37話 3つの選択肢
「ぐ、ぬぅ……」
ドワーフ種ナーノが目を覚ます。
彼は仰向けに寝かされ、傷も癒されていた。
天井、マント越しに感じる感触から、自身がどこかの洞窟の広場に寝かされていることにナーノは気付く。
「ここはどこじゃ……儂はなぜこんな場所に……」
硬い地面に長時間寝かされ痛む背中を起こし、周囲を見回す。
寝起きのため混乱していたナーノだったが、僕と目が合うと一気に眦を上げる。
「ライト! 貴様! よくも儂が作り出した『伝説の武器』となる『畏怖の剣』を破壊してくれたなッ!」
ナーノは体を起こし臨戦態勢を取る。
その瞳は敵意に満ち満ちていた。
(開口一番がそれか。……自分の身がこれからどうなるのかの心配よりも、あんな下等な呪いの武器に執着するとはね)
気を失っているナーノを『奈落』深層まで運び、復讐の舞台を整えた。
現在、僕は神葬グングニールや『不老の腕輪』などの武器、あからさまなマジックアイテムを全てアイテムボックスに仕舞っている。
黒いフード付きマントを羽織り見た目だけは無防備である。
わざわざ防御の薄いこの装いをして、1人だけでナーノに相対しているのには、ちゃんと理由がある。
この後、ナーノに対して屈辱を味わわせるための下準備だ。
僕は溜息混じりに指摘する。
「何が伝説の武器だよ。地上でも指摘したけど、あんなあからさまに呪われそうな武器が『伝説の武器』になって、後世に永遠に伝えられる訳ないだろうが」
「黙れ! 貴様のような無能ヒューマンに何が分かる! 貴様、一つの命で贖えるモノではないのだぞ!」
(正気を取り戻させるため『SSSR 高位呪術祓い』まで使ったんだけど……。どうやらナーノは『禁忌の剣』作製で正気を失ったわけではなく、地上で話していたことも全て本心から来るものだったらしいな)
『SSSR 高位呪術祓い』は、一部力を解放した神葬グングニールの浸食すら清める。
『SSSR 高位呪術祓い』を使って未だに正気を取り戻していないとは考え辛いため、ナーノは元々そういう考えを持っていたのだろう。
僕は彼の発言に対して溜息を漏らしつつ、3本の指を立てる。
「ナーノ、貴様がどれだけ騒いだところで、これから先、選べる道は3つのどれかだけだ」
彼が指に視線を向ける。
僕はゆっくりと一本ずつ説明していく。
「ひとつ目は、罪を認めて大人しくドワーフ王国の司法に身を任せることだ。もちろんドワーフ王国には僕が手を回しているから、どういう罪になるかは蓋を開けてのお楽しみだけど、死刑以上なのは間違いないかな。そしてふたつ目は――僕に首を差し出せ。偽りだったとはいえ一時世話になったこともあるからな。その慈悲として首を差し出せば楽に殺してやろう」
ナーノが僕の言葉に目を細め警戒心を露わにする。
どちらの選択肢を選んでも彼の命を奪う、と言っているのだ。それもドワーフ王国と通じ、ナーノの刑罰を死刑以上にする、と僕は言っている。
ナーノからしてみれば、突然すぎて何を言っているのか分からない、どこまでが本当なのか、と心中で考えているのだろう。
「そして最後の3つ目は――戦うことを選ぶ、だ。僕を殺すことができれば、この『奈落』最下層から逃げ出すことができるかもしれない。3つ目は億が1つにも逃げられる可能性はないだろうけど、生き残るにはこの3つ目を選ぶしかない。さあ、どうする? ナーノはどれを選ぶのかな?」
「ちょっと待て、『奈落』じゃと? ここは『奈落』の最下層だと? 馬鹿を言え! ドワーフ王国から『奈落』までどれほどの距離があると思っているんだ! 体の痛みの残り具合を考えれば、儂が気絶して2、3時間くらいしか経っていないぞ。そんな短時間で移動など不可能だ! なにより『奈落』最下層など、この世界で誰1人到達していない領域ではないか!」
「信じる、信じないはそっちの勝手だ。僕は事実しか口にしていない」
ナーノの指摘通り、彼が気絶して約3時間しか経っていない。
その間にドワーフ王国で軽く雑務を終わらせ、『SSR、転移』で『奈落』最下層へ移動。
負傷したナーノはそのまま死亡されたら困るため、治癒をして傷や呪いを癒し、『奈落』訓練場に転がしておいたのだ。
そして彼は目を覚まし、こうして僕と会話をしている。
ナーノは胡散臭そうに顔をしかめつつ、さらに指摘してきた。
「どうせ近くの廃坑跡地か何かに連れてきただけの癖に、嘘を付きおって。これだから卑しいヒューマンは……。第一、他2つは理解できるが、一番最初の選択肢はなんだ。どうして儂が国の法で裁かれなければならぬ。何もしておらんのに!」
「本気で言っているのか……」
彼の態度に思わず本心から呆れた声音を漏らしてしまう。
痛み出すこめかみを押さえつつ、僕は指摘した。
「……人種を材料に『禁忌の剣』を作り出しただろう。あれは明確な6ヶ国協定違反だろ。それに辻斬りもして、多くの人種やドワーフ種を殺害している。どうして裁かれないと考えられるんだ」
「辻斬りで同胞を殺害したのは、まぁ悪かったと思うぞ? しかしヒューマンを剣の材料にしたからといってなぜ罪に問われる。可笑しいだろ!?」
ナーノは本気の声音で訴える。
「ヒューマンなぞ、鉄くずと一緒じゃ! その鉄くずを使って天才鍛冶師である儂が『伝説の武器』へと生まれ変わらせてやったんだぞッ! 6ヶ国協定は呪われた『禁忌の剣』を作り出すことが問題のはず。『伝説の武器』なら問題はない! 故に礼を言われることはあっても、罪に問われる謂われは無いはずじゃっ!」
「…………」
僕は絶句してしまう。
ドワーフ王国において、当然ではあるがみだりに人種を殺害することは罪となる。
冒険者であれば当然だし、他人が所有する人種奴隷であれば『他人の財物を破壊した』とみなされるからだ。
それなのに、ナーノは心底本気で『人種など鉄くずなのだから、自分の意見が正しい』と主張していた。
『人種を大量に殺したが、自分は罪に問われるようなことはしていない』、『罪に問われるなら、その世界こそが間違っている』と全身で訴えているのだ。
(昔はいくらなんでもここまで酷かった気はしないんだが……)
僕を騙すため偽りを演じていたのを差し引いても、ここまで酷かった気はしない。
『奈落』で僕が殺されそうだった時も、心底興味なさそうに『時間が勿体ないからさっさと殺せ』といった台詞しか言っていなかった気がする。
ナーノ自身、人種にそこまで興味が無かった気がしたのだが……。
(もしかしたら、人種を材料に『禁忌の剣』を作った過程で、人種=材料と考えるようになったのか? それとも、元々こういう考えが根底にあって、それが『禁忌の剣』作成過程で表面に出てきただけか……)
どちらにしてもナーノ自身がその選択肢を選び、嬉々として進めた『禁忌の剣製造』によって、こうなったと言える。完全に自業自得だ。
僕はナーノの主張にげんなりしつつ、彼を蔑みながら断言した。
「言い訳はいいから早く選べよ、ナーノ」
「……ふん! 答えなど最初から決まっておるわい!」
彼は鼻息一つしてから、拳を握り締め構える。
邪悪な笑みを顔に貼り付けて断言した。
「当然3つ目じゃ。ライト、貴様を殺して儂はさっさと外へ出る。儂には『伝説の武器』を作る使命があるからなぁ!」
ナーノが3つの内で最も最悪の選択肢を選ぶ。
予想通りの答え過ぎて思わず笑ってしまいそうになった。
ナーノはこちらの態度など一切気にせず、鼻息荒く語る。
「ライト、貴様には儂の創った『伝説の剣』を砕いた報いを受けてもらうぞ! 1度勝利したからといって調子に乗るなよ! あの時は『畏怖の剣』が砕かれることに意識が向いていたせいで、後れを取った。無能な貴様など、素手だけでくびり殺してやるわ!」
「……本当に3つ目でいいんだな?」
「あん? むしろ、それ以外の選択肢をなぜ儂が選ぶと思ったのだ? そんなことも分からぬほどの無能なのか?」
完全に見下した態度を取るナーノに対して、僕も相応の態度を取る。
彼を嘲笑した態度で鷹揚に語りかけた。
「そうか――ならば、その勇気に免じてハンデをあげようじゃないか」
僕は大仰に両手を広げて告げた。
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