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13話 祈りのミサンガ

今日は13話を昼12時、14話を17時にアップする予定です(本話は13話)。

 ダンジョンに潜って魔石を精算してから10数日後――。


「ダークさん! ゴールドさん、ネムムさん!」


 早朝、ダンジョンに入るため最後尾に並ぶと、背後から声をかけられる。

 気配から僕達は既に気付いていたが、少年冒険者エリオ達が手を振り駆け寄ってくる。

 この街のダンジョンは長期間潜るのが一般的なため、彼らとはタイミングが合わず顔を会わせるのは久しぶりだった。

 今回もエリオ達は野外宿泊用の荷物を背負っていた。


「お久しぶりです、エリオさん。グレートブッシュウルフ達と戦って以来ですね」

「ですね。他のダンジョンならともかく、この街では野営が基本ですから。タイミングが合わないと本当に顔を合わすことが難しいんですよね。今日はようやくお礼の品が渡せて本当に運が良かったですよ!」

「お礼の品?」


 予想外の言葉に僕は思わず首を傾げてしまう。

 エリオ達はサプライズパーティーでプレゼントを渡すかのようにニコニコ純粋な笑みを浮かべていた。

 エリオが背後に隠れる妹のミヤをうながす。


「前に色々助けてもらったお礼に何かお返しできないかって、ミヤが提案したんです。ほらミヤ、ダークさんに渡すんだろ?」

「わ、分かってるからお兄ちゃん押さないでよぉ。……あのダークさん、これ、あの、つまらない物なんですけど、よかったら受け取ってください」


 ミヤがポケットから小さな二枚貝を入れ物にしたのを取り出し、顔を真っ赤にしながら両手で差し出してくる。

 子供の手のひらに収まるほどのサイズだ。

 僕は戸惑いつつも、彼女の手から二枚貝を受け取る。


「これは……?」

「昔、亡くなったおばあちゃんから教えてもらった火傷の薬です。火傷の傷を消すことはできませんけど、あの、少しでもダークさんの火傷の気休めになればと思って……。お世話になったせめてものお礼にって。ご、ご迷惑でしたか?」


 ミヤが上目遣いで心配そうに尋ねてくる。

『奈落』から出て初めて純粋な善意からプレゼントを贈られた。品質的には確かに一般的なレベルだろうが、その気持ちが非常に嬉しかった。


 僕は火傷の薬が入った二枚貝を握り締めお礼を告げる。


「全然迷惑なんかじゃないよ。本当にありがとう。嬉しいよ」


 感謝の言葉だけでは僕自身が満足できず、懐をまさぐった。

 お返しの品物を彼女に渡したくなったのだ。


(さすがに盾や剣、ナイフを懐から出すのは怪しすぎるし、薬ひとつに大げさで引かれるか。なら小物やアクセサリー系が良いかな?)


 宝石が付いた高価そうな指輪やネックレスなどではなく。

 もっと受け取りやすく、かつダンジョンに潜る彼女に相応しいアイテムは――。

 高速で思案し1枚の『無限ガチャ』カードを取り出す。


 懐から取り出す前に、解放(リリース)でカード化を解除する。


「薬のお礼に受け取ってください」

「わぁ、綺麗……」


 僕の手のひらの上には赤い糸で編まれたミサンガが一つ載っていた。


『SSR、祈りのミサンガ』だ。


 ガチャランクは高いが、『強い願いによって小さな奇跡を起こすアイテム』と言うやや抽象的な効果を持つマジックアイテムである。

 実際に実験で性能をテストしようとしたが、その時は『小さな奇跡』というモノは特に起きなかった。

 ガチャランクは高くても発動条件、効果もいまいち不明な謎アイテムである。

 しかしミヤの赤髪と同色のため、普段身に着けていても見栄えが悪いことはないだろう。また糸で編まれているため、邪魔にもならず普段使いできるアクセサリーにもなる。


 ガチャランクは少々高いが見た目的に高価にも見えないし、お返しの品物としては悪くないだろう。


 ミヤはお返しが予想外だったのかアワアワと狼狽える。


「あ、あのお薬は本当にたいしたモノじゃなくて、こんな綺麗なミサンガをお返しで頂けるほどじゃなくて。それに……」


 彼女の視線が僕の背後へと及ぶ。

 僕の背後にはネムムが控えていて、小声で独り言を漏らす。


「だ、ダーク様からプレゼントを頂けるなんて羨ましい……妬ましい……ッ」

「ネムムよ、気持ちは理解できるが落ち着け。少女を怖がらせて主のメンツを潰すつもりか? もしそうなら我輩も容赦せぬぞ」

「……ネムム、ゴールド」

「失礼しました、ダーク様」

「我輩も少々口が過ぎたようだ。許して欲しい」


 僕の一声に2人は直立不動になる。

 改めて咳払いして、ミヤ達に向き直った。


「薬を頂いただけじゃなくて、その気持ちが嬉しかったんです。なのでどうか受け取ってください。お願いします」


 これは偽りのない本音だ。

 だから彼女に似合っているし、冒険者である彼女をもしかしたら助けてくれるかもしれないこのミサンガをプレゼントとして贈ったのである。


 さすがにお願いされては断り切れず、ミヤは兄や幼馴染み達を振り返り、皆が頷くのを見ておずおずとミサンガを受け取る。


「あ、ありがとうございます、ダークさん」


 彼女は両手でミサンガを握り締めると、心底嬉しそうに笑みを浮かべた。

 喜んでもらえて嬉しくて、僕も笑みを浮かべ返してしまう。


「ミヤ、よかったな」

「ミヤちゃんにすげぇー似合う赤色ッスよ! ダークさんのセンスはマジすげぇーっすね!」

「(こくこく)」


 エリオ兄や幼馴染みのギムラ、ワーディからも褒められて、ミヤが嬉しそうに顔を赤くする。

 彼女はダンジョンに潜る前に、僕達の目の前でミサンガを左腕に着けると、


「ありがとうございます、ダークさん。一生大切な宝物にしますね」


 そしてミヤは満面の笑顔で再度お礼を口にしたのだった。




 ☆ ☆ ☆




 ダンジョンに入場後、僕達はいつも通りまずは人目に付かない場所まで移動する。


『SSR、存在隠蔽』で姿を隠し『SR、飛行』で空を飛び、まずは2階層に続くダンジョン階段を目指す。

 いつも通り空を飛びながら、エリオ達とのやりとりについて会話を交わす。


「た、確かに嫉妬心が無かったとは言いませんが、彼女が渡して来たのは本当に低品質の薬でした。『SSR、祈りのミサンガ』とは明らかに釣り合いが取れていなかったので進言したのです!」

「確かに薬自体はそうかもだけど、彼女達の気持ちが嬉しかったからさ」

「恥じることはないぞ主。あそこで剣や武具、宝石付きのアクセサリーなどを出したら我輩は諫めていただろう。だが主は相手の少女のことをしっかり考えて、彼女に似合う色のミサンガを出した。実に素晴らしくスマートな行動だ、いったいどこに文句をつける要素がある? むしろあの場面では率先して背中を押し、認めてこそ良い女ではないか」

「ぐぬぬぬぬ……今回ばかりはゴールドの言い分が正論すぎて反論出来ない!」

「わははははは! ネムムよ、精進が足らぬぞ! 精進が!」


 ネムムが悔しそうに顔をしかめ、ゴールドが楽し気に笑い声をあげる。


 一通り笑い声をあげると、なぜかゴールドは手放しで僕を褒めてきた。


「今までの行動であの若者達の心は掴みつつあるだろう。我らの名前が将来有名になれば、彼らがあちこちで今日の話をすることで主の株もあがるというものだ。名をなすには強さだけではなく、優しさや人格も重要な要素。最初、彼らを助けたのも気まぐれかと考えていたが、これが狙いだったのだろう? さすが我輩の主だ! まさに神算鬼謀とは主のことを指すのだな!」

「!? そ、そうだったのですかダーク様!?」

「まさか、誤解だよ。僕も彼女達とここまで関わることになるなんて、予想なんてできないって」


 本当にそんなつもりで彼女達を助けた訳じゃない。

『奈落』から地上に出て来た後、買い物をすれば人種(ヒューマン)だからとぼったくられそうになったり、他種から差別的な視線を向けられた。

 しかし彼女達の純粋さを前に『まだこの世界も捨てたものじゃないな』と思えたから、彼女たちを助けたりお返しをしたりしたのだ。

 ゴールドやネムムが考えるような他意はない。


 否定してもゴールドは信じず『謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ』と返され、ネムムは『さすがダーク様です!』と大きな瞳をさらに広げてキラキラと尊敬で輝かせていた。

 もうすぐ2階層に通じる階段につくのと2人の手放しに信じる姿に諦める。


 僕は微苦笑を漏らしつつ、2階層に続く階段へ向かって空から地面に下りていくのだった。


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


なんかこういうプレゼント交換っていいですよね。

凄く青春っぽいシーンに感じるというか。

ネムムが嫉妬するのはお約束ということで(笑)。


また今日も2話を連続でアップする予定です。

13話を12時に、14話を17時にアップするのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は13話です)。


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 評価しろ!モチベが上がるから~等々が 各ページに書いてる文章が長すぎてウザイ・・・
[気になる点] 計謀 二回はかってて草
[一言] >『奈落』から地上に出て来た後、買い物をすれば人種だからとぼったくられそうになったり、他種から差別的な視線を向けられた。 > しかし彼女達の純粋さを前に『まだこの世界も捨てたものじゃないな』…
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