38話 ハンデ
「そうか――ならば、その勇気に免じてハンデをあげようじゃないか」
僕は大仰に両手を広げて告げた。
「僕をここから一歩でも動かすことが出来たならナーノの勝ちにしてあげるよ。ナーノが勝ったら、素直に解放しよう。僕、ライトの名において約束しようじゃないか」
「こ、このヒューマンが……無能なライトの分際で、一度勝っただけで調子に乗るんじゃないわい!」
僕の挑発に切れたナーノが拳を固めて殴りかかってくる。
足が短く、骨太なドワーフ種は基本鈍足だが、レベル300前後もあれば見かけ以上に速い。
ほぼ一息で数メートルあった間合いが潰れる。
「『畏怖の剣』を破壊した罪を! その命で贖ってもらうぞッ!」
「出来るモノならやってみせろよ」
ナーノはハンマーのように固めた拳を僕の顔めがけて振るう。
駆け引きなどもない愚直なストレートのため、軽く払うだけで回避できる。
勢いよく振るった右拳を払われたせいで、ナーノの体は簡単に泳ぎ、無防備に背中を晒す。
僕がその背中に手を添えて足をひっかけるだけで、ナーノは簡単に地面を勢いよく転がる。
「ぐぉお!?」
「……いくらドワーフ種が戦闘の苦手な種で、武器・防具頼りが基本戦術だからって、格闘技のレベルが低すぎるよ。子供の喧嘩じゃないんだから」
「ライトぉおおおぉッ!」
僕の素直な感想に『奈落』最下層の硬い訓練場を転がり、皮膚を切り血を滲ませたナーノが吼えた。
見下すヒューマンに馬鹿にされて怒るのは理解できるが、実際、本当にお粗末だったため苦言の一つも言いたくなるというものだ。
ナーノは僕の指摘が余程腹に据えかねたのか、顔を真っ赤にして再度、殴りかかってくる。
僕の指摘に一切耳を貸さず、がむしゃらにただ拳を振るう。
彼は本気で勝つ気があるのだろうか?
何度目かの攻撃を軽くあしらい、地面に転がす。
硬い訓練場の地面に背中から落下し、激しく咳き込むナーノに呆れた視線を向けてしまう。
「本当に勝つ気があるのかい? それとも楽に死ねるようにわざと手を抜いているの?」
「ガキがぁ……ま、マジックアイテムで実力を底上げしておるからと、調子に乗りおって……」
「地上でも似たような事を言われたから、今回は杖やマジックアイテムの類も預けてきたんだ。これは僕の純粋な力だ。変な言い掛かりは止めてほしいな」
「くッゥ……!」
ナーノは心底悔しげに歯噛みして地面に倒れたまま睨みつけてくる――が、どうもその姿が演技臭い。
一度、『種族の集い』時代、彼らに騙されたせいもあるのだろうが……ナーノの言動に嘘臭さを感じる。
(たぶん言動から、『自分が劣勢だ』と演技してこちらの油断を誘っているんだろうな……)
現状を逆転する手を彼はまだ残していると思っている、ということだ。
ナーノが再び立ち上がり、ギラついた目で僕を睨みつける。
「こ、このヒューマンのくせに見下しおって……! 今すぐこの手でその細首をへし折ってくれるわ!」
最後の力を振り絞る勢いでナーノが駆け出す。
(また馬鹿正直に殴りかかってくるのか)と呆れていると、彼が微かに笑った。
ナーノが身に纏っているマントの留め金を掴み外し、叫びながら僕へ向かって投げつけてくる。
「おらぁあぁあッッ!」
だが、マントを投げつけられた所で、こちらに何の痛痒もない。
せいぜい、視界が一瞬遮られる程度だ。
――どうやら彼はそれを狙っていたらしい。
腕を軽く振りマントを押しのけると、ナーノが手にナイフを握り締め間合いを詰めていた。
彼は勝利を確信した醜い表情で、握ったナイフを僕の心臓目掛けて――突き刺す!
「やはりヒューマンはヒューマンだな! 天才鍛冶師である儂が作り出したのが『畏怖の剣』だけだと思っていたのか!? 馬鹿めッ! 秘宝級のナイフを最初に作っておったんだよ! そうとも知らず気絶させたのに儂の身体チェックもしていないとはッ! 無能なヒューマンめ! 無能! 無能! 無能ォォォォォォオオォォォォッ!」
心底機嫌良さげにナーノが心臓に突き立てたナイフを刺すだけではなく、確実に内部を破壊するため激しく上下左右に動かし、臓器を傷つける動きをする。
ナイフが刺さっていれば、確実に相手を『殺す』動きだった。
ナイフが『刺さって』いれば、だ。
「何を狙っているかと思えば……つまらない策だな」
「……はっ?」
上手く策が嵌ったと勘違いして、調子に乗って騒いでいたナーノが僕の呆れ顔に間抜けな声音を漏らす。
彼も僕の余裕の態度にようやく異変に気付く。
ナイフで刺されたというのに、激痛に叫ばず、声もあげず、倒れようともしない。
興奮が落ち着いたナーノが、訝しげに僕の顔を見て、刺したナイフへと視線を向ける。
ナイフの尖端は確かに衣服を破っていたが……刺さるどころか皮膚一枚傷つけられずにいた。
「!? ば、馬鹿なッ、どうしてナイフが刺さっていないんだ!? 秘宝級のナイフだぞ!? ま、マジックアイテムか何かで防御しているのか!?」
「言っただろ。変な言い掛かりを付けられるのが嫌だから、今回は全て預かってもらっていると」
僕は溜息を突きつつ、ナイフを握るナーノの右腕を無造作に掴む。
力任せに握り締めると、ナーノが『うぎゃ!』と潰れたカエルのような声を上げてナイフを取りこぼす。
僕はそのまま右腕を持ち上げ、空いた手で手刀を作り――振るう。
ナーノの右腕が半ばで断ち切れた。
血が吹き出るが、衣服にかかるより速く僕は彼を投げ捨てる。
「ぎぃゃやぁああぁぁああぁッッ!!」
ナーノは悲鳴をあげながら激しく地面を転がる。
転がった勢いが止まると彼は失った右腕を左手で掴み絶叫する。
「儂のッ! 儂の『伝説の武器』を作る右腕がぁぁぁあぁぁぁぁあぁッ!!!」
ナーノの絶叫は僕の耳に心地よく響いた。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
明日で連載を開始してちょうど3ヶ月目!
だからと言う訳ではありませんが、感想返答を明日アップする予定です。
なのでよかったらチェックしてください。
引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!
また最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




