32話 C
「いや~、無事に釣れたようでよかった、よかった」
ナーノを気絶させて、確保した直後――まるで闇からするりと湧いて出てきたように帽子を被った細めの人種青年が姿を現す。
身長は170cm前後、細身で着ている衣服も極々普通だ。
全体的に特徴が少ない人種で、強いて言えば糸のように細い目をしており、笑みが胡散臭いという程度だろうか。
僕はなるべく自然に驚いた態度を取りつつ、腰を落として杖を構える。
「貴様……いつからそこに?」
「ふむふむ、レベル1000ちょっとか。うーん、エルフ女王国『白の騎士団』を壊滅させるには少々物足りないレベルですな。となると君のような存在が複数居て数で『白の騎士団』を壊滅させたのか? 上手く策を練って嵌めたのか。それとも君達は『巨塔』とは関係ない存在なのか……。だとしたらもう少し粘って他の仲間達も姿を現してから押さえるべきでしたかね。でも、あまり欲をかいて逃がすよりはマシでしょうか」
「本当に何を言っているんだ?」
相手の台詞の内容が全て的外れのため、演技もしてはいるが本気で『こいつは馬鹿なのか?』と思えて、構えから少しだけ力が抜けてしまう。
僕の困惑に、人種青年は目と口元をさらに細めて告げる。
「……演技なのか、知らされていないのか、無意識に操られているのか……まぁ詳しいことは場所を移して体や精神に聞くことにしましょうか。あっ、変な意味ではありませんよ。小生はノーマルなので。あくまで拷問などの意味で言ってるだけですから」
「ちょっと待ってほしい!」
片手を突き出し制止する。
僕は困惑している演技を続けながら、目の前に現れた胡散臭い男に敬語で話しかける。
「貴方は本当に何者なのですか!? 僕はただそこで気絶しているナーノに裏切られ、殺されかけた。その復讐が出来ればいいだけです。捕まって拷問される謂われなど無い。もし聞きたいことがあれば素直に答えましょう。なのでまず対話させてください」
「こちらには十分以上にあるんですよね……敵対する理由が」
「……ッ!?」
僕は再び杖を構える。
人種としては本来ありえない鋭い殺気が飛んで来たからだ。
レベル1000、2000ではきかない。
エルフ女王国『白の騎士団』団長は軽く超えている。
こんな存在、人種など本来なら絶対に存在しない!
人種青年は面倒臭そうに帽子の位置を片手で弄りながら1人漏らす。
「『C』の隷下、コマの可能性大っぽいですが、どうも無意識タイプのようですね。その態度が演技の可能性も捨て切れませんが。この手のタイプが放置すると一番面倒なんですよねぇ。碌に情報もなく、相手に一方的に情報を吸われるだけとか。ただでさえ小生達は手が足りないのに……。これだから『C』は厄介なんですよね」
「『しー』?」
新しい情報だ。
扱い的に『ますたー』の感覚に近い気がするが、『ますたー』自体ではないだろう。
僕の疑問符に人種青年は、『頭が足りず悪事に荷担していることに気付いていない愚か者』を見るような視線を向けてきた。
僕の疑問に答えるつもりはないらしい。
「とりあえず詳しい話は捕らえてから聞きますよ。そのドワーフ種、あー名前なんでしたっけ? 復讐は時間も無いんでさっくり今すぐ殺すなら少し待ちますよ?」
「……さっくり殺せだと? 僕から復讐を奪うつもりか?」
「奪う? いいえ、違いますよ。貴方のつまらない復讐なんかより、もっと重要なことがあるだけです」
「――――」
人種青年――ヒソミの言葉に怒りがふつふつと湧き上がってくるが、自重する。
僕にとってナーノ達、元『種族の集い』メンバーへの復讐も大切だが、『ますたー』とは、『なぜ僕が殺されそうになったのか』の真実を知ることも重要だ。
ここで怒りに我を忘れて、情報を引き出せなくなるようなことはしない。
とはいえ、十分時間は稼いだし、そろそろどちらが『道化』なのかネタばらしをして、やり返しても許されるだろう。
僕は荒ぶった精神を意思の力で抑えつけ、演技をやめて返答する。
「……どうあっても僕の質問に答えず、対話を拒絶するつもりなのか? 知っている情報を吐き出さない場合、こちらも力尽くになるが」
「力尽く? いいえ、これは一方的な捕獲です。素直に諦めてさっさとそのドワーフ種を殺して、目的を達成して悔いを残さないようにしてから、小生に捕らえられた方が良いと思うんですがねぇ」
ヒソミは飄々とした態度で、歩き出し距離を縮めてくる。
強者の余裕を全身から溢れ出しながらだ。
僕はその歩みを言葉だけで止めてみせる。
「確かに一方的な捕獲になりそうだ――『レベル5000 フレッシュゾンビ ヒソミ』殿」
「!? 貴様! どうして小生の名前だけではなくレベル、職業まで知っているんだ!?」
「メイ!」
今度は僕がヒソミの質問に答えず、最も信頼するメイド『SUR、探求者メイドのメイ レベル9999』の名前を叫ぶ。
刹那、僕、ヒソミの周囲を『魔力糸』が走る。
高速で『魔力糸』は編まれて、僕たちを中心に100mほどのドーム状の繭を作り出す。
その際に気絶しているナーノも繭で包み、外部へと運び出す。
ヒソミは自身の名前、レベル、職業まで言い当てられて困惑。
その隙を文字通り縫って、『魔力糸』のドーム状の繭で僕たちを包み込む。
『魔力糸』の繭を維持しつつ、メイが姿を現す。
「ライト様、作戦通り包囲完了です。内部にはライト様、私、目標者しかおりません」
「素晴らしい手際だ。メイに任せてやはり正解だったよ」
「――っ、勿体ないお言葉ありがとうございます」
メイは僕から手放しの賛辞を贈られ、喜びから体を震わせる。
すぐに真面目な表情を作り、礼を返した。
僕とメイのやりとりを、ヒソミは細い目をさらに細め観察してくる。
彼は歩みを止めて、最大限の警戒心を上げつつ、悔しげな表情を作った。
「『C』の隷下の者、眷属を罠に嵌めたつもりが、むしろ逆に罠に嵌められるとは……。最初から目的はドワーフ種ではなく、小生だったのですね」
「正直に言えばあくまで念のための措置だ。ナーノに接触する貴方があまりにも胡散臭くて、けれど裏が取れないから、辻斬りをおこなうナーノを捕縛しつつ、姿をあらわしたら捕らえられるようにメイに潜んでもらっていたんだよ」
正直、作戦実行ギリギリまでヒソミの正体が分からなかった。
直接、目視で鑑定しても普通の人種の範疇だった。
先程の『レベル5000 フレッシュゾンビ ヒソミ』も、ステータス擬装の手を抜き、余裕の態度で姿を現したからメイが鑑定し、僕へ『SR、念話』カードを使用したお陰で知ることが出来たのだ。
ヒソミは悔しそうに片手で帽子を押さえ、顔を隠す。
「小生なりに慎重に、慎重を重ねていたのに……敵のメイドにも気付かずノコノコ姿を現すとか。マヌケは小生の方じゃないですか。もう少し人手があればやりようがあったんでしょうかね……」
「反省会はまた後日、勝手にすればいいよ。改めて『しー』とは何? 貴方はいったい何者なんだ?」
「…………」
僕の問いにヒソミは、帽子をずらし細い目でこちらを試すように見つめた。
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