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28話 辻斬り

「……どうなっているんだ、全く」


 僕は執務室の自席に座りながら、手にした書類から顔を上げ疑問の声音を上げる。

 書類の内容はナーノの最新情報についてだ。


 無事にドワーフ王ダガンの依頼である『大規模過去文明遺跡』を攻略した。

 ダガンから『王印』まで受け取り、ドワーフ王国内部でならナーノに対して国家反逆罪、脱税、強姦罪だろうが好きに罪をでっち上げて投獄することさえ可能になった。


 故にナーノに対して『どうやって復讐をしてやろうか』と考え、具体的な案を出すため彼の現状を知ろうとしたのだが……。


「ナーノがドワーフ王国首都で辻斬りをしているって……なんでそんな状況になっているんだ?」


 僕は意味が分からなすぎて首を傾げてしまう。

 少し前のナーノは普通にそこそこ有名な工房で働くドワーフ種の鍛冶職人、という話だった筈だ。

 ドワーフ種の中ではエリートと言っていい立ち位置で、普通であれば他人に羨まれる立場だろう。ましてや多少の諸々の不満を持っていたとしてもそれは誰しもが持つものであり、真面目な職人気質のドワーフ種が突然辻斬りを始めるなど、変化しすぎというものである。

 執務室椅子に座る僕の正面に立つアイスヒートが、戦闘服ではなくメイド姿で背筋を伸ばし直立不動で答えた。


「辻斬りを始めたのはごく最近です。どうやら手にしている剣の性能を確かめたくて夜間、単独で動く冒険者やドワーフ種を相手に襲いかかっているようです」


 僕達が『大規模過去文明遺跡』に対して準備をしたり実際に潜っている間は、『奈落』最下層は『UR、炎熱氷結のグラップラー アイスヒート レベル7777』に任せていた。

 アイスヒートは右側の髪が炎のように赤く、左側が氷のように青いのが特徴的な女性だ。

 性格も真面目で、戦闘能力も高いため僕のガードにつくことが多々ある。


 普段は彼女の役をメイがおこなっているが、今回はアイスヒートが『奈落』最下層を纏めていたため、彼女に声をかけてナーノ最新情報書類を提出してもらったのだ。


「その、ナーノが手にしている剣はどんなモノなの?」

「アオユキ様が監視用使い魔を通して確認する限り、非常に気持ちが悪い剣だとか。剣の能力はそこそこ高いようで、遠目で確認する限り、業物で冒険者の武具ごと切り裂き絶命させています。さらに剣に血を啜らせるように殺害後、すぐに現場を移動せず遺体に剣を長時間も突き刺しています。所持者であるナーノ本人も遠目からでも分かるほど正気を保っていないことから、アオユキ様曰く『禁忌の剣』の可能性が高いと」

「『禁忌の剣』? だとしたら本物の呪いの武器じゃないか。ナーノはいったいどこでそんなモノを手に入れたんだ。6ヶ国協定で『禁忌の剣』所持は禁止されているはずだろ。簡単に手に入るようなモノじゃないはずだが……」


『禁忌の剣』とは、簡単に言ってしまえば呪われた武具だ。

『種族の集い』時代、冒険者達から『禁忌の剣』についての話を聞いたことがあった。


 確かに強い力を持つが、使用するには到底割りがあうモノではないらしい。

 所持しているだけで6ヶ国協定違反で最悪死刑になる上、触れる時間が長いほど精神を病み、寿命を縮めて、仲間や他者を襲うようになる。

 普通の冒険者からすれば、マイナス要素しかない。


 小耳に挟んだ話で昔、犯罪奴隷に『禁忌の剣』を持たせてダンジョン攻略やモンスター退治をする懲罰部隊を作り出そうという計画があったとか。

 しかし、『禁忌の剣』を持たせると互いに襲いかかるし、指示は聞かない。監視役の者に襲いかかって、命を落とす事態も少なくなかった。

 結果、計画は失敗して破棄された。


 つまり『禁忌の剣』は毒にしかならない兵器だ。

 なのになぜナーノが、そんなマイナス要素しかない『禁忌の剣』を所持しているんだ? そうそう簡単に手に入るモノではないはずだが……。


 僕の内心の疑問にアイスヒートは察して如才なく対応する。


「入手経路に関しては、辻斬りが分かった後に急ぎ調べたもので確度は低いかもしれませんが、次の書類にまとめております」

「…………ナーノ自身が『禁忌の剣』を作り出した?」

「はい。あくまで仮説ですが」


 ここ最近ずっと『大規模過去文明遺跡』に意識を割いていたため、ナーノの情報に関してはドワーフ王国から逃げ出さない限りは、優先度は低かった。

 書類を確認する限り、ナーノは仕事を辞めて郊外の屋敷へ引っ越し。

 単純に働くのが面倒になって、『ますたー』候補だった僕を裏切ったことで得た褒賞金で屋敷を買ってのんびり余生を過ごす――なんて雰囲気ではない。

 屋敷に出入りするのは人種男性の商人だけで、ナーノは一度も外に出ず、屋敷に引きこもっている。


 商人が運ぶ物は食料、日用品、鍛冶に必要な鉄鉱石や各種素材、錬金関係も運ばれている。

 さらには人種奴隷もだ。


「人種奴隷は人目から隠すように大樽に詰められ運ばれていたようです。最初はアイスヒート達も意味が分からず困惑しておりましたが……今なら『禁忌の剣』を作る材料にされたのだと予想がつきます」

「…………」


 アイスヒートの答えに僕は眉根を顰める。

 なぜナーノが『禁忌の剣』を作ることができるのか?

 理由は分からないが、人種奴隷が『禁忌の剣』の材料にされたとしたら、どう考えても愉快な想像は出てこない。


 だがナーノが『禁忌の剣』を製造しているとは……。


『種族の集い』時代、酒盛りの席でナーノが場の雰囲気に流されて自身の夢を語ったことがあった。

 彼は『自分の手で物語に出てくるような伝説の武器を作りたい』と熱く語っていたのだ。

 その情熱は火傷しそうなほど熱く、普段気難しい表情しかしないナーノが子供のようにキラキラと目を輝かせていたのが印象深い。

『種族の集い』に入団したのも、『伝説の武器になる材料、素材を得やすいため』だろうと僕は1人胸中で納得していた。


 どうやら彼は自身の夢を叶えるため文字通り『禁忌』に手を出してしまったようだ。

 実際、物語で英雄が『禁忌の剣』を持ち、強い精神力で抑え込み戦い伝説の武器扱いされているのもあるが……。あくまでそれは物語で、現実はそうではなく『禁忌』に飲み込まれていくのが常だ。

 ゆえに6カ国で『禁忌の剣』は禁止されている。

 まさかナーノが『禁忌の剣』製造に手を出すとは予想外である。


 ――だがお陰で昔を思い出したのと、彼が人種奴隷を使って『禁忌の剣』を作り出していることで、復讐する方法を思い付く。

 ナーノの蛮行を止め、彼に絶望を与える。

 僕はふと思い付いた復讐方法に胸中で笑みを零してしまう。


 アイスヒートの話が続く。


「またナーノの屋敷に出入りする人種商人がアオユキ様曰く『何かおかしい』とのことで。調査したのですが……」

「何か怪しい点は見つかったの?」

「いえ、至って普通の人種商人でした。ですが……」

「普通過ぎるんだね」

「はい。まるで事前に調べられるのを警戒しているかのように綺麗過ぎて……逆に怪しいと感じました」

「…………」


 怪し過ぎてアオユキも無理に使い魔で監視せず、距離を取っているらしい。

 僕は顎に手を当て考え込む。


(レベル9999のアオユキが使い魔を通して『何かおかしい』と感じ取り調査した。結果、綺麗に整いすぎていた、か……。ただ単に隠蔽を綺麗にしたがるタイプ? それとも別の可能性か? ……その人種商人は警戒した方がいいかもしれないな)


 念のため一度アオユキと直接顔を合わせて話を聞く必要があるようだ。


 僕は改めてアイスヒートへと向き直る。


「アイスヒート、アオユキに『ナーノや人種商人』について話がしたいとアポを取ってくれ。蛮行は止めなくちゃいけないし、場合によってはその人種商人も含めてナーノに対しての復讐に使わせてもらうから」

「了解しました。直ちに連絡を取らせて頂きます」


 アイスヒートは一礼し、執務室を出て行く。


 こうしてナーノへの復讐が始まろうとしていた。


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!


また最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
ナーノに関する調査報告はアイスヒートがしているのに口頭説明の段階でアイスヒートが三人称扱いになっております。 ん?となりましたがいかがなものでしょうか?
[良い点] 面白いです
[一言] うーん……これは、まさかあのヒソミはこの状況を作り出すために?
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