24話 宗教画
乗り慣れた糸箱が地面にゆっくりと着地する。
罠や敵モンスターなどを警戒し、先にスズが下りて周囲を確認。続いて皆が順番に下りていくが、緊張はない。
大規模過去文明遺跡に入ってから何度も危険な目に遭ってきた。それ故、なんとなく雰囲気で危険か、安全かを理解することが出来てしまう。
ここは危険な匂いが薄い。
むしろ、日常を感じさせる空気さえ漂っていた。
「画一的で頑丈そうな作りの建物だけど……住宅街なのかな?」
僕はきょろきょろと周囲を見渡し、ぽつりと漏らす。
声には出さないが、他の皆も似たような感想を抱いているのがなんとなく理解できた。
とはいえ安全性を考えて、これ以上の先があるかどうか確認する必要がある。
「メラ、いつも通り頼む」
「ケケケケケケケ! 了解しました!」
メラが指示に従いいつも通り、鳥と狼を出して分体を調査に向かわせる。
分体が戻ってくる間、僕達もただ突っ立っているのも無駄なため、周辺を見て回ることになる。
……むしろ、この状況にドワーフ種達が黙っていられるはずがないと、妙な信頼感すら抱いていた。
「ライト殿! ライト殿!」
「……何があるか分からないので単独行動禁止で。皆で移動しつつ確認しましょう」
危険な雰囲気は薄いとはいえ、警戒に手を抜いて良い訳ではない。
僕達は纏まって移動することになる。
まず最初にドワーフ種達が向かったのはすぐ側の建物だ。
黒い粒が混じった灰色素材を四角形にした作りをした建物。
大きさはごく普通の一軒家程度。
扉に鍵はかかっておらず、普通に入ることが出来た。
内部は極々普通の家具が置かれているのが逆に違和感を覚える。イメージとしてもっとインパクトがある物があると想像していたからだ。
他周辺の建物も見て回るが、どれも一緒の作りで、家具が置かれているだけだった。
「ふむ……上の階層は素晴らしい技術の宝庫だったのだが……」
この結果にドワーフ王ダガンも髭を弄りながら、首を傾げる。
「とりあえずもう少し奥へ進んでみましょう。他に珍しい、稀少な物があるかもしれませんから」
「……そうじゃな、ライト殿の言う通りだな」
僕のフォローにダガンが返事をして、歩き出す。
奥へ進むと他画一の建物とはやや趣が違う、大きめの建築物が建てられていた。
他とは違い上に鐘のような物がぶら下がっている。地上の教会のような雰囲気を漂わせていた。
他とは雰囲気が違うため、中を確認することに。
「これは……やはり宗教施設なのかな?」
扉を開き中へ入ると、長椅子がずらりと並び、奥には一段高くなっていた。
小さな窓から疑似日光が降り注いでいるため、やや薄暗くはあるが光量に不自由はしない。
さらに奥へ進むと、今までとは違った物があった――正確には掲げられていたのだ。
「ほぁ~大きな絵だな……」
「ケケケケケケケ! ご主人さま、奥の一部が崩れているのでお気を付けて下さいね」
ナズナの率直な感想。
奥の壁一面に彼女の指摘通り宗教画のようなモノが描かれていたのだ。
左側には一つ上の階層でナズナが戦った『蛇擬き』に似た姿が描かれている。そして人種、獣人種、竜人種、エルフ種、ドワーフ種、魔人種らしき人物達。
一部、中心に黒髪の人種らしき人物達が集まっている。まるで他種を指揮しているように見えなくもない。
(この中心に集まっている黒髪の人種って『ますたー』なのかな?)
他人種と違って中心に居て、他種を指揮しているようにも見える特別扱いを受けているのだ。
そんな彼らが複数集まって『ナニカ』と対峙していた。
右側――『ますたー(?)』+6種族側と敵対している存在は、化け物達だった。
ドラゴン、巨人、ミノタウロス、ワイバーン、巨大な魚モンスターに、大蛇。大型モンスターだけかと思いきやゴブリン、オーク、昆虫型モンスターなど細かいのも多数存在した。
(モンスターが巨大な口から吐き出されている……?)
それらモンスターがより巨大な乱杭歯の口の中から吐き出され、6種族と『ますたー(?)』と戦っている。
その乱杭歯の巨大な口は、絵にもかかわらず非常におぞましい『ナニカ』だと一目で分かる力強さがあった。実際、僕だけではなく他の皆も怖気を震わせ黙り込んでしまう。
地下に眠る『邪神の口を実際に目にしながら描いた』と言われても信じる凄味がある。
だが、右側の絵は完全に見られる訳ではない。
先程メラの指摘通り、上から落ちてきた瓦礫によって右側の一部が潰れてしまっている。特に右側の乱杭歯の主の顔であっただろう部分、そしてその周りが大きく削られている。
そのため完全な状態で絵が見られる訳ではなかった。
数日前、僕達の戦闘で上から瓦礫が落ちてきた訳ではない。
恐らくではあるが、昔、ドワーフ種達が送り出した冒険者達vs人造神話級兵器『蛇擬き』の戦闘によって落ちてきたようだ。
なぜ分かるかというと……瓦礫、建物の崩れ具合が新しくない。どう考えても数十年以上は経っている。
(『蛇擬き』の破壊力が凄かったせいか……)
誰かがコントロールしていれば別だったのかもしれないが、神話級兵器が勝手に動いて辺りを破壊しまくればこうなる、ということなのかもしれない。
結果、瓦礫によって絵の一部は破壊され完全に見えなくなってしまっていた。
それを除いたとしても、この宗教画には妙な迫力がある。
「なんだか気持ち悪い絵だな……」
「嬢ちゃんの言う通り薄気味悪い宗教画じゃわい……」
ナズナや、ダガン含むドワーフ種達からの評判は頗る悪い。
だが個人的にはここまでくるだけの価値がある宗教画だと思う。
なぜなら、左側の『ますたー(?)』や『蛇擬き』、他種が手を取り合い右側のモンスターを吐き出す乱杭歯の口と相対している。
つまり、右側の『ナニカ』、どれほどの化け物かは分からないがやはり『ますたー』と敵対する、彼らと同等かそれ以上の存在がいるという証拠ではないだろうか?
僕達が『大規模過去文明遺跡』へ潜る理由――竜人種、魔人種が秘匿する情報のヒントなどがないか。
そして、『ますたー以外の存在』について。さらに、ダガンが言った『過去に栄えた文明を持つ古代人など歯牙にも掛けず滅ぼせる神のような存在』。
恐らくだが、この絵の右側の乱杭歯の口を持つ存在は、神……邪神として描かれているのではないだろうか。
背後で扉が開く。
メラの分体である狼が入ってきたのだ。
狼がメラと統合される。
彼女は記憶を確認して、口を開いた。
「ケケケケケ! ご主人さま、どうやら書庫と宝物庫らしき場所を発見したようです」
『!?』
この報告にテンションが下がっていたドワーフ種達が瞳を爛々と輝かせたのだった。
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