25話 書庫&宝物庫
メラの分体――狼が見つけた書庫と宝物庫らしき場所へと向かう。
僕達が居た場所はやはり住宅街的な区画だったらしく、さらに奥へ進むと別の区画が存在する。
その区画に書庫と宝物庫らしき建物が存在した。
最初に向かったのは書庫だ。正確には書庫――というより、シックス公国にあると聞いた多数の本を集めた図書館にイメージが近い。
貴族の屋敷ほどの大きさの建物で、内部に入ると本棚が倒れ、本が床に大量に落ちている。
ドワーフ種達は落ちている書籍を拾い中身を確認するたび、『ああぁぁぁ!』や『うひょぉおぉぉ!』などと歓喜の声をあげだす。
僕も気になって落ちている書籍のひとつを拾いパラパラとページをめくる。
この手の遺跡から出土される書籍は、現代に近い文法もあれば、解読が必要な物まで多岐にわたる。今回はどうやら後者らしいが、描かれている精緻な絵を眺めるだけでも楽しかった。
(この書籍に書かれているのは上の海で見た魚モンスターが多数記されているな。シロナガスオオクジラや空飛ぶ魚、頭がノコギリになっている魚の絵まで描かれている。もしかしてあの人工海に居る魚達が全て載っているのかな?)
他にも多数の魚モンスターが多数載っていて、わくわくとした気分にさせてくれる。
だがここにずっといる訳にもいかない。あちらこちらで歓喜の声をあげるドワーフ種達に移動するよう促し、次は宝物庫へと向かった。
『宝物庫』という表現から華やかなイメージがあったが、辿り着いた建物は大きな四角箱形だった。
頑丈さを優先したようで、華美なデザインや装飾など一切無視していた。
住宅や図書館とは違って、ぱっと見では出入口が発見できなかったが、メラの分体である狼曰く、内部から貴金属の匂いがするため『宝物庫ではないか』と推測したとか。
ちなみに、似た建物が10個以上ある。
出入口が無いのなら、無理矢理入るしかない。
「ナズナ、大剣プロメテウスで壁を切ってくれ」
「分かったぜ、ご主人様!」
僕に頼られたのが嬉しいのか、ナズナが喜々として大剣プロメテウスを両手で握り締め尖端を突き立て押し込んでいく。
大剣の半ば手前で壁を貫通したらしく、刃を上下させてノコギリのように壁を切っていった。
「? どうしたんだ、ご主人様、微妙な顔をして?」
「……微妙な顔なんてしていないよ。ナズナは頼りになるなって感謝しているだけだよ」
「えへへ、感謝だなんて。あたい、もっともっとご主人様の役に立てるように頑張るから!」
ナズナは僕に褒められたのが嬉しかったのか、ニコニコ笑顔で作業を再開する。
……正直、もっと格好良く剣を振るって斬って穴を開けてくれると思っていたとは言えず、適当に誤魔化しの台詞を告げた。
彼女のやり方が合理的なのは理解できるのだが……。
ナズナの協力で無事に出入口が開く。
ちょうど開けた穴の位置が良かったらしく、覗き込むと部屋には大量の金銀財宝が詰まっていた。
もう一つ隣の建物を同じようにナズナに穴を開けてもらうと、剣や盾、鎧、杖などのマジックウエポン、アイテムがずらりと並んでいた。
図書館の時と同様にドワーフ種が中に入り、手に取り確認するたび『ああぁぁぁ!』や『うひょぉおぉぉ!』などと歓喜の声をあげだす。
ドワーフ種達にとって金銀財宝より、やはりマジックウエポンやマジックアイテムの方が嬉しいようだ。
残りの建物もナズナの手で次々に穴を開けていく。
一通り開けて、中を確認していった。
そのたびにドワーフ種達が文字通り一喜一憂する。
ドワーフ王ダガンが満面の笑顔で僕へと感謝の言葉をかけてきた。
「ライト殿、儂達をここまで連れてきてくれて心底感謝する! 無限ストーンゴーレムに、人工海、過去文明にかかわる多数の書籍! 軽く見ただけでわかるほどの宝が並ぶ宝物庫! ライト殿達のお陰で大発見の連続だわい! これを公表すれば歴史がひっくり返るほどの偉業じゃ! ドワーフ種の歴史上一番の発見じゃ! これらの技術を研究するのが楽しみだわい、得た技術の全てはライト殿に全て伝えるし、研究対象以外のマジックウェポン&アイテムや金銀財宝は全てくれてやる! 明日から過去文明の研究し放題じゃよ! ひゃっほい!」
「……それは何より」
ダガンのあまりの喜びように圧倒されつつ、僕はなんとか返答した。
金銀財宝や低中位のマジックウェポン&アイテムは僕らもそこまで必要としないが、ドワーフ王国の武力を増やさないためにも貰えるものは貰っておいた方が良いだろう。もちろんそこそこ強力な武具があれば優先的に確保するつもりである。
彼は僕の反応など気にせず話を進める。
「ライト殿は約束を果たしてくれた。今度は儂らが約束を果たそう。これを受け取ってほしい」
「これは?」
ダガンが懐から取り出したのは黄金のハンコだっだ。
持ち手がハンマーとツルハシを象り、そこに蛇が複雑に絡まっている。芸術作品として見る分には非常に優れているが、持ちにくそうで使い勝手は悪そうだった。
ダガンは僕の手にハンコを手渡すと悪戯っぽく笑う。
「王印じゃ。ライト殿のおこない全てをドワーフ王国が保証する印じゃよ。この王印と王の保証があればドワーフ領内であれば、どのような行為も黙認される。もちろん儂からも部下にライト殿が王印を持つことを周知するし、王印があれば兵士を動かす権利もあるぞ。むしろその王印を持つことでドワーフ種王族の継承権が発生するな」
「継承権? そんな大切なモノを貰っても良いのですか?」
「もちろんじゃ、むしろ儂的には足りないぐらいだぞ? ライト殿が望むなら今すぐ儂は玉座を譲るがどうする?」
「いえ、さすがに人種である僕がドワーフ種の玉座に腰を下ろすつもりはありませんよ」
「ライト殿は慎み深いな。これだけの大発見、偉業をしたのだから、人種、ドワーフ種など気にする必要はないと思うがの。反対派がいればマジックアイテムで釣るなり力で潰すなりすれば良いし、なによりライト殿ならドワーフ王国国王も立派にこなせると思うのだが、残念じゃの……」
ダガンが口調こそ穏やかだが、もし同意していたら『今すぐにでも王座を代わる』と顔に書いてあった。目がまったく笑っていないのだ。
理由は簡単に想像がつく。
これからこの過去遺跡で発見した書物、施設、マジックアイテムの極秘研究がおこなわれる。
それに参加するためさっさとドワーフ王を引退したいのだろう。
例え人種である僕に押しつけてもだ……。
ここで冗談でも同意したら、そのまま勢いに任せて玉座を押しつける気配がビンビンに伝わってくる。
玉座には興味ないが、この王印とドワーフ王ダガンの全面的な協力は非常にありがたい。
これらがあれば人種王国玉座にリリスを座らせるため、ドワーフ王を自分達側に賛同させることができる。またドワーフ領内で動きやすくなり、裏切り者ナーノに対して国家反逆罪、脱税、強姦罪だろうが好きに罪をでっち上げて投獄することさえ可能になったということだ。
「ど、どうしたライト殿。儂は何か気に障るようなことを口にしてしまったか?」
裏切り者ドワーフ種ナーノに対する復讐を『どうやってしてやろうか』とついつい考えてしまった。その感情が表に出てしまいダガンを怯えさせてしまう。
彼は青い顔で申し訳なさそうに尋ねてきたが、僕は慌てて否定。
ダガンに非が無いことを伝える。
そして胸中ではこの王印をどう使うか、またどうやってナーノに復讐をするか考え続けたのだった。
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