33話 レベル
「反省会はまた後日、勝手にすればいいよ。改めて『しー』とは何? 貴方はいったい何者なんだ?」
「…………」
僕の問いに『レベル5000 フレッシュゾンビ ヒソミ』は黙り込む。
彼は片手で帽子の位置を弄りながら、細い目をさらに細め睨みつけてくる。
「……レベル1000程度が2人でこの程度の罠に嵌めたからといって、小生を捕らえられたと思うなよ、三下風情共が……ッ」
「「!?」」
周囲をメイの『魔力糸』で作られた繭で覆われたため、逃げ道が無いヒソミが本性を晒す。
彼が両手を広げると、音をたてて彼の背中の衣服が突然破れ6つの触手が顔を出す。
触手といっても柔らかさはない。
尖端にある口の周りにびっしりと鋭い歯が生え、昆虫の節を思わせるようにカクカクと動く。
正直、見ているだけで気持ちが悪かった。
『ギギギギギギィッ!』
鳴く声音もまるで嫌な音を複数重ね合わせたようで、耳にするだけで寒気がする。
メイが顔を出す際、僕の恩恵『無限ガチャ』カードの『R、サイレント』で外界との音を遮断していなければ、外部にも音が漏れていただろう。
思わず顔をしかめると、ヒソミは得意気に笑った。
「そんな嫌そうな顔をしないでくださいよ。この子達は色々便利で、役に立つんですから」
「例え役に立ったとしても、そんな触手を背中から生やすとは趣味が悪いとしかいえないけどね」
「そうですか? 小生はわりと気に入っているんですけどね!」
最後の語尾に合わせてヒソミが攻撃をしかけてくる。
背中から生えた1本の触手から液体が吐き出されたが、僕とメイはその場からすぐに移動。
回避に成功する。
僕とメイが立っていた石畳みの地面がジュウと音をたてて熔ける。
一般人が頭からこの液体を被ったら、文字通り骨も残らず熔けてしまうだろう。
ヒソミが得意気に語る。
「小生の背中から生える6つの触手は、それぞれ別々の力を所持しているんです。『酸弾』はその濃度、範囲、速度などを自在に変えられて便利なんですよ。こんな風に、ね!」
ヒソミの発言と同時に、触手の1本が高速で熔ける液体を吐き出し続ける。
1回に発射される量は少ないが、吐き出される数があまりにも多かった。
僕は高速で地面を動き回り、酸の雨を回避する。
メイは『魔力糸』で自身の前に壁を作り出し、防ぐが――それは悪手だ。
敵は逃げ回り回避する僕から、足を止めて動かないメイへと狙いを定め、集中攻撃をする。
1発の熔ける範囲は狭いが、同じ箇所を集中して攻撃されてどんどん『魔力糸』が熔けていく。
メイが自身の魔力糸との相性が悪いことに気付き、動いて回避するか、または『魔力糸』をさらに重ねて相手の攻撃が途切れるのを待つかで逡巡する。
僕は鋭く声を上げた。
「メイ、防御を固めろ!」
「畏まりました!」
指示に従い、その場で足を止めて防御に専念する。
メイに集中しているヒソミに対して、僕は攻撃魔術をしかける。
「爆豪火炎!」
『SSR 爆豪火炎』。戦術級の中でも上位に入る攻撃魔術だ。爆発と火炎の合わせ技で大抵のモンスターに有効なカードである。
メイに防御を固めさせることで、遠慮無く威力が高い攻撃魔術をヒソミに叩き込むことができるのだ。
狙い通り、防御を固めていたメイに被害は出ず、攻撃魔術をヒソミに叩き込むことが出来た――が、
「仲間ごと攻撃魔術を叩き込むとは、酷いことをしますね」
飄々とした態度で爆炎で作られた煙の中から姿を現す。
当然とばかりに、怪我ひとつない。
ダメージは受けていないようだ。
僅かに彼の周囲の地面、繭が濡れている。
「……触手の1本から水を吐き出し、『爆豪火炎』を防いだのか」
「子供のくせに随分、目敏いですね。まったく可愛気の無い」
ヒソミは先に種明かしをされたのが気に食わなかったのか、つまらなそうに吐き出す。
どうやら正解だったようだが、『SSR 爆豪火炎』の爆発&火炎を相殺するほどの水操作能力を持つ触手まであるとは……。
(残る4つの触手もそれなりの力を持っているのだろう。負けることは絶対に無いが無力化するのが少々面倒だな。殺す気でやるという手もあるが……)
僕がヒソミの持つ力について胸中で考えていると、彼が軽い調子で語り出す。
「子供は良い動きをするし、無詠唱の攻撃魔術も非常に厄介だ。メイドもなかなか良い腕をしている。……だがレベルがあまりにも低すぎて話になりませんね」
「?」
ヒソミが何を言いたいのか分からず、僕とメイは静かに視線を交わし、疑問の表情を浮かべ合う。
彼は僕たちの態度に気付かず、話を続ける。
「エルフ女王国の『白の騎士団』団長はレベル3000~4000ぐらいあったはず。『巨塔』で彼を倒したのが君たちなのでしょ? だったらその奥の手、切り札をさっさと使った方が良いと個人的には思いますけどね。鑑定して分かっている通り小生のレベルは5000! レベル1000程度の貴方たちがどれだけ頑張っても、逆立ちしても勝利するのは不可能ですよ?」
ヒソミが帽子を片手で弄りながら、
「もし奥の手などがないのなら――いい加減、大人しく降伏しろ。小生側からすれば1人生きていればいい。この場でメイドか、ガキどっちかぶち殺してやろうか?」
僕たちを脅すように低い声音で殺気を撒き散らす。
レベル5000クラスの威圧感が、『魔力糸』で作られた繭内部に撒き散らされる。
レベルを上げていない常人がこの威圧感を受けたらば、恐怖から自らの死を選び心臓麻痺を起こしかねないほどだ。
だが僕とメイの顔色は当然ではあるが変わらず、淡々と返事を返す。
「奥の手が無いとは言わないけど……ここで出す必要性は無いよ」
「やれやれ、心苦しいですが、どちらか一方を見せしめに惨ったらしく殺してあげたほうが現状を理解しやすい――っぐあぁ!?」
気分良さ気に口上を述べていたヒソミに対して、僕が本気で間合いを詰めて攻撃をしかける。
僕の姿が一瞬、ぶれるとヒソミの腹部を杖で強かに突き吹き飛ばす。
彼は台詞を途中で止められ、勢いよく吹き飛び、『魔力糸』の繭壁に叩きつけられる。
繭壁が大きく歪み、ヒソミをはじき飛ばす。
彼は地面をゴロゴロと転がったが、腹部を両手で押さえて自ら何度も転がり回る。口から唾液、血を吐き出しのたうつ。
ナーノの時とは違って、ほぼ手加減無しで杖を振るった。
腹部に地獄の苦しみが広がっているだろう。
「ば、馬鹿なッ……れ、レベル1000程度のくせに、どう、して、動きがまったく、ぐうぅ……見えなかったんだ!? レベル5000もある小生にこれほど、ダメージを与えるなんて……うぅっ、ありえない!」
「ありえないもなにも、言ったと思うけど? 『念のための措置』だって。貴方がレベルやステータスを擬装していたように、僕たちも罠に嵌める相手が油断して顔を出しやすいようにレベル、ステータスを誤魔化していただけだよ」
『無限ガチャ』カードとエリーの魔術をもちいてがっちり僕のレベル、ステータス、手にしているアイテム全てを擬装しておいた。
鑑定で確認するとレベル1000前後で表示されるようになっている。
さらにメイにも当然擬装を施してある。
全ては罠に嵌める相手、ヒソミが油断して顔を出しやすくするためだ。
例え無駄になっても、エリーの魔力は時間が経てば回復するし少々カードを消費しただけで僕たち側には損は無い。当然の措置である。
お陰でヒソミが無事に釣れたわけだ。
釣れた以上、もう擬装している必要はない。
僕とメイは擬装を解除する。
雰囲気が一変したことに気付いたヒソミが慌てて鑑定を再使用する。
「!? ば、馬鹿なありえない! れ、レベル9999だと……!?」
彼の悲鳴じみた声音が繭全体に響いたのだった。
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