20話 大剣プロメテウス
今日は19話を昼12時、20話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は20話)。
「……ライト様、お気を付けて下さい。あれにはレベルがありません」
「レベルがない?」
メイの言葉に直ぐには対応できずオウム返しで返事をしてしまう。
敵として目の前に突然現れた、約10mもの巨体を持ち、両腕と下半身が蛇、上半身と顔に鎧を纏っている『蛇擬き』。
レベルが存在しない――まさかあれはレベルという概念の外の存在だと言うのだろうか?
『シャァアァアァ!』
『蛇擬き』が本物の蛇のような声音を上げて、距離を縮めてくる。
スズが再びロックを向けて発砲!
1分間1000発を超える速度で魔弾を発射するが、『蛇擬き』は一切気にせず、正面から突撃してくる。
魔弾が狙い違わず、顔、腕、胴体などに飛翔するが、全てすり抜け後方へと着弾してしまう。
スズの攻撃が全て意味を成さない。
「――ッ!」
彼女(?)は驚きと悔しさで歯噛みしてしまう。
そんなスズにメイが注意を飛ばす。
「スズ、無駄です。あれに貴女の攻撃は通じません。あれは恐らく過去文明が作り出した人造神話級兵器です。なのでナズナ、お願いします!」
「おうよ! 任せておけ!」
メイの指示にナズナが大剣を背負い駆け出す。
約10mはある巨体の『蛇擬き』に怯むどころか、
「どりゃぁぁぁッ!」
正面から激突!
大剣を振るう。ナズナの一撃が強すぎて両腕の蛇を交差した『蛇擬き』が巨体にもかかわらず勢いを殺せず後退ってしまう。
ナズナは余裕綽々の態度で大剣を構える。
スズの魔弾は通り過ぎ、ナズナの大剣は防げず防御した。
メイの指摘で僕はようやく理解する。
「レベルが表示されないってことは……あれは過去文明が作り出した人造神話級兵器――ゴーレムの一種というわけか」
例えば剣を鑑定してもレベルは表示されない。
クラスと能力、名前などが表示されるだけだ。
武器や防具にレベルは存在しないからだ。
故に目の前で動く『蛇擬き』は、動く武器、ゴーレムに近い存在なのだろう。
「しかも人造神話級とは……。過去文明時代、神話級を作り得た可能性はあるとは聞いていたけど、まさか本当に目にするとは想像もしていなかったよ」
だがお陰で、スズの攻撃が効果が無かった訳を理解する。
一般的に武器、防具をランク付けしているが――その基準はどのようなモノなのか?
専門家によっては意見が分かれる場合もあるが、概ね以下のようになる。
創世級――世界そのものを作り出す。
神話級――世界そのものに干渉し、何かしらの影響を与える。
幻想級 ――周囲の物体等に圧倒的な影響を与える。
叙事級――周囲の物体等に影響を与える(幻想級ほどではない)。
秘宝級――周囲の物体等に影響を与える(叙事級ほどではない)
遺物級――周囲に影響を与える(秘宝級ほどではない)
希少級 ――本体が何らかの力を持つ(切れ味上昇、刃に炎が灯るなど)
一般級――一般的な武器、防具。
以上だ。
創世級と神話級は存在自体が伝説上のもので、専門家程度では見たことも聞いたこともないため、あやふやな点はあるが――幻想級以下が主に武具として目の前にある敵や物体に対して何らかの効力を発揮するものであるのに対して、神話級以上の武具や防具は何らかの『隔絶した』能力、言うなれば世界に干渉するような力を持つとされている。
『蛇擬き』が過去文明の作り出した『人造神話級』ならば、スズの攻撃が通り過ぎたのも、なにかしらの隔絶した能力――ある意味『世界』に干渉する程の能力を発揮した結果だろう。
そんな『人造神話級』の『蛇擬き』に対抗できるのは、同格かそれ以上の格を持つ僕が手にする創世級『神葬グングニール』か――神話級を持つナズナだけだ。
過去文明が作り出した『人造神話級』の衝撃から立ち直ったドワーフ王ダガンが、ナズナを向かわせた理由を理解して、震える指先で彼女を指さす。
「ら、ライト殿……『人造神話級』の出現にも心底驚かされたが、あの娘が持つ大剣は神話級だということか?」
「? 気付いていなかったんですか?」
正直、ドワーフ種達がナズナの大剣に何も興味を示さなかったので、あえて触れなかったのかと思っていた。
ダガンがツバを飛ばす勢いで叫ぶ。
「装飾品も少ないシンプルな大剣というのもあるが……あの娘、大剣で波を弄ったり、砂浜で穴を掘ったり、菓子で汚れた手で刃に触っていたのだぞ! 普通、神話級の武器をそんな乱雑に使うなど思わぬわ!」
「…………」
否定できず黙り込み、目を逸らしてしまう。
神話級は文字通り神話に登場するようなクラスの武器だ。この世界にある各国に一つでも存在しているかどうか分からないレベルの武具である。国宝どころか世界財産でも足りない程であり、例え国家が所蔵していたとしても公にすることはないだろう。
実際エルフ女王国、ドワーフ王国で存在が確認されているのは幻想級までである。
にもかかわらずナズナはスコップ代わりにしたり、『奈落』の訓練所などに置き忘れたり、飲んでいた牛乳をあやまって掛けたり――大切には扱われていない。
しかし彼女が持つ大剣は神話級で、ナズナしか扱えないのも事実だ。
僕とダガンのやりとりを余所に、メイが指示を飛ばす。
「相手がどういう方法で攻撃を阻害しているか不明な以上、現状、貴女しか手が出せません。ナズナ、そのモノの相手をお願いします」
「任せろ、メイ! あたいがご主人様、みんなを守ってやるぜ!」
掛け声と共に、ナズナの姿がぶれる。
強烈な踏み込み。
ドワーフ種達からは彼女の姿が消えたと錯覚するだろうが、気付けば『蛇擬き』の正面で大剣を振るう。
金属同士が高速でぶつかりあう衝突音。
一般人からすれば耳を痛めるほどの、音の衝撃を撒き散らす。
ドワーフ種達が反射的に耳を押さえる。
一方、ナズナは嬉しそうに笑う。
「想像以上に硬いな! 以前、戦ったなんとか団長は軽く振るっただけで倒れちゃったから、ご主人様達との訓練以外でようやく少しは本気が出せて嬉しいぞ!」
彼女は心底嬉しそうに、戦闘欲望を滾らせた笑みで大剣――『プロメテウス』を掲げて叫ぶ。
「摂理をねじ曲げろ! プロメテウス!」
彼女の叫びと共に大剣プロメテウスが世界に干渉、ナズナが5人に分裂する。
「ぬがぁ!? じょ、嬢ちゃんが5人に分裂した!?」
「あれか!? 高レベル高速で動いて分裂しているように見せるという高等技術か!?」
「いえ、違います。あれは1人1人、武装も、レベルも、全て同じナズナです」
ドワーフ種達の驚愕に補足を付け足す。
ナズナの神話級、『大剣プロメテウス』は世界に干渉し『摂理をねじ曲げる』ことが出来るのだ。
『摂理をねじ曲げる』とは具体的にどういうものかというと……世界自体に干渉し、本来ありえない事象を引き起こすことができる、ということだ。
『大剣プロメテウス』の力を使えば、『同じ武装、同じレベルの本人を複数出現させることが出来る』。
つまり『大剣プロメテウス』を持ち、甲冑を身につけて、技術や経験もしっかりと記憶したレベル9999のナズナを本人とまったく同じ存在を複数作り出すことが出来るのである。
アオユキとエリーが手を組み、万全の態勢で挑んでようやく戦いになり。
メイが参戦しても足手まといになるという理由の一端がこの『大剣プロメテウス』の能力である。
とはいえ『大剣プロメテウス』も万能ではない。
当然制限が存在する。
まず装備、レベル、記憶を所持する存在は最大でも4人しか作り出せない。
4人を超えるとレベル、武装が下がっていき最大1000人が限界だ。
また無理に『摂理をねじ曲げる』と反動が使用者に返ってくる。
最悪の場合、死亡もありえるのだ。
一番干渉しやすい対象は使用者本人のナズナ自身。
次に自分の持ち物。
次に無機物(石、鉄、地面など)や魔力が篭もった物。
最後は他者だ。
例えば他者に対して実戦において『摂理をねじ曲げて弱体化させる、レベルを下げる、服従させる』ことはほぼ不可能だ。
無理をすれば多少なら出来なくはないが、抵抗されたり、効果がいまいちなのにナズナ本人に返ってくる反動が大き過ぎる。
メリットよりデメリットが多いのだ。
そのため他者に使うより、こうしてレベル9999のナズナ自身の数を増やして攻撃させたほうが圧倒的に有効な方法だった。
『行くぞ! 蛇擬き!』
本人、分裂体含めた5人が大剣プロメテウスを手に突撃する。
『おりゃぁ! ぶっ壊れろぉおぉぉッ!』
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
ようやくナズナの本気の一部を書くことが出来てよかったです!
『白の騎士団』戦では、結局剣を振るって、殴ってお終いだってので……。
今日は19話を12時に、20話を17時にアップしております!(本話は20話です)
では最後に――【明鏡からのお願い】
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