17話 コテージ
「スズ、メラ、これ以上、飛行を邪魔されたくないから残る敵対魚類達も始末してくれ」
「(こくり)!」
「ケケケケケケケ! お任せください、ご主人さま!」
スズとメラが喜々として飛行しつつ攻撃を再開する。
スズは上空から魔弾を発射。
メラは既にオルカ、小刀魚に指示を出しているため、2匹が暴れ出す。
特に脳味噌を奪い体を掌握したシロナガスオオクジラで魚達へと襲いかかり、どんどん海へと沈めていく。
その巨体を生かし、自身の体の損害を気にせずシロナガスオオクジラが自身の仲間の魚達に体当たりし、尾っぽの攻撃で倒していった。
敵の数が多いため、回避しきれず攻撃を受けて死亡する魚達が多数続出。
例え無事に逃げられたとしても、オルカが上手く隙をついて襲いかかったり、海面近くへ逃げ出しても上空からスズが狙撃する。
主力であるシロナガスオオクジラを奪われた時点で、あちら側に勝つ術はなく、一方的にスズ達に倒されていった。
戦闘が始まって十数分ほどで、集まっていた敵対魚達を一掃する。
海面は血の赤、肉片、鱗などが混じり合いそこだけ禍々しい色合いを作り出す。
とはいえ暫くすれば波に混じって薄まったり、海中などに沈み元の綺麗な海を取り戻すのだろうが。
「さて第二陣が来る前にさっさと移動しようか。メラ、分体の回収を急いで。シロナガスオオクジラは邪魔だから始末しちゃって」
「ケケケケケ! 了解しました」
僕の指示に従いメラが分体のオルカ、小刀魚を回収するため降下する。
シロナガスオオクジラの体が綺麗であれば、その背に乗って目的地に移動するのも趣向を変えるという意味ではありだったかもしれないが……さすがに全身血まみれ、傷ついていない箇所など一つもない状態に乗るのは問題がある。
(第一、傷が無くても背に乗って移動は振動が伝わってそこまで快適ではなさそうだろうしね。ナズナやユメなんかは喜びそうだけど……)
効率や安全性を求めるなら、このまま飛行したほうがいい。
「ちょ、ちょっと待ってくれライト殿! メラ殿! あのシロナガスオオクジラは掌握したのだろう?」
胸中で乗り心地について考察しているとドワーフ王ダガンから待ったがかかる。
皆の視線がドワーフ種達に向かう。
ダガンが代表して口を開く。
「あの大きな魚はメラ殿が支配しているのであれば、だったらこのまま連れ帰って研究材料にしたいのだが、駄目じゃろうか?」
「……お気持ちは分かりますがさすがに無理です。メラの分体が支配しているから大人しくしていますが、取り除けば死亡するだけです。第一、あんな大きな魚、どこで飼って研究するつもりですか?」
「ぐぬぅ……ッ」
僕に正論を突きつけられドワーフ種は心底残念そうにシロナガスオオクジラを見つめる。
反論が無いことを確認してから、メラに手で合図を送る。
再び降下を始めた彼女の背中にドワーフ種達が『勿体ない』、『楽しそうな研究対象が……』、『他にも居るじゃろうから帰り道で捕獲を手伝ってもらえれば……』などと漏らし出す。
ドワーフ種の研究に対する情熱に僕は頭痛を覚えてしまう。
本当に下手な敵より厄介である。
メラが無事にオルカ、小刀魚分体を回収し終える。
小刀魚がシロナガスオオクジラから抜け出ると、一度大きく痙攣。そして次第にその巨体はどんどん海中へと沈んでいった。
どうやら死亡後は体が海面に浮くのではなく、海中に沈んでいくらしい。
僕らはその姿を見送ると、目的地へと飛行を再開する。
敵の第二陣が来る可能性があるし、これ以上無駄に時間を取られる必要はない。
その場から移動して暫くすると島が見えてくる。
最初に降り立った小島より1.5倍ほど大きな島だ。
その島のほぼ中心に上の階層でも目にした二重螺旋構造の建物が建っている。遙か上の天井まで伸びて島と繋がっていた。
やはり木々は沿岸沿いに少しあるだけで、砂浜、丈の短い草花が生えているだけだ。
(……この二重螺旋構造の建物はいったいなんの役割があるんだろう?)
気になりつつも、答えなど分かるはずもなく島へと到着する。
最初に罠の有無を確認するためスズが降り立ち、問題無し。その後、皆が島へと降り立つ。
ドワーフ種達はシロナガスオオクジラを得ることが出来ず残念がっていたが、島に降り立つとぶれることなく調査&採取を開始する。
この切り替えの早さは正直感心してしまう。
一応、罠や危険なモンスターなどがいない島だが、前と同じくスズとメラにドワーフ種の護衛についてもらう。
僕はメイとナズナを連れて二重螺旋の真下へと移動した。
一つ上の階層と同じで、こちらも鋼鉄製素材の蓋が破壊され下に進む穴が存在した。
まだ地下があるらしい。
「ライト様、このまま地下へ向かいますか?」
「……いや、今日はここまでにしよう。僕達はともかくダガン殿達は疲労しているだろうから」
ドワーフ種達は元気に採取や調査しているが、さすがに無限に湧くストーンゴーレムに、巨大な魚シロナガスオオクジラ、その他敵対魚の大群に襲われたのだ。
ここで無理して移動するより、一泊して体と精神を休めるべきだろう。
「では夜番の順番を決めておきますね」
「夜番は僕も入れていいよ? 冒険者としても、メイ達より経験は豊富だしね」
「お戯れを。夜番は私達でおこないますので、ライト様はどうぞお体をお休めくださいませ」
冗談じゃなく本気で夜番を務めても問題無いのだが……メイに軽く流され、休むよう促されてしまう。
それ以上食い下がっても彼女たちの役割とやる気を奪ってしまうため、大人しく引き下がった。
『SSR、転移』で皆、『奈落』へ一度帰還する方法も考えたが……。
この場所から『奈落』へと戻れるのは確かだが、最悪、この場に『SSR、転移』で戻って来られない可能性もある。そうすると再び一から潜らないとならなくなり面倒だ。
また緊張感も薄れるだろうし、遺跡探査の感覚も薄くなってしまうという点もある。
「食事は『アイテムボックス』に入っているから良いとして、残る問題は住居環境か」
普通ならテントを張ってその中に、分厚いマントを敷き布団代わりに野宿すればいいが――僕らの面子的にもドワーフ王達に『ここで野宿してください』と言うよりは、より快適に安全に過ごしてもらいたい。
なので僕は懐から1枚のカードを取り出す。
二重螺旋の真下から離れ、具合がよい場所を選びカードの力を解放する。
「『SR、コテージ』、解放!」
過去文明遺跡の島に木の温もりが伝わりそうな2階建てコテージが出現した。
さすがに島の調査をしていたダガン達もわらわらと集まってくる。
「ら、ライト殿、この建物はいったいどこから!?」
「少々特殊な魔術で作り出したのものです。基本的な家具類は揃っているので今日はこちらで、お好きな部屋でお休みください」
「これが魔術で!? ちょ、ちょっと中を見せてくれ!」
「わしも! わしもだ!」
「ワシにも見せてくれ!」
好奇心が刺激されたのかわらわらとドワーフ種がコテージへと入っていく。
(……ドワーフ種は興味深いことがあると本当に一直線だな)
彼らの分かり易い行動原理に思わず遠い目をしてしまう。
ちなみにだが――『SR、コテージ』には、基本的な家具一式がついているが、『巨塔』に棲みだした元人種奴隷達用に用意した鉄製の箱、『R、プレハブ』の中身はカラだ。
故に妖精メイド達には『N、プレハブ』の他にも、ノーマルカードの家具カードを持たせて、ベッド、机、テーブル、衣装ダンスなどを与えた。
『SR、コテージ』より『N、プレハブ』の方が数が多く、大きさもそこそこなので置き場所に困らないという利点があったから、そちらを元人種奴隷達に与えたのだ。
――話を戻す。
「さて、今夜僕達が宿泊するコテージもすぐに作っちゃおうか」
僕がもう1枚の恩恵『無限ガチャ』カード『SR、コテージ』を取り出し、解放する。
一瞬で目の前に今夜宿泊するコテージが出来上がる。
帰りは『アイテムボックス』に仕舞えばいいから、後かたづけも簡単である。
「? ナズナ、さっきから穴を覗いているけど、何かあったのかい?」
普段ならドワーフ種達のようにはしゃいでコテージの中を確認しに向かいそうなナズナが先程からずっと次の地下へ向かう穴を覗き込み続けていた。
僕が声をかけても直ぐには反応せず、首を傾げつつ振り返る。
彼女は鼻をひくひく動かしながら、告げてきた。
「ご主人様……次のこの穴は今まで以上に警戒した方がいい気がする。危険な匂いがするぞ」
『奈落』最強のナズナの勘に何か触れるモノがあったらしい。
彼女の言葉にメイと僕は顔を合わせると、表情を引き締めたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!
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