39話 ナーノとの決着
「儂の! 儂の『伝説の武器』を作る右腕がぁぁぁあぁぁぁぁあぁッ!!!」
ナーノは僕に切断された右腕を、無事な左手で押さえ悲鳴をあげる。
右腕を切断された痛みと喪失感で体中から脂汗を流しつつも声をあげる。
「き、貴様! ライト! 自分が何をしたのか理解しているのか!? 儂の……儂の右腕を『伝説の武器』を作り出すことが出来る右腕を切断するとは!? どれだけ世界の損失になるか!」
「世界の損失? ナーノの腕が無くなった所で、世界には何の損失も、痛手もないよ。むしろこれ以上犠牲者が出なくて、平和になるさ」
「素人の貴様に何が分かる! 第一、なぜ秘宝級のナイフが刺さらないのだ! 服の下にドラゴンの皮膚でも貼り付けているのか!?」
「そんなモノ身に着けていないよ。単純に僕のレベルが高いから刺さらなかっただけださ」
「れ、レベルが高いだと?」
ナーノが困惑した表情で問い返す。
僕は彼の目を真っ直ぐ見つめながら真実を伝える。
「僕のレベルは9999だ」
「ば、馬鹿な! ありえん! 子供の戯れ言だ!」
「事実だよ。もし嘘ならどうして秘宝級のナイフが刺さらない? レベル300もあるナーノが手も足も出ないんだ? なぜ僕が約3年前、裏切られた当時のままの姿形でいると思う?」
「…………」
ナーノの顔色が痛み以外で初めて青くなる。
彼は畳みかけられるように指摘されて、僕が約3年前と同じ12歳の姿だったことにもようやく気付いたらしい。
「全てお前達がゴミスキルと言っていた僕の『無限ガチャ』の力だ。不老の腕輪、そして多くの仲間達……僕はお前達に殺されそうになってから、この『奈落』の底で力を溜めてきたんだ。そう、全てはお前達『種族の集い』メンバー達に復讐するために! そして『なぜ僕が殺されなければならないのか、国がどうして『ますたー』を探しているのか?』、その真実を知るために、『奈落』最下層で僕は仲間と共に修行しレベル9999まで至ったんだよ! そして――これが僕の積み上げてきた力だ!」
「!?」
僕の語尾に合わせて『奈落』最下層に居る殆どの者達が訓練場に姿を現す。
メイにアオユキ、エリー、ナズナ、アイスヒートにメラ、スズ、ネムムにゴールド、妖精メイドたち――他、ナーノよりレベルが高い者たちやモンスターなどが気配を消して僕たちのやりとりを窺っていたのだ。
単純にナーノが囲まれているのに気付かなかったのは、彼・彼女達のレベルがナーノより遙かに高く、気配を消していたからである。
もうナーノとの勝負に決着がついているため、気配を消す必要がなくなったため、姿を現すよう促したのだ。
『この男がライト様を殺そうとした大罪人なのね』
『ああ、なんという無能そうな顔をしたドワーフ種なの』
『本当に顔から無能という言葉が溢れているわ。これじゃ鍛冶の腕とやらも大したことないわよね。努力するだけ無駄な無能だわ』
『聞けばゴミにしかならない秘宝級だがなんだかの武器を作って喜んでいたとか?』
『そんなゴミこの奈落にならいくらでも転がっているのにね。ああ、この前台所に行ったら包丁が秘宝級だったわよ? だから私言ってやったの。そんなナマクラで料理をしていたら恥ずかしいわ、って。せめて叙事級で料理しないとライト様にお出しできないわ、って』
『この『奈落』じゃ幻想級ですら大量にあって余っているっていうのに……その下の下の秘宝級じゃね。ゴミよゴミ』
『それに、この無能ドワーフが作っていたのは、秘宝級と言っても呪われる『禁忌の剣』だったそうよ? 他人を犠牲にして呪い付加という底上げの手を使って、その程度しか作れないの? 無能といっても限度があるわよね。よくこの世の中で生きていて恥ずかしくないわね?』
『呪いの剣なんて創っても何の意味もないどころか、世の中に有害よね? なにが『伝説の武器』よ、ゴミ以下の有毒産業廃棄物よ。ああそれは本人もか』
『その自称『伝説の武器』って、ライト様の一撃で砕けちゃったんでしょ? ちょっと小突いただけで砕けちゃうなんてガラス細工以下? そんなの大事にして自慢してたなんてほんと、ばーっかみたい」
『それにさっき見てたけど、ご自慢のナイフでライト様の皮一枚すら貫けてなかったわよ? なにが『天才鍛冶師』よ。これじゃ垢擦りの布の方が垢がとれるだけまだマシだわ』
『ほんと無能中の無能よね。よくライト様の前で息が吐けるわよね、恥ずかしげもなく。今すぐこの爪で引き裂いてやりたいわ。そうすればこの世からゴミが一つ消えるものね? ほんの少しだけれどもこの世の中が綺麗になるわ』
「ひ……ひィッ!」
皆、姿を消す必要がなくなり、僕を騙し傷つけ殺しかけた元『種族の集い』メンバーであるナーノに対して、遠慮無く殺意と冷たい言葉を向ける。
僕が事前に『手を出さないように』と言い含めていなければ、今にも飛びかかり自分たちが可能とする最も残虐な方法で殺害したいと全身全霊で訴えていた。
僕は怯えるナーノを見下ろし、さらに言葉を続ける。
「お前が無能だというのは、ここにいる皆だけじゃない。ドワーフ王国国王ダガン、それからドワーフ種の技術者全てが同じことを言っていたよ? 『禁忌の剣』の呪いが抑え込めるなど妄想でしかないということは技術者全員が知っていることなのに、その基本中の基本すら知らない無能が同じドワーフ種にいるなど恥ずかしい、とね。さらにドワーフ種や人種を多数殺害したお前は、死刑以上が確定している。ほら、ドワーフ国王の王印が押されている正式な書類だ。ドワーフ国王直筆の書類だよ。『犯罪者ナーノに対する全ての刑の執行は、ライト殿に任せる』ってさ」
「ぐ、ぐぅぅッ……!」
『奈落』の皆だけでなく、ドワーフ種の国王や技術者からも無能呼ばわりされ、ナーノはうめく。
彼は今、自らのやってきたことを否定され、全てを失おうとしている。
だがそれは自業自得だ。人の命を奪い、自らの歪んだ望みを間違った手段で叶えようとした。その道の先は破滅でしかない。
「全ては、お前が3つ目の選択肢である『僕との戦闘』を選んだ時から。いや、『禁忌の剣』を創ることをお前が決めた時から――お前がここで終わることは決まっていたんだよ」
「こ、この化け物共め……ッ」
ナーノは痛み、周囲から注がれる殺意を浴び、自身が助からないことを理解する。
そんな彼を僕は見下ろしながら、最後に聞かなければならないことを聞くことにする。
「さて、どうせ情報は何も得ていないんだろうけど、一応聞いておこうか。……ナーノ、お前が『禁忌の剣』の製造方法を得た相手である、『人種商人ヒソミ』についてだが、お前は何を知っていた? 洗いざらい吐いてもらおうか」
「ひ、ヒソミについて、だと!? あの男がどうしたって言うんだ!? あの欲深男は自分の店欲しさに儂のために色々なことをやってくれた! 様々な材料や人種を捕らえて運んでくれた! だがただの取引相手だ! 知らん! 知らんぞッ! あの男のことなど知らんぞっ!」
僕の眼差しの鋭さに怯え、ナーノが口早に叫ぶ。
その返答は予想通りではあった。LV5000もの力を持つヒソミが、ナーノを対等な取引相手と見ていた可能性は低い。
ナーノに接触したのも、『白の騎士団云々』という口ぶりから、『巨塔』やエルフ種サーシャ、獣人種ガルーの失踪、死亡などから、念のためにナーノの周りで網を張っていたのだろう。
ヒソミにとっては、ナーノは体の良い手駒でしかなかったと思われる。自分の正体や目的、レベル等について話しているとは思えない。
「まあそう言うだろうとは思ったけれど……一応は後でエリーに記憶を読んでもらうか。口から聞くよりも記憶と脳から直接さらった方がいいだろうからね」
「ひ、ヒィッ!」
脳から直接記憶を吸い出す、という言葉を聞いて、ナーノが怯えた声を出す。
そして切り落とされた右腕を左手で押さえながら、恐怖に震え、唾液を飲み下し、開き直る。
「……こ、殺すなら殺せ! だが忘れるなよ! 貴様らのような存在を『種族の集い』の皆が許す筈がない! 終わりが訪れるまでせいぜい意地汚く震えながら怯えて待つがいいさ! ライト! 先に地獄で貴様たちが来るのを楽しみに待っているぞ!」
「勘違いしないでくれナーノ……僕がそんな簡単に殺すわけないだろ」
「ら、ライト……」
虚勢を張っていたナーノだったが、僅かに灯る生への光明を見つけたかのように表情を弛める。
やはり誰だって死にたくはない。
助かるならそれに越したことはないだろう――が、僕は彼が望む答えとはまったく違う言葉を満面の笑顔で告げる。
「僕を騙し、裏切った奴を楽に殺すはずないじゃないか。『種族の集い』の皆を許さないと言っていたけれど、お前は3人目だ。全く鍛冶ばかりしていて何の情報も集めていないんだな――既にガルーとサーシャは終わっているというのに」
「な、なにぃッ……!」
「ああ、もちろん死んではいないよ。絶対に楽に殺してなどやらない。既に捕らえたガルーやサーシャのように僕が真実を知り、人種以外に終末を与えるか否かの判断を下すまで死にたくても死ねない、産まれてきたことを後悔するほどの苦痛を与えてあげよう。絶対に逃れられない『奈落』の奥底の暗闇の中で……。その方法は既に考えているんだ。ナーノに相応しい方法をね」
僕はそう言いながら手をナーノに向ける。
最後の審判を下すように、頬に笑みを浮かべながら。
「ナーノは『伝説の武器』を作るのが夢だったんだろう? だったらその夢を叶えてあげるよ――お前が人種におこなったように、死ぬよりも辛い苦しみの中で、お前自身の体を使って武器を作ってやるよ」
既にナーノの屋敷で『禁忌の剣製造本』を入手済み。
その方法を用いて、最大限の苦痛を与えつつ彼の体で剣を作ろうというのだ。
製作者は禁忌の影響を受けない精神攻撃耐性の高い者で固め、『SSSR 高位呪術祓い』の使用も許可する予定である。
僕は心底笑顔で告げる。
「傷に関しては安心するといいよ。例え心臓を生きたまま抉られても、歯や骨を折られ、砕かれ、抜かれても、皮膚を野菜の皮のように剥がされても、筋肉や脂肪を薬剤で溶かされても、血の一滴まで体から絞り取られても、絶対に死なせないから。僕の恩恵『無限ガチャ』から出た最上級ポーションを惜しみなく注ぎ、回復が得意な部下たちを付けて絶対に何があっても死なせないし、正気も保ったままにしてあげるから、安心して絶望して欲しい!」
ナーノの顔が青ざめる。
今まで人種にしてきたことを今から自分にされると知って怯えているのだろう。
どれだけ残酷で、苦痛を伴う行為を相手にしてきたのか、実行したナーノ自身がよく理解している。
思わず彼が叫ぶ。
「ふ、巫山戯るな! ら、ライト! 貴様には正面から戦った者同士、一思いに殺す戦士としての慈悲は無いのか!?」
「そんなもの有るわけ無いだろ? 第一、ナーノ自身が人種に対しておこなってきたことじゃないか。自分が他者にしてきた行為だ、潔く受け入れろ。そして最後までせいぜい苦しんで苦しんで苦しみ抜け。――連れて行け」
最後の言葉を待っていたかのように部下たちがナーノへと群がり、手を伸ばす。
まるで地獄の蓋が開き、具現化した死が彼の体に掴みかかっているかのようだった。
ナーノも慌てて逃げ出そうとするが――レベル300程度、『奈落』最下層に居る妖精メイド以下のレベルで、この場に居る者たちから逃げ出すことなど出来るはずがない。
「ひぃっ!? ひぃぃぃ! 助け! ライト、助けろ! ライトぉおおおぉおおぉゥッ!」
ナーノが叫ぶ。
彼の腕、足、髪の毛、肩、腰、足――全身に大小部下たちの手が絡みつく。
誰も彼もがナーノに対して敵意と殺意を抱き、我先にゾンビが生者の体を喰うため集るかのように群がり、『奈落』最下層のより暗い影に引きずって行く。
ナーノは必死に抵抗するが、ずるずると地獄の底より苦痛に満ちているだろう暗がりに引きずられてしまう。
彼が悲鳴を上げるたび僕は喜びから満面の笑顔を作ってしまう。
今のナーノの悲鳴はどれほど巧みな音楽演奏者でも奏でられないくらい甘く、耳心地がとても良い音楽以上の喜びを僕に与えてくれた。
彼は涙、鼻水、唾液、恥も何もかもを投げ捨て助けを求める。
「は、離せ! 嫌じゃ! 助けて! せめてあと一振りだけッ! 次こそは『伝説の剣』を作れる! だから助けてくれ! いやじゃっ! 剣になるのは嫌じゃぁあぁあッッ! あの苦しみは嫌――――」
ナーノの声が聞こえなくなる。
僕の側に落ちていた彼の右腕、製作したナイフまでもいつのまにか持ち去られていた。
こうして僕は復讐をまたひとつ終えたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
本編でナーノとの決着が無事に付きました! 明鏡がただ相手の腕を切り落としただけで終わるはず無いじゃありませんか(暗黒微笑)。
また活動報告に感想返答をアップしました!
感想返答の時間がかかってしまい申し訳ありません。
引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!
また最後に――【明鏡からのお願い】
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感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




