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13話 水の匂い

「コアが無い理由も、再生する理由も多分だけど予想がついたよ」


 僕の言葉に、メイが回収した頭部が破壊された狼型ストーンゴーレムを前に喧々囂々の議論を交わしていたドワーフ種達が、肩をすくめる。

『技術のギも知らない素人なのに、技術者のプロである儂達でも分からないことが分かるはずないじゃろうが』と言葉にはしないが、態度が漏れ出てしまう。


 僕は気にせず持論を展開した。


「僕達の手元にある頭部が破壊された狼型ストーンゴーレムが再生しないのは、あちらと違ってメイの『魔力糸(マジック・ストリング)』で作られた布の上にあるからだよ」

「……そうは言うがのお、魔力というのは術として発動する前に遮ったり邪魔するのはほぼ不可能なんじゃ。伝わり方は音に近いというか、音というのはどれだけ板で遮っても伝わってくるじゃろ? 音は極微細な穴から漏れて瞬時に伝わるか、遮った板自体が音の源になると考えられておる。だから魔力をそんな狭い布で防ぐというのはちょっと……」

「ああ、そんなことですか」


 渋い顔をするダガンに、僕はこともなげに言う。

 僕は『奈落』の底でメイだけではなく、この世界でおそらく最も魔力の扱いに長けた『禁忌の魔女』エリーからも様々なことを学んでいる。その程度の予測は既に行なっている。

「魔力というのは音のように障害物を基本無視して伝わりますが、同じ波長――これは水面の波紋をイメージしてもらえればと思うのですが――つまり同じ強さ・同じ魔力色の魔力をぶつけることによって相殺可能なんです」


 僕は床に広がっているメイの糸で作られた布を指さす。


「メイの『魔力糸(マジック・ストリング)』はその『魔力相殺効果』を発揮することができ、対象物体への魔力干渉を打ち消す効果があります。だから頭部だけになったストーンゴーレムが胴体の再生を開始しても、こちらは頭部を再生しないんでしょう。このことから地面か、土その物にストーンゴーレムを修復する再生機能が付与されている可能性が高いのでは? だとするとコアが無いのも説明が付きますし。……つまり、恐らくではありますが、この地下世界そのものがコアの役割を果たしているということですね」

『!?』

「さすがライト様、素晴らしい見識かと」

「? よく分からなかったけど、さすがご主人様だぜ!」


 ドワーフ種達は『水面の波紋に例えれば、魔力を打ち消すことが可能だと!? その発想はなかった!?』と驚愕の表情を作り、メイは感心したように見識を讃えてくる。

 ナズナは『?』と首を傾げつつも、僕が技術者トップ陣であるドワーフ種達すら気付かなかった事実を解明したことは理解したらしく、手放しで褒めてくる。

 僕は思わず微苦笑を漏らし、ナズナをわしゃわしゃと撫でてしまう。

 ナズナも僕に撫でられて、心底嬉しそうにニコニコ笑みを零す。


 一方、素人に技術分析能力に敗北したドワーフ種達が青い顔で震える。


「まさかこの地下世界そのものをコアとして、土や地面に再生機能を持たせることなど……技術的にできるものなのか?」

「普通に考えればありえんが……そう考えると確かに納得できるぞ。彼らに気付かれず突然、敵が多数出現したのも文字通り地面から生えてきて、ストーンゴーレムにコアが無いのも筋が通るわい」

「仮にわし達の技術で再現しようとしたら――」


 ドワーフ種達はショックから立ち直ると再び技術関係について話し合いを始める。

 だんだんスズ&ロックの発砲音、ストーンゴーレムの群に襲われることも気にならなくなったようだ。


(僕の説が正しいとして……文字通りこの地下空間そのものを破壊しないとストーンゴーレムは再生し、湧き続けるんだよね。さてどうやって停止させればいいか……)


 この場にエリーかアイスヒートが居れば、2人のどちらかにこの地下空間全土を氷漬けにしてもらえればストーンゴーレムは再生できず、地面から湧き出すこともない。

 しかし今回エリーは『巨塔』周辺の街作り手伝い、アイスヒートはメイの代わりに『奈落』内政を任せている。

 僕の恩恵(ギフト)『無限ガチャ』カード『SSR、転移』で一度どちらかをここに連れてきて氷漬けにするのも有りだが……と考えていると、メラから分離させて周囲把握させていた狼の1匹が高速で引き返してくる。

 どうやら何かを見つけたらしい。


 そのまま狼はメラのスカート下に戻ると、彼女の肉体へと融合。

 記憶を本体のメラと共有した。


「――ケケケケケケ! ご主人さま、あの二重螺旋の建物の下から水の匂いがして、地下へと下りる穴を発見したようです。ここは少々騒がしいので移動しませんか?」

「メラの言う通り、時間もあるし、ここは少し敵がうるさいから移動しようか。発見ありがとう、メラ。……お陰でこのストーンゴーレムについての対策が決まったよ」


 そう言って僕は一枚のカードを取り出す。

「SSSR、氷の世界(アイスワールド)解放(リリース)


 カードを解放すると、僕の足下から一気に冷気が広がり、ストーンゴーレム達を氷漬けにしていく。

『SSSR、氷の世界(アイスワールド)』、広範囲に影響をもたらし、味方以外の敵や物体を空間ごと冷気の世界に閉じ込め、氷漬けにするカードだ。


「一時的ではあるけど、これでストーンゴーレムの動きは止まった。この隙に下の層にメラが発見してくれた穴から降りるとしようか。ダガン殿達もよろしいですか?」

「……お、おおう。一瞬で全てのストーンゴーレムを氷漬けにするとは……。わ、儂らはライト殿の指示に従うわい」


 氷漬けにしても時間経過で溶けてしまう、強者の場合力尽くで脱出可能だが、ストーンゴーレム程度なら問題はないだろう。下層に降りる穴が見つかったのならばその間氷漬けにしておけばそれで十分だ。

 ダガン達の同意も取れたので、僕達はさらに地下へと向かう。

 メラが先頭に立ち『水の匂いがする』という二重螺旋建物まで徒歩で移動する。


 メラが上空へ攻撃魔術を放ち、光の合図を送った。

 他周囲の探査に向かっている分体を呼び戻すための合図である。


 徒歩での移動のため時間がかかり、新たなストーンゴーレムも散発的に現れる。

 しかしどれほど数が来ようとも、スズ&ロックが放つ無限の弾丸には敵わず一蹴され障害にもならない。


 正直、発砲音や破壊音がうるさいだけで、移動自体は散歩のようなものだった。


 1時間ほどで二重螺旋建物へと到着する。


 二重螺旋建物の真下に鋼鉄製らしき蓋がされていたが、過去ドワーフ種が送り出した冒険者によって破壊されたのか、大きく破損しぽっかりと穴を開けていた。

 覗き込むと、やはり暗く底は見えない。


 僕は振り返ると指示を飛ばす。


「メイ、先程のように頼むよ」

「畏まりました」


 彼女は一礼すると、元工場地帯の穴から下りたように『魔力糸(マジック・ストリング)』で糸箱を作り出す。

 ダガン達も2度目のため慣れたのか、それともこれ以上この層には居たくないのか、さっさと糸箱へと乗り込んでいった。


 皆が乗り込むと、スズ&ロックが最後に迫ってくるストーンゴーレムの群を破壊し尽くし、糸箱へと乗り込む。

 スズ&ロックが乗ったのを確認してから、メイへ視線を向ける。

 彼女は頷くと、


「下へと参ります。皆様お忘れ物はございませんね?」

「ケケケケケケ! 分体も全部取り込んだので問題ありませんよ」


 メイの確認にメラが答え、他の者達も忘れ物、やり残しが無い事を確認してから、再び歩く速度で糸箱を降下させていく。

 もう辺りにはいないだろうが、降下途中で穴にストーンゴーレム達が飛び込まないように、『魔力糸(マジック・ストリング)』でしっかりと塞ぐのも忘れない。

 魔力を注ぎ強化した『魔力糸(マジック・ストリング)』をあの程度のストーンゴーレムがどれだけ数が集まっても破るのは不可能である。

 なので安心して降下することが出来た。


 ダガンも安堵の溜息を漏らす。


「全くとんでもない階層だったわい。……しかし、あのストーンゴーレム技術を手に入れることが出来たら、地上の戦力図が変わってもおかしくないの。ある意味で禁忌項目の第一に『過去文明の技術復元・研究を禁止する』と記されているのか身を以て知ったわい。本当に過去文明とはどれだけの技術を有していたのか見当もつかんの……」


 例えば仮に地上へ先程の『再生ストーンゴーレム技術』を持ち出すことが出来たら、ほぼ無限に攻撃し続ける軍勢を得たに等しい。

 確かにこれだけで地上の戦力図が変わってしまうだろう。


(でも不謹慎かもしれないけど、次はどんな過去文明技術が見られるか個人的には楽しみになってきたな……)


『再生ストーンゴーレム技術』だけでも、ドワーフ種が驚く技術だった。

 次、どんな過去文明技術が見られるのか、舞台観劇を待ちわびているような感覚に陥る。


(メラの言葉だと『水の匂いがした』って言ってたから、次は水攻めでもするのかな? となると大きな川か湖があったりして)


 僕は内心でワクワクしながら、次の地下遺跡に想いを馳せる。


 ――数分後、最初に下りていた時のようにメイが最初に気付き声をあげる。

 先行して垂らしている糸が穴の終わりに到達したようだ。


「皆様、およそ100mほどで穴の終わりに到達します。何があっても良いようにご注意を」


 彼女の言葉に皆が声や頷きを返す。

 暫くすると、糸箱の隙間から再び光が漏れ指す。


 周囲に敵の気配は無く、糸箱に入っていても強い水の匂いがする。

 メイが再び気を利かせて糸箱の一部を緩ませ大きな窓を作った。

 その窓から飛び込んできた景色に僕達は最初に下りた地下世界以上の衝撃を受ける。


「これは……流石に驚くね……」


 窓一面はキラキラと輝く水で覆い尽くされていた。


 僕にとって文献でしか読んだことがない世界――『海』が僕達の目の前に広がっていたのだ。


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


引き続き頑張って書いていきますので、何卒宜しくお願い致します!


また最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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[良い点] 面白いです
[一言] マジック・アイテムを作ったりできるのに、魔力相殺の概念すら無いのか。
[一言] コメントで波の記述について意見が見られたので素人ながら軽く調べてみました。皆さんの言う通り単純に同じ強さの波がぶつかり合うと重なった箇所二つの波を足した状態になり、重なり終わった部分は元の波…
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