった。
しかし、メラの言葉通りナズナはまだ『本気を出して』戦ってはいない。
まだあれの先があるのだ。
アイスヒートが溜息混じりに返す。
「比べる相手が悪すぎる。アイスヒート、メラ、スズ……レベル7777が3人がかりで戦ってもナズナ様とは勝負にもならないのだから」
「ケケケケケケ……分かってはいるんだが、な」
メラ自身、『比べる相手が悪い』と頭で理解しているが、ナズナとの実力差にどうしても歯がゆさを感じているようだ。
ちなみにエリー、アオユキ、メイと戦ったとしても、当然レベル差もあってメラでは勝てない。
ライトについては、想像の中でも鉾を向けることなどありえない。
「……ご主人さまのためにも強くなりたいぜ」
「アイスヒートたちがレベル以外で強くなる方法なんて……マジックアイテム等で補強するぐらいか? ナズナ様から大剣プロメテウスを借りる?」
「ケケケケケケ……扱えるのはナズナ様だけだし、いくらナズナ様が大らかでも神話級の大剣プロメテウスを貸してなんてくれない……よな?」
メラは言い切ることが出来ず、語尾に『?』を付けてしまう。
2人の胸中で『大剣プロメテウスを貸してほしい』とお願いしたらナズナが『おお、いいぞ! 遠慮無く使ってくれ!』と気前よく貸すイメージがやすやすと想像出来た。
決してナズナは物の価値が分かっていないバカではない。ただ他者より器が大きいだけなのだ……きっと、たぶん。
メラ、アイスヒート共にそれ以上、ナズナには触れず話題を変える。
「ケケケケケケケ、ご主人さまにお願いして宝物庫にある3つの神話級のうちどれかを所持する権利を頂けないか、お願いでもするかねぇ」
「アイスヒートはあまり賛成できんな。神話級は強力な力を持つがピーキー過ぎたり、危険度が高かったりし過ぎる。ご主人様も良い顔はしないと思うぞ?」
メラの言葉通り『奈落』最下層宝物庫には、恩恵『無限ガチャ』で出た神話級の武具が3つ存在している。
ナズナのは本人が最初から所持しているため除外して――3年で3つなので、年に1つ神話級が排出されている計算だ。
ただし力は強力だがピーキーだったり、代償が大きすぎたりなどもあるため、厳重に保管され将来に備えられているというのが現状である。
メラは真顔で酒を飲み干し、空になったグラスごと氷を口に入れてバリゴリと砕き咀嚼する。
「……ケケケケケ、それでもアタシは強くなってご主人さまのお役に立ちたいんだ」
「そうか。ならアイスヒートも口添えしてやる」
アイスヒートは友人のため一肌脱ぐことを決意する――が、苦言も忘れない。
「ただグラスごと氷を囓るな、行儀が悪い」
「ケケケケケケケケケケケケケケケ!」
友人であるメラは楽しげに、笑って誤魔化したのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日から新章の『6章 獣人大虐殺編』を開始します!
ライトを裏切った獣人種ガルーへの復讐は終わっていますが、獣人種の国周りが残ってますからね(暗黒嗤い)。
と、言うわけで明日から新章を開始しますので是非お楽しみに!
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