16話 vsシロナガスオオクジラ
シロナガスオオクジラは『絶対に逃がさない』という意思を表現するように雄叫びを上げる。
腹に響く『オオオオオォォォォォオオオォォォォォッ!』という音が上空にいる僕達の所まで届いた。
(大きいから機会があれば『奈落』の皆やユメに見せてあげたかったし、希少価値からも手を出さないでおこうかと思ったけど……襲ってくるなら話は別だな)
僕は思わず冷たい瞳で見下ろし、指示を出す。
「スズ、メラ、やれるね?」
「(こく)!」
「ケケケケケケケケ! お任せください、ご主人さま! アタシ達の妨害をするあの身の程知らずの魚を、すぐに海へと沈めてみせます!」
スズが力強く頷き、メラが上機嫌に返答する。
スズは反撃のためロックを構え、メラが対水中用のキメラを生み出すための準備を開始する。
「ケケケケケケケケ! 悪いが少しばかり時間稼ぎを頼む。水中用のキメラを生み出すからちょっと手間取りそうでな」
「(こく)」
『メラ、任セテダッテサ』
ロックがスズの言葉を告げると、スズはシロナガスオオクジラに狙いを定めてトリガーを絞る!
銃口から魔弾が『ドドドドドドドドドドッ!』と超高速で吐き出され、襲いかかるが――シロナガスオオクジラはすぐに海中へと逃げ込む。
魔弾が海中を叩くと、潜ってしまったシロナガスオオクジラに到達する前に勢いを失ってしまう。
シロナガスオオクジラは約30mもある巨体にもかかわらず、想像以上に潜水や海中の移動速度が速い。
さらに海中を進む動きに緩急をつけて、時折、背中を海面に出して無数の穴から細かい海水の槍を放出しこちらを攻撃してくる。
「……ッ!」
スズがその隙をついて魔弾を叩き込みバッドステータス化させようとするが、海水の槍数が多いのと、すぐに海中へと潜り水を盾にするためなかなかヒットさせられなかった。
僕は思わずシロナガスオオクジラの行動に感心する。
(地の利を使って上手くスズの攻撃を防ぐなんて……思った以上にシロナガスオオクジラの知能は高いんだな)
レベル4000程度だと、本来なら1.5倍以上ある『UR、両性具有ガンナー スズ レベル7777』を相手にしたらほぼ敗北するはずだ。
実際、レベルは4000より大分下ではあるが、『巨塔』で戦った『白の騎士団』団員達は、スズ達に手も足も出ず敗北している。
にもかかわらず、こうして渡り合えているのはシロナガスオオクジラが、『地の利』――人工海を上手く利用しているからだ。
(弾の避け方に限って言えば、『白の騎士団』より上じゃないかな?)と僕はついそんなことを考えてしまう。
だがこちらの勝利は揺るがない。
もう1人の『UR、キメラ メラ レベル7777』が居るからだ。
「ケケケケケケケ! 待たせたな、巨大魚! オマエにお誂えのキメラの準備が整ったぞ!」
メラのスカートが大きく膨れあがり、対水中用キメラを生み出す。
体長は10mはあり、大きな角に上半分が黒、下半分が白い流線型の魚キメラ『オルカ』が眼下の海へと落下していく。
そして水面に達し、大きく水柱を上げて海中に沈むと――シロナガスオオクジラへ向けて素速い動きで突撃する。
タイミング的に敵が海中から背中を出し、攻撃をしかけてくる寸前だったのもあるが、メラが生み出した魚キメラ『オルカ』の体当たりが強すぎて、シロナガスオオクジラの体が海面から姿を見せる。
その隙を逃すスズではない。
「!」
『オラ! タップリ喰ライヤガレ!』
ロックから発射される魔弾は正確にシロナガスオオクジラの体へと着弾する。
バッドステータスを込めた魔弾だが、相手の体は30m近くあるため、1発、2発ぐらい当たっても効果が出るまで時間がかかるだろう。
とはいえこうなったら、後は一方的にこちらが狩るだけだ。
「ケケケケ! 逃げられると思うなよ!?」
メラが楽しそうに眼下の光景を見下ろす。
シロナガスオオクジラは海中では逆にその巨体が徒となり、軽快に動くオルカに対応しきれず、後手に回っているようだ。
オルカが太い角で突き刺すように、体ごと体当たりを繰り返す。
海面に少しでも体を晒すと、スズの魔弾が遠慮なく叩き込まれた。
『オオオオオォォォォォッ!?』
いくら巨体でバッドステータスを込めた魔弾の効きが悪くても、何十発、100発近く撃ち込まれれば相応に効果があらわれ始める。
猛毒化、盲目、出血、麻痺、睡眠、混乱、呪い、幻覚、衰弱、意識混濁、etc――複数のバッドステータスに犯されて動きがさらに悪くなる。
その隙をついてオルカがさらに攻め立てた。
青い海中にシロナガスオオクジラの血が混じり合い濁る。
こちら側の圧倒的優性ではあるが……全部が全部良い方向へと向かっている訳ではない。
シロナガスオオクジラの血で海が汚れたせいか、暴れていたため気付かれたのか、他魚達が集まり戦いに参加してきた。
「ご主人様! 羽根が生えた魚がこっちへ向かって飛んでくるぞ! 面白いな!」
ナズナの言葉通り、僕達目掛けて羽根が生えた魚が一斉に飛行し、突撃してくる。
羽根と言っても鳥類のような羽毛がある訳ではなく、銀色に輝くキラキラとした薄い鱗のようなモノだ。
羽根魚の嘴は鋭く尖り、そのまま勢いよく突き刺さってくるように突っ込んでくるが、僕達の居る位置が高すぎて届かず海面へと落ちていく。
数百匹の群で空中を飛行する僕達を襲おうとするが、ギリギリ届くのはせいぜい数十匹程度だ。
「……この程度の数で、どうにかなるとでも? ライト様には指一本触れさせません」
数十匹程度ではドワーフ種を護衛しているメイによって、片手間で『魔力糸』を使い切り払われるだけである。
まったく脅威にはならなかった。
羽根魚の他にも背びれがあり鋭い牙を持つ魚や、頭の形がノコギリのようになっている魚が集まってくるが、僕たちまで届く攻撃手段が無く、一方的にスズの魔弾で撃ち殺されるか、オルカの邪魔をしようとして逆にやり返されていた。
また邪魔が増えたのと、シロナガスオオクジラが巨体過ぎて、今のままではいまいち決定打に欠けている。
スズの魔弾によるバッドステータスによって時間をかければ、そのうち死亡するだろうが……巨体のため毒や出血の効きが悪くそれが何時間後かは分からない。
悪いがそこまで付き合っている暇はない。
僕は下半身を『オルカ』製造に使ったせいで無くなってしまっているのか、スカートをはたはたと風に揺らすメラに声をかける。
「メラ、そろそろ良いんじゃないかな?」
「ケケケケケケケ! ですね。ずいぶんと弱らせましたし、そろそろ良い塩梅かと」
彼女は同意すると、自身の左腕をまるまる使用して新たな魚キメラを生み出す。
「ケケケケケケケ! ではさっさと終わらせるぞ!」
メラが左腕を丸ごと使い、1匹の魚を作り出す。
大きさは小魚よりやや大きい程度。
体表はキラキラと輝き、頭部も鋭い形をしている。まるで小刀のような形状だ。
『左腕1本を使用した割りには小さい』と初見であれば正直言って肩透かしをくらうだろうが……その能力は非常にエグい。
メラが小刀魚を投下。
重力に従い落下し、小さな波紋を作り出したがすぐに消える。
小刀魚は敵魚達の群をスルスルと移動し、シロナガスオオクジラへと突き刺さる。
これだけならシロナガスオオクジラからすれば小さな針で刺されたような痛みでしかないだろうが――効果は劇的だった。
『オオオオオォォォォォオオオォォッ!?』
シロナガスオオクジラが何かを振り払うように必死に暴れ始める。
オルカの攻撃など意に介さず、ただ必死にだ。
なぜシロナガスオオクジラがこれだけ暴れているかというと……小刀魚が傷口から侵入し、血管や内部を通って脳を目指しているのだ。
最終的に脳内に到達し、侵入した対象の体を乗っ取ってしまう。
シロナガスオオクジラは本能的に気付いたのか、小刀魚をなんとか排出しようと暴れるが無駄な行動である。
対象者がある程度弱っていないと潜り込めないという制約があるが、それは十分満たしているため排出は不可能だ。
暫くすると――シロナガスオオクジラがビクビクと痙攣を起こし、動きを停止する。
どうやら小刀魚が脳へと到達。
脳味噌に突き刺さり、シロナガスオオクジラの全てを掌握したらしい。
これでシロナガスオオクジラは文字通り敵ではなくなった。
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