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34話 焦燥

 擬装を解除。

 改めて僕たちを鑑定したヒソミが驚愕の声音を上げる。


「き、貴様たちプレイヤーか!? そこまでレベルを上げるとか、いったいどれだけの専用アイテムと時間を費やしたんだ! あ、ありえないだろ!?」

「『ぷれいやー』、『せんようアイテム』?」


 再び意味不明な言葉が飛び出す。

 僕とメイが『意味不明』と言いたげにしている様子を見て、地に転がるヒソミが歯ぎしりしながら心底悔しげに呟く。


「演技なのか、本当に知らないのか。しかし、2人もレベル9000台がいるならこいつら『C』の関係者確定じゃないか。クソが! 早く情報を掴んでいればもっと上手くやれたものを……ッ」

「……悔しがっているところ悪いが、色々聞きたいことが増えた。詳しいことは場所を移して体や精神に聞かせてもらうよ。あとはなんだっけ……そうそう『これは一方的な捕獲だ』だったかな」

「くッ!」


 ヒソミが僕をレベル1000と勘違いしていた際、口にした台詞を言い返す。

 彼は腸が煮えくりかえるような表情をしているが、立場が逆転した以上、無事逃げられる可能性が低いことを理解しており、反論できず黙り込む。


「…………」


 ヒソミは視線を周囲に走らせるが、『魔力糸(マジック・ストリング)』の繭で覆われているため脱出は不可能。

 ようやく周囲の繭の本当の怖さに気付き、苛立ちで舌を鳴らす。


 周囲を繭で覆ったのは逃走防止もあるが、他にも意味があるのだが……。

 別にわざわざ教えてやる必要もない。


 ヒソミはジリジリと背後へ後退る。

 彼はまだ逃走を諦めていない不敵な表情を作った。


「……もうここまでかな。大当たりの情報を得た以上、少々強引な手を使ってでもこの繭から逃げさせて頂きますね」

「この状態から逃げられると本気で思っているのか?」

「やってみなければ分かりませんからね! 『毒霧(ポイズン・ミスト)』!」


 ヒソミの触手の一つが口から緑色の霧を吐き出す。

 名前と見た目からどう見ても猛毒である。

 とはいえ僕とメイはレベル9999で毒耐性があり、半端な猛毒ではまったく効果はない。

 無意味だ。


 しかしヒソミの狙いは僕たちの毒化ではなかった。


「姿が毒霧に隠れて――時間稼ぎか?」


 毒霧が猛烈な勢いで吐き出され繭の内側に満ちる。

 結果、ヒソミの姿を濃い緑の毒霧の中に隠すが、逃げ道の無い状態で今更、姿を隠し、時間を稼いで何の意味があるというのか?


(『酸弾(アシッド・ブレット)』なら僕たちにもダメージは通るが、微々たるもの。回避したのもダメージより、装備品や衣服に穴が空いたり、壊れたりするのを嫌ったためだしな)


 メイも僕と同じ理由で回避していた。

酸弾(アシッド・ブレット)』を回避していたから、僕たちに唯一通用すると誤解させてしまったのだろうか?

 ヒソミが濃い緑の霧の影から笑う。


「油断大敵雨霰ってね。今回は霧ですが。効かないと分かっているからといって小生に『毒霧(ポイズン・ミスト)』を使わせたのは失策でしたね。お陰で時間を稼ぐことができましたよ」

「時間を稼いで何になるんだ? 今更どこにも逃げられないのに」

「どこにも? いえいえ、逃げる方法ならありますよ――――『転移石』、小生を彼の地まで転移させよッ!」


 ――どうやらヒソミの切り札は、『転移石』という長距離転移できるマジックアイテムだったようだ。

 しかし、転移魔術が発動する気配はなく、彼の驚愕の台詞だけが木霊する。


「……!? どうして転移しない! なぜ『転移石』が反応しないんだ!」

「そんなに騒いだら、折角毒霧に隠れた意味がないぞ?」

「ぐごォッ!?」


 濃い緑の霧を切り裂き一瞬で距離を縮めて、輝くマジックアイテムを手にしながら唖然としているヒソミを蹴り飛ばす。

 彼は咄嗟に触手をガードに回すも、威力を殺し切れず地面を何度もバウンドし転がる。


「いくら視界が利かなくても、あれだけ騒がれたらどこに居るか丸わかりだぞ?」

「く、そ、がぁ……なぜ転移が発動しないんだ! この繭に転移阻害魔術でもかけられているというのか? ありえないだろ! その手の神域やダンジョン奥地、レベル9000台の高位魔術師がマジックアイテムを使用して作り出すことが出来るモノだろう。そのメイドが高位魔術師とでもいうのか? ありえん!」

「当然、タネも仕掛けもあるけど、手の内を明かすマネはしないよ。ちなみに転移だけではなく、仲間との『念話』も妨害されてるんだけどね」

「…………」

「言ったよね、これは一方的な捕獲だと。この繭に包まれた時点で貴方に逃げ道などないんだよ」


 繭内部を覆っていた毒霧も、メイが『魔力糸(マジック・ストリング)』でドーム全体に小さな隙間を作り、脈動させて風の流れを作ることで空気を換気。

 お陰で随分と霧の濃度も薄くなり、地面に膝を突くヒソミの表情も確認することが出来た。


 ヒソミは『苦渋の表情』という表現がぴったりと嵌る顔をしていた。

 どうやら僕の指摘通り、転移だけではなく、外部と連絡を取るための『念話』すら繋がらず焦っているようだ。


 狙い通りにエリーとナズナは上手くやってくれたらしい。


(後で2人をちゃんと褒めてあげないとな)


 胸中のメモに忘れないように書き込む。


 僕は改めてヒソミに向き直り問う。


「無駄な足掻きを止めて投降してほしい。これ以上、貴方も無駄に痛めつけられたくはないだろう?」

「…………」


 彼はここまで聞こえてくるほど悔しげに歯ぎしりをする。

 ヒソミは怒りも露わに睨みつけ、


「調子に乗るなよ、クソガキが! 例え小生を倒したとしても、他の仲間たちが必ず仇を取っ――」

「その辺りの話も詳しく聞かせてほしいな」


 無抵抗で投降する気配がなかったため、僕は力尽くでの無力化を選択する。


「ぐがぁああぁアあッ!」


 杖で腹部を突き、崩れた顎先に狙いを定めて蹴り上げ、無理矢理意識を飛ばした。

 口上の途中だったが、狙い通りヒソミの意識を奪うことに成功する。


 僕は振り返ると、繭の維持に努めていたメイに声をかける。


「メイ、彼の拘束を頼む。『奈落』最下層に連れていけば逃げられる心配は無いと思うけど念入りに縛っておいてくれ」

「畏まりました。では手足だけではなく、念のため口も縛っておきましょ――!? ライト様! 離れてください!」

「!?」


 メイが台詞の途中で警告を叫ぶ。

 僕も異変に気付き、その場から即座に移動した。

 異変は確実に気絶させたヒソミの体――その内部から起きる。


『ギギギギギギギギギギギギギギギギ!』


 背中の触手が脈動し、意識を失ったヒソミの体がビクンビクンと痙攣を起こす。


 彼の口が大きく開き、顎が外れてもおかまいなしに体内から1本の触手が姿を現す。

 ヒソミ本人の意識は未だに無いが、


『ギギギギギギギギギギギギ!』


 彼の体内から姿を現した触手は明確な敵意を抱いている。

 どうやらまだ戦闘は終わっていないようだ。

本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!


また最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 急に今回だけ、すぐに奈落に転移しないでだらだら対処しているのが凄く違和感ありますね。
2021/12/08 18:30 退会済み
管理
[一言] この世界ゲームの世界なんか……? あ、頑張ってください。
[良い点] 面白いです
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