10話 破片と降下
「さ、最初はめ、メラがやってもダメだったから、あ、あたいも全力でやって良いと思ったから……そしたらと、取れちゃって……」
「ナズナ……取れちゃったって……」
ドワーフ種達がどうやっても破壊できなかった黒粒が混じった灰色壁も、レベル9999で『奈落』の中で最も強いナズナの握力には逆らえず、角の一部を毟り取られたようだ。
「うぅうぅ……ご、ごめんなさいご主人様……」
「全くもう……。この遺跡は彼らが発見して所有している物なんだから、敵に襲われたとかじゃないのに無為に壊しちゃ駄目じゃないか」
「は、はい……ドワーフ種の皆さん、ごめんなさい!」
僕に怒られたナズナが青い顔で震えながらダガン含めたドワーフ種達に頭を下げる。
さらにそれを聞いて、スズ&ロックとメラも頭を下げる。
「ッ――」
『ス、スミマセン、モット早ク止メルベキデシタ』
「ケ、ケケケケ! も、申し訳ありません、一度も壊れたこと無い物質と聞いて興味を引かれ、つい力試しで手を出してしまって……」
僕もダガンへと向き直り、謝罪を口にした。
「仲間の皆が失礼しました。悪気があって遺跡を破損した訳ではなく、本人達の言葉通り力試しをしたかっただけですので、どうか今回の件はご容赦を」
「か、か、構わん、構わん、むしろお嬢ちゃん、その手の中にある破片を見せてくれないか?」
「ら、ライト様?」
ナズナが声をかけて伺ってくる。
僕が頷くと、右手で毟り取った黒粒が混じった灰色壁の破片を差し出す。
ダガンだけではなく、他のドワーフ職人もわらわらとナズナへと砂糖に集るアリのように群がる。
「うひょー! どうやっても壊れなかった壁の破片を手に入れたぞ!」
「ダガン王! わしにも見せてくれ!」
「ワシにもだ! ワシにも見せてくれ、触らせてくれ、少しで良いからサンプルを採取させてくれ!」
「待て待て、お主らだけ狡いぞ! もっと近くで見せてくれ!」
ナズナから黒粒が混じった灰色壁を得たダガンは、手に取り舐めるように破片を見回す。
他ドワーフ職人達も群がり、ダガンから破片を奪って見回したり、色々な実験を開始しようとしだす。
途中、破片を誰が所持するかで国王を含めた者達で殴り合いに発展した。
「ご、ご主人様ぁ~、あ、あたい、何かダメなことやっちゃったのか?」
『奈落』最強のナズナがドン引きした態度と顔で、僕の腕にしがみつく。
スズとメラも破片を巡って殴り合いを始めたドワーフ種達から距離を取った。
メイですら予想外の事態にこめかみを片手で押さえていた。
僕も似たように頭を片手で押さえる。
「大丈夫、ナズナのせいじゃないよ。むしろドワーフ種の物作りに対する情熱を僕達が低くみていただけだよ……」
まさか今まで壊すことが叶わなかったとはいえ、壁の破片一つを巡って殴り合いが始まるとは想定していなかった。
ナズナにもう一度人数分毟り取ってもらうという選択肢を思い付かないほど、ドワーフ職人達とダガンは熱中していた。
それだけ新素材のサンプルとなりえる破片が皆、欲しいのだろう。
争いが激しくなる前に大声で『必要な分をナズナに毟り取ってもらっては?』と提案し、場の落ち着きを取り戻せた。
ナズナに頼んで追加で破片を4つ採取し、今回参加する5名のドワーフ種達全員が破片をほくほく顔で受け取っていた。
彼らがサンプルをしまい終えた後、既に降下準備を整えたメイに視線で問う。
彼女は黙って頷き、『魔力糸』で壁穴を塞ぐように作った糸の箱の中へ最初に乗り込む。
作った本人が安全性を示すための行動だ。
彼女が糸箱に入ると、右手を挙げて手のひらを上に向け告げる。
「私の『魔力糸』で作り出した箱です。支えとしてこの地にある建物の複数に魔力糸を絡ませているので、このメンバーの倍が乗っても糸が切れることはありませんのでご安心くださいませ」
「周囲を僕達が囲みますので、中心に護りやすいようにダガン殿達が集まっていてください。問題が起きたら対処させて頂きますので。メラ、万が一メイの魔力糸に問題が発生したら対処を頼む」
「ケケケケケケ! お任せくださいライト様!」
汚名返上とばかりに、メラが張り切る。
『UR、キメラ メラ レベル7777』ならば、万が一魔力糸が切れても、体を変化させることで全員が穴の底への落下するのを防ぐことが出来る。
メイのバックアップ要員としてこれほど頼もしい存在はいない。
最初は『SR、飛行』で穴へ下りようとも考えたが、その場合、護衛対象のドワーフ種達が何か突発的な行動を起こした際、すぐに対応できるか分からないため見送った。
結果、この降下方法を採用したのだ。
「ライト様……」
メイが『ライト様自身が護衛対象として中心に居て欲しい』と言いたげに視線を向けてくる。
僕は気付かない振りをしてダガン達をまず最初に乗せた。
僕が護衛対象になればメイ達の負担は増える。
なにより、これから未知の過去文明遺跡に潜るのだ。
仲間を危険に晒して、自分だけ安全圏にいる訳にはいかない。
全員が糸箱に乗ったのを確認して出入口を塞いだ後、降下を開始する。
「……ふむ、下りる速度は思ったより速くないの」
「あまり降下速度をあげると体に負担がかかりますので」
ダガンの疑問にメイが返答する。
彼は納得し頷いた。
スルスルと歩く程度の速度で穴の底へと下りていく。
既に10分以上経過しているにもかかわらず、底に到達した気配が一切無かった。
トラップやモンスターが現れないか警戒している僕達の1人、メラが可笑しそうに声を漏らす。
「ケケケケケケ! どんだけ深いんだよ。未だに出口の気配どころか、人やモンスターの気配ひとつもしないとか。『邪神様の居る場所まで繋がっている』とか言われてもアタシは信じるぜ」
『メラ、怖イコト言ウナヨ』
「……(コクコク)」
気弱なスズが、メラの発言に暗がりでも分かるほど青い顔で頷く。
スズは怖い話が苦手で、稀に妖精メイド達にその手の話を聞かされて涙目になっているらしい。
彼女ぐらい強ければレイスやゾンビ程度物の数ではないと思うんだけど……。
さらに数分後――メイが最初に異変に気付く。
先行して垂らしている糸が穴の終わりに到達したようだ。
「皆様、後およそ100mほどで穴の終わりに到達します。奇襲等の可能性があるのでご注意を」
モンスター等の奇襲なら気配を察知し防げるし、よほどの攻撃でなければメイの『魔力糸』で作りあげた糸箱を突破するのは不可能だ。
だが万が一もあるため警戒心を高くする。
そして予告通り大凡100mほど降下すると――穴の終わりへと到達する。
地下深くにもかかわらず、糸箱の隙間から日光のような柔らかい光が入り込む。
メイが気を利かせて糸箱の一部を緩ませ大きな窓を作る。
窓の先には――森林に草原、天と地を繋ぐように2本の螺旋の建築物が建てられ仄かに発光していた。
それがこの地下世界を照らしているのではない。
天井から太陽光に似た光が降り注いでいるのだ。
「大穴から降りたらこんな世界が広がっているなんて……これが過去文明に作られた遺跡なのか……」
僕は思わず独り言を漏らす。
だが、そんな独り言は誰1人耳にしていなかった。
その場に居る全員が目の前に広がる世界に目を奪われていたのだから――。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
というわけで明日は2話連続更新をやります!
久しぶりの2話更新となりますので、どうぞお見逃し無く!
また最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




