番外編 スズとロックの休日
「~~~♪」
小さく鼻歌を唄いながら、ベッドに腰掛け『UR、両性具有ガンナー スズ レベル7777』が趣味に没頭する。
黒髪を短く切り揃え、菫色の瞳をした可愛らしい彼女の趣味は手芸で、現在はチクチクと敬愛するライトの人形を作るのがマイブームになっていた。
人形の数は大、中、小――合わせて100は超えている。
今日彼女は休日で、朝食を済ませた後、自室に篭もって趣味に没頭しているのだ。
そんな自身の主であるライトの人形作りに熱中しているスズの相方――インテリジェンスウェポンである長い槍のような『マスケット銃』と呼ばれるロックが、ベッドに寝かされた状態でカタカタと尋ねる。
『……相方ヨォ、らいと様ノ人形ヲ作ルノハ楽シイカ?』
「(こくり)」
スズは恥ずかしがり屋で、基本的に無口だ。
まともに会話をするのは相方のロックか、主人であるライトぐらいだろう。
そんな彼女は相方ロックの質問に笑顔で頷く。
スズは邪気のない、無垢な笑みを浮かべていた。
ロックは呼吸している訳でもないのに、長々と溜息を漏らしてからツッコミを入れる。
『ハァァァ……相方ヨォ、楽シイノハ良イガ、いくら何デモ作リ過ギダ。イクラ敬愛スル主ダカラトイッテ、手作リ人形ヲ100以上作ルトカ……。らいと様ガコノ光景ヲ見タラ怖ガルンジャナイカ? 正直、おいらデスラ怖イ』
「!?」
相方、愛銃のツッコミにスズは菫色の瞳を広げてショックを受ける。
スズのベッド周りには彼女手製のデフォルメされた『ライト人形』が大、中、小と並べられている。配置できなかった人形は丁寧に仕舞われ、気分によってローテーションで出し入れして配置換えもしていた。
そんな『ライト人形』に囲まれたロックが苦言を呈する。
『らいと様ヲ慕ウノハ良イコトダト思ウガ……イクラ何デモほんと作リ過ギダッテ。モットコウ、違ウ趣味ヲ見ツケタ方ガ良インジャナイカ?』
「!」
『エ? 他ニモ趣味ガアル?』
意外にも直ぐに返答される。
相方であるスズに手芸以外の趣味があるとは知らず、ロックは素で返答してしまった。
彼女は机の引き出しからノートを取り出し、ベッドに寝かされたロックへと広げて見せる。
『何々……らいと様ト一緒ニヤリタイ事のーと?』
「(こくこくこく!)」
スズが頬を赤らめつつ、何度も頷く。
『奈落』最下層でも評判の美しく可憐な容姿をしているスズが頬を染める姿は、多くの人が一目見るだけで恋に落ちてしまうだろう。
相方で、インテリジェンスウェポンであるロックには効果がないが……。
ロックは気にせずノートの内容を確認する。
『らいと様トノオ出カケ計画。一緒ニ食ベル際ノ料理めにゅー。2人ッキリデオ話シヲスル際ノ話題。夜ハ薄暗イ公園デ2人ッキリ、ソシテ結婚シタ後ノ子供ノ名前ハ……ッテ、タダノ妄想のーとジャナイカ! 怖イワ!』
「!?」
相方に否定されスズがショックを受ける。
一方、ロックはさらに畳みかける。
『コンナ妄想のーとノ存在ヲ知ッタラ、らいと様デモどん引キスルワ! 人形ニ引キ続キ怖イワ! 相方ハ男心ヲ分カラナサ過ギル! マッタク……下ニハ付イテイルノニドウシテ分カラナイカネ』
「…………」
『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、言イ過ギマシタカラ机ニがんがんブツケナイデ下サイ』
ロックの指摘に涙目で銃身を掴み、机の角にガンガンぶつけ出す。
流石にロックも言い過ぎたと反省して、謝罪を口にした。
スズはロックの謝罪を受け入れると、乱雑にベッドへと投げ捨てる。
彼女(?)は再びベッドに座ると、『不機嫌です』と言いたげにそっぽを向いた。
そんなスズにロックが性懲りもなく話しかける。
『デモヨ相方……内気ナ性格ナノハ理解シテイルガ、モウ少シ『奈落』ノ仲間タチト交流シタ方ガ良インジャナイカ。将来的ニ、相方ガ指揮スル作戦ガアルカモダシ。仲間内デスラ、恥ズカシガッテ交流ヲ持タズニイルト、らいと様モ安心シテ指揮ヲ任セラレナクテ、困ルンジャナイカ?』
「!?」
敬愛する――恋心を密かに抱くライトの名前を出され、具体的な被害状況も提示されたせいでスズが衝撃を受ける。
『ダカラ少シハらいと様ノタメニモ、内気ナ性格ハ治シタ方ガ良インジャナイカ?』
「……(こくり)」
『ライト様のため』という言葉が効いたのか、スズが素直に頷く。
(コレデ少シハ、『奈落』ノ皆ト仲良クナレレバ良インダガ……)と、ロックはまるで親、肉親のごとく胸中でスズの性格改善を願う。
――しかし、ロックの願いは意外な相手によって防がれてしまうのだった。
「内気な性格を治した方が良いかって? 別に無理しなくてもいいと思うよ」
休日から数日後、『奈落』の廊下で移動中のライトと偶然顔を合わせる機会が訪れた。
その際、スズが思わずロックに指摘された問題を質問したら、先程の答えが返ってきたのだ。
ライトは笑顔で続ける。
「スズが恥ずかしがり屋で、内気な性格をしているのは『奈落』の皆が知っているから。少しずつ、スズのペースで打ち解けていけばいいと思うよ。皆、それぐらい待てるだけの器はあるしね」
ライトはニコニコと笑顔で断言した。
それだけ彼は恩恵『無限ガチャ』カードから排出された皆が、仲間思いだと信じているのだ。
この返答にスズが嬉しさと、喜びで顔を真っ赤にする。
彼女は狂喜乱舞する喜びを顔に出しつつ、ライトとの距離を縮める。
スズは彼に顔を近づけ、
「ありがとう、ございます。ライトさま」とお礼を告げた。
スズはライト、ロックにしか恥ずかしくて声をあまり聞かせない。
護衛としてついているアイスヒートが、面白くなさそうに眉間に皺を寄せるが、スズの性格とライトの発言から何も言わず黙り込む。
スズの手の内にあるロックはというと――。
(個人的ニハ、らいと様ニハがつんト指摘シテホシカッタンダガ……)
恥ずかしく、でも嬉しそうに顔を真っ赤にして忠誠心を新たにした恋する乙女顔をする相方スズの表情を見て溜息を漏らす。
(トリアエズ、相方ガ幸セソウダカラ良シトスルカ……)
ロックは胸中で再度溜息を漏らしたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
番外編を利用して、各キャラクターの掘り下げをさせて頂きました。
今回はスズ&ロック編!
ちなみに明日の番外編が終わったら、新章に突入したいと思います。
なのでどうよよろしくお願い致します。
また最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




