9話 『大規模過去文明遺跡』出入口
ドワーフ種が長年秘匿してきた『大規模過去文明遺跡』は、ドワーフ王国首都の西南で発見された。
西の街道は山を避けつつくねくねと曲がっており、整備された道が港街まで続いている。
ドワーフ王国は周囲を基本的に山に囲まれており、平地が少ない。
とはいえ、そこはドワーフ種。
山岳、火山などが多数あるのを良いことに有用な資源がないか喜々として試掘をくりかえしていた。
採掘や試掘を専門としその道を邁進するドワーフ種も一定数居るため、多数の資源が発掘されたのだ。
同時にダンジョン化した洞窟、遺跡などをいくつも発見しているのがドワーフ種である。
『大規模過去文明遺跡』もその一つだ。
『大規模過去文明遺跡』は、エルフ女王国の国境線上とされている山岳&原生森林を地下で越えて広がっている可能性が高い。
つまり他種族からの干渉に加え、有用なマジックアイテムや資料などがあった場合、エルフ女王国側が『自分達の領土で得たモノなら我が国にも寄こせ』と主張される可能性があったため、『大規模過去文明遺跡』があることを公にできなかったという理由もあったとか。
しかし、現在、原生森林は大部分を『巨塔』が押さえているため、エルフ女王国側から『分け前を寄こせ』と主張される心配もなく探索が出来る。
「そしてここが儂達ドワーフ種が長年秘匿し続けてきた『大規模過去文明遺跡』じゃ!」
「!? なるほど、これは『見れば分かる』という意味が理解できますね……」
「ですね……これは壮観かと」
「見たこともない建物や道具がいっぱいあるな、ご主人様!」
「……!?」
『コリャ驚イタ。マサカ地下ニコンナ場所ガアルトハ……』
「ケケケケケケ! 狭い坑道を通った後、この光景を見せられると余計驚いちまうな」
僕だけではなく今回参加したメンバー……メイ、ナズナ、スズ&ロック、メラの順番に全員が驚愕の声をあげた。
ドワーフ王ダガンがその言葉を聞いて自慢気に髭を撫でる。
試掘のために掘った洞窟を下って、途中横道へ潜ると――ドワーフ種サイズの狭い坑道から一転、天井を見上げるほどの広い空間へと出た。
城の一つ二つぐらいなら楽々納めることが出来るほど広い。
広いだけではなく、見渡す限りの空間に小さな街を丸ごと運んできたような施設、道具、金属製クレーンに、倉庫らしく頑丈に作られた建物等が存在した。
立ち止まった僕達を案内するようにダガンと数名のドワーフ種達が先へと進む。
僕達は彼らの後に続く。
「儂らの爺様達が調べた限り、地上の建築様式とはまったく別物。過去、滅んだとされる文明が建築したものの可能性が高いという結論を出したんじゃ。過去文明の職人街、大規模な工場が発見されるのは非常に珍しい。この規模になると初めてのことだろう……問題はこの先じゃ」
ダガン達がどんどん進み、広い空間の突き当たりへと到達する。
彼らが手にしているランタンが辺りを照らす――実際、光源が無くても僕達なら問題無く視認できるが、ダガン達が見せたかったものを確認することが出来た。
「これは穴かな? トラップ――にしては綺麗に色が分けられているし、大き過ぎるような……」
行き止まりかと思ったが、そこにはかなり大きな穴が空いていた。
そこだけ他建物と違って色が違うようだ。
黒粒が混じったような灰色をしている。
穴の大きさは巨人でも楽々通り抜けられるほどで、縦横約5mはあるだろう。
中を覗くと……レベル9999の僕の視界でも底が見えないほど深く暗い。
まるで魔王が大口を開けているようだ。
ダガンが目の前にある大穴について説明する。
「儂らはこの穴を最初はゴミ捨て場かと考えておったのだが……詳しく調べるとすぐに違うことが判明したんじゃ。まず穴を作っている素材。この空間にある建物とは色が違うのが分かると思うが……強度も文字通り桁違いに違うんじゃよ」
工場にある倉庫、クレーン、レールなどは煉瓦や鋼鉄などぱっと見ただけで僕のような素人でも想像がつく物質で作られている。
しかし、巨大穴を作っている素材――一見すると黒い粒が混じった灰色の石材のようだが軽く叩くと金属的音を鳴らす。
「儂らもどうにかして壊して持ち帰り、詳細に分析しようとしたのだが……ハンマーで殴っても、魔術をぶつけても壊れなくてな。こんな強固な物体、見たことも聞いたこともないわい!」
つまりドワーフ種的にも見たことも、聞いたこともない未知物質のようだ。
僕がダガンの話を聞く横で、『ハンマーで殴っても壊れない』という言葉に反応しナズナとメラが『自分達の力で壊せないか?』とウズウズし出す。
スズは今にも破壊活動を始めそうな2人から少しだけ距離をとり、メイは僕の側で2人に冷たい視線を向けていた。
僕は胸中で微苦笑を漏らしつつ、ダガンの話に耳を傾き続けた。
「そんな物で作られたのがただのゴミ捨て穴か? 否じゃ! あくまで儂らの予想でしかないが、この穴は『この工場で作った物をさらに地下へと、そして地下にあるものを地上へと運ぶ穴だったのではないか?』と考えておる。つまり、この穴の下にこの建物群以上の遺跡物が存在する可能性があるということじゃ。そんな『大規模過去文明遺跡』など今まで発見されたことはないわい!」
この過去文明建物群でさえ、滅多にお目にかからないモノだ。
にも関わらず、この場で作られた物をさらに地下深く運ぶ穴が存在し、さらに地下に何かが広がっているとすれば……ドワーフ種達が『大規模過去文明遺跡』と声をあげるのも理解出来る。
「この地下深くに何があるのか儂らは何度も確認しようとした。穴に物を落として音から深さを測ろうとしたが、まず音が戻ってこなかった。そこで体に長いロープを身に着けて何人もの腕利きが下りていったが……駄目じゃった。誰一人として戻ってはこなかったんじゃ」
腕のある冒険者も、職人も誰も帰ってこなかった。
穴の途中にトラップがあるのか?
それとも穴の先に強敵なモンスターや凶悪なトラップなどが待ち構えているのか?
これは確かに長距離移動マジックアイテムの存在やネムムの腕前を見たら、『大規模過去文明遺跡へ潜って欲しい』とお願いされる訳だ。
生半可な冒険者ではとてもじゃないが、ただ死にに行くようなものである。
「どうじゃ? 底まで潜れそうか?」
「メイ、どうかな?」
「問題ありません。私の『魔力糸』があれば、どのようなトラップが穴の途中にあろうとも皆様を安全に降下させられるかと」
メイが紡ぐ『魔力糸』は魔力で作り出した糸で、柔らかさ、形状、材質、硬度などを魔力操作によって自由自在に変化させることが出来るのだ。
これで足場を作り、さらに周囲を囲むように細かく網状に壁を作れば途中で矢や攻撃魔術が来ても防ぐことが可能だ。
他にもガードとして僕、ナズナ、スズ、メラが護衛対象のドワーフ種達を囲めば何があっても対応は難しくないだろう。
「……あっ」
真面目に穴への降下方法を検討していると、『ゴリッ』という異音とナズナが取り返しの付かない問題を起こした時にあげる声音を響かせる。
彼女の方に視線を向けると……ドワーフ種が長年懸けても破壊することが出来なかった穴の素材、黒い粒が混じった灰色壁の一部を毟り取ってしまったのだ。
ナズナは青い顔で『やっちゃった……ッ』という表情をする。
無責任に囃し立てていたダガン以外のドワーフ種達も静まりかえり、ナズナの手の中にある破片を食い入るように見つめていた。
ドワーフ王ダガンも、ナズナが穴壁の一部を毟り取ったことに気付き目の色を変えたのだった。
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