11話 天と地を繋ぐ2本螺旋
今日は11話を昼12時、12話を17時にアップする予定です(本話は11話)。
『ンぁぁぁっぁああぁぁぁっ!』
「!?」
太陽光に似た光と森林に草原、そして天と地を繋ぐように遙か続く2本の螺旋の建築物――地下に広がる巨大空間の荘厳な景色に目を奪われていると、『魔力糸』で作り出した糸箱に同席しているドワーフ種達が雄叫びを上げる。
どうやら目の前に広がる光景に興奮し過ぎて感極まったようだ。
「ご、ご主人様……」
ナズナがその声に驚いて僕の腕を再び掴んでくる。
『奈落』最強のナズナを驚かせるのも凄いが――正直、僕も窓にへばり付き、興奮から歓喜の声をあげるドワーフ種達に一種異様さを感じた。
(技術者、研究者寄りのドワーフ種達からすればダンジョンならともかく、遺跡地下にこれほどの空間と世界を作り出していることに興奮する気持ちも分からなくはないけど……)
実際、素人の僕が見ても興味深い光景だ。
天と地上を支えるかのように2本の螺旋を描き繋ぐように2本の螺旋の建築物が建てられ仄かに発光していた。さらに言えば1つではなく、辺りを見渡せば少なくとも2本を対とする螺旋が4つ、かなり離れているがおそらく等間隔で配置されていることが分かる。
遙か彼方にある天井から地上を繋ぐ建築物など、どうやって造ったのだろうか。
天井から太陽光に似た光が降り注いでいた。
それ以外にも、眼下に地上の世界をそのまま移植したかのように森、草原、丘などがある。
ダンジョン等でも空が存在し草原や川が存在するものがあるが、それをおそらく過去文明の技術で創りだしているのだろう。
他にもよく見ると僕達が下りてきた穴と同じモノがあり、そこからは大量の土砂などが流れ込み丘を形成しているようだ。
僕達が下りてきた所以外はさすがに年月に耐えきれず埋もれてしまったのだろう。
「ライト様、このまま地上へと降りても問題ありませんか?」
「……うん、お願い。皆、モンスターや敵からの攻撃に注意してね。ダガン殿達は地上に降りて直ぐに行動をしないでくださいよ? 危ないので」
「す、すまぬライト殿。目の前に広がる光景があまりにも素晴らし過ぎて、少々我を忘れてしまったようだわい」
地上へ到着後、すぐに地面に降り立ち森や螺旋の建物へと駆け出そしそうなダガン達に釘を指す。
既にここは過去文明遺跡内部なのだ。
侵入者を迎撃するために設置された罠や、未知のモンスターなどが襲いかかってくるかもしれない。
下手に動かれたらたまったのものではない。
メイが操作する糸箱が衝撃も無く地面へと到着する。
下りた場所はちょうど草原で、青々と茂った草が広がっている。僕から見て左手に森林があり、4つの二重螺旋の建物はそれぞれ正面と後方、左と右に1つずつある。
まず最初にナズナ、スズ、メラが下りて確認。
問題が無いため、僕とメイ、そしてダガン達が続いて地面へと降り立つ。
『おいら達以外ノ気配ハ無サソウデスネ』
「(コクコク)」
一番索敵能力が高いスズがロックの言葉に同意して頷く。
一方、ナズナが何かを感じたような表情で周囲を見回す。
「スズ、ロック、油断は禁物だぞ。この草原や森、なんかちょっと可笑しいぞ」
「ナズナの言う通り、油断しないほうがいいみたいだね。地下だからだろうけど……虫や鳥の鳴き声一つ無い。あまりにも静か過ぎる」
「確かにそれは妙ですね」
ナズナの違和感に僕が補足説明を入れた。
メイが納得し、糸箱を元に戻しつつ注意深く周囲を窺ったが――今の所、辺りに怪しい動きはなかった。
……むしろ。
「これは何の草じゃ? 食えるのか? 薬効成分があるかもしれんの」
「地面を掘り返して土を持って帰るぞ」
「おいオマエら、ここの土を食べてみろ。地上の土とは味が違うぞ!」
「ふむ、本当じゃ。今まで食べたことがない味じゃな」
ダガン達が草原の草を毟り、根っこごと土を採取。
それだけに止まらず草だけではなく、土まで口に入れて味を確かめ始めた。恐らく地上とこの地下空間の土が違うモノなのか確かめているのだろうが……。
端から見ていると頭がおかしい集団にしか見えない。
本人達は至って真面目だから止めるのも憚られる。
僕はなるべくダガン達を意識せず、自分達の仕事をこなす。
「メラ、周囲の索敵とこの地の探査をお願い。他にもあの穴のように地下へ下りられる階段や穴などがないかも探してみてくれ」
「ケケケケケケケ! お任せくださいご主人さま!」
メラは僕に頼られて嬉しかったのか、声を張り上げる。
ほぼ同時に彼女のスカート下から数匹の狼、両腕の裾からは小鳥が数十羽飛び出す。
まるで手品のようだが、全てメラの体から切り離した分体だ。
ダガン達には既に自己紹介を終えているが、さすがに目の前で服の下から複数の動物が姿を現し飛び立ち、駆け出す姿を前に彼らも驚きで調査の手を止めてしまう。
これが今回の『大規模過去文明遺跡』の調査でアオユキではなく、メラを選出した理由である。
アオユキは殆どのモンスターを従えることが出来る天才テイマーだ。
逆に言えば常にモンスターを連れていなければ本来の力を発揮できない。
その点、レベルはアオユキより低いが、キメラのメラは状況によって体を好きなモンスターに変化させることが出来る力を持つ。
何が起きるか分からない今回の調査では、彼女ほどの適任者はなかなかいないだろう。
――問題があるとすればアオユキの場合、従魔との連絡は随時可能だが、メラの場合、一度自身の肉体に融合し直さないと分体が記憶した情報を知ることが出来ない。
アオユキのように随時情報を得られると楽なのだが……。何もかも完璧にはなかなかいかないものだ。
「ライト様、メラがこの地を把握するまで時間がかかるかと存じますが、野営準備を始めましょうか?」
「うーん……『大規模過去文明遺跡』に入ったばかりだけど、情報も無しに下手に動き回る訳にもいかないか……。メイの言う通り、今日はこの場で野営準備をし――ッ!」
『野営準備をしようか』と言い切る前に、僕は左手の森林へと意識を向け、手にした杖を構える。
メイ、ナズナ、スズ、メラも既に気付き同じように警戒態勢を取る。
唯一まだ気付いていないドワーフ種達が、メラの服下から複数の動物達が姿を現した時とは違う驚きの表情で尋ねてくる。
「ど、どうかしたのか、ライト殿?」
「敵です。ダガン殿達は集まってその場から動かないでください。僕とメイで護衛しますので」
「わ、分かった! 他の者達にもすぐに声をかけるぞ!」
慌てた様子でダガンが他ドワーフ種達の元へ移動し、声をかけ護衛しやすいように集まる。
その間も僕達は視線を森林へと注ぎ続ける。
『…………』
暫くすると『のっそり』と敵が姿を現す。
「ストーンゴーレム?」
森から姿を現したのは2mほどの人型ストーンゴーレムだった。
それを皮切りに人型だけではなく、狼、熊、カマキリなどの形をしたストーンゴーレムがわらわらと森から姿を現す。
「こいつらまるで突然、転移したかのように気配を現したけど……いったいどこから来たんだ?」
つい先程まで森林にゴーレム達の気配はなかった。
ゴーレムどころか虫、鳥、小動物1匹の気配も無かった筈だ。
「ご主人様! こいつら倒しちゃっていいのか!?」
ナズナがうずうずとした表情で自身より巨大な大剣を構え、暴れるのを待ちきれない子犬のような顔を向けてくる。
ストーンゴーレム相手にナズナは過剰戦力もいい所だ。いくら強くても戦闘が一人に集中すれば疲労が蓄積する。効率を考えれば――
「スズ、ロック、この場は頼む。ナズナは僕とメイと一緒にダガン殿達の護衛に回ってくれ」
「了解! 分かったぜ!」
暴れられなかったが、僕からの指示が嬉しかったのか、ナズナはウキウキとした表情でダガン達の護衛に回る。
同時にストーンゴーレム達もこちらを目指し動き出す。
足の早い狼タイプなどが先行して駆け出してくる。
「スズ、ロック、任せたよ」
「(こく)!」
『らいと様、オ任セクダサイ、トノコトデス!』
ロックがスズの返事を大声で広げると、彼女は手にした長い槍のような筒――マスケット銃を発砲する。
『大規模過去文明遺跡』での初戦闘はこうして火蓋を切られた。
今日は頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
11話を12時に、12話を17時にアップする予定です!(本話は11話です)
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