7話 大規模過去文明遺跡
「儂ら6種、過去に栄えた文明を持つ古代人など歯牙にも掛けない『神』のような存在が居るぞ。でなければ辻褄があわぬ」
「…………」
ダガンは過去文明を滅ぼした存在を『神』と表現した。
僕は手を組みその言葉の意味を考える。
(神、か……。まさにお伽噺に出てくるような存在そのものだな。仮に『神』が何かの比喩か隠喩だとすれば、『ますたー以外の存在』がそれに当たるとでもいうのだろうか? それとも全く別の何かか、『ますたー』が進化したか、または強化したものか……)
僕は考察を胸中で続けつつ、ダガンの話に耳を傾け続ける。
「……儂としては『ますたー』の技術には興味を掻き立てられるが、実を言えば、それ以外は正直どうでも良いと思っている。過去文明が滅んだ理由、儂らより上の存在が居るかどうかなんぞ学者先生が調べることだからな。今そんなことを考えても答えなど出るわけもないし、全くもって仕方がない。……だがもしもそれでもこれ以上の情報を知りたかったら、竜人種、魔人種に問いつめるしかないぞ」
ダガンは顎髭を弄りつつ理由を話す。
「種によって情報量、質がまったく異なるからな。儂らドワーフ種は技術方面、エルフ種は『ますたー』の血、血統関係。人種、獣人種は碌に情報を与えられておらぬ。じゃが竜人種と魔人種は他4種とは比べモノにならぬ情報を有しておるだろう。あの2種が、文明を滅ぼした『神』的存在を知っておったとしても儂は驚かんぞ。唯一問題があるとするなら……国の規模、軍事力が儂らより桁外れに上だ。融通も利かぬから今回の極秘会談のように問い質すのは無理だと思うぞ」
むしろ人種王国や今回のドワーフ王国との極秘会談が例外なのだ。
本来、エルフ女王国のように屈服させて情報を抜き取るしかないが、竜人種、魔人種、どちらもダガンの指摘通り国の規模、軍事力が他の国々と文字通り桁が違う。
『奈落』地下で戦力を蓄え、地上に進出する前――僕達が仮に正面から世界中の国々と争った場合、竜人種と魔人種の2国が最も厄介な存在だと皆、意見を一致させていた。
現在はエルフ女王国を裏から支配し、人種王国、ドワーフ王国と順調に接触し情報を得てはいるが、あくまで前哨戦に過ぎない。他2国の脅威度が他よりもさらに高いことには変わりはない。
(しかしダガンの指摘通り、これ以上の情報を得ようとしたら竜人種と魔人種の2国をどうにかする必要があるか……)
「……まあ、色々言ったが、実は他にも方法がある。他に過去文明が滅んだ真実を知る方法……それは、過去遺跡の発掘じゃ」
「……え?」
僕が胸中で2国をどう切り崩すかつい検討していると、正面に座るダガンが何気ない調子で告げる。
彼に視線を向けると、彼は調子良さ気な笑みを浮かべる。
「実はここだけの話じゃが、ドワーフ種が代々秘密裏に確保してきた大規模な過去文明遺跡があるんじゃ。しかも地下に残った綺麗な状態の過去文明遺跡が。この遺跡を探査すれば過去文明が滅びた原因、真実が分かる可能性が高いと思うぞ。なにせその過去文明は神話級さえ人工的に作り出したという説があるぐらいじゃ。その過去文明遺跡に手がかり、真実になる『何か』が残されている可能性は高いはずじゃ」
「――遺跡を調査するのは学者先生の仕事では?」
「ライト殿が望むのは真実。儂が望むのは過去文明の技術。求めるモノがことなる故に目的を同じくすることが出来ると思うが、どうじゃ?」
「……なるほど。で、何がお望みなのですか?」
「手を組んで、遺跡を攻略したい」
ダガンが体を前のめりにする。
「儂達が長年秘匿している大規模過去文明遺跡は、当然過去何度も調査隊を送り出しているのじゃが……未だに誰1人戻ってきた者達はおらぬのだ。当時の凄腕冒険者達にドワーフ製の最先端技術を詰め込んだ武具を持たせてもだ。予想される内部の推奨レベルは想像できん。――じゃが儂の寝室に誰にも気付かれることなく侵入するほどの凄腕暗殺者を部下にしておるなら、他にも腕利きが部下にいるのだろう? その者達に是非、儂らドワーフ種が代々秘匿してきた大規模過去文明遺跡を攻略して欲しいんじゃ!」
「……興味深いお話ですね。ですが、本当にそこに僕達が望むモノがあるとは限らないのでは?」
「確かにそうじゃが、可能性は高い筈じゃ。なにせ一目見ただけで類のない技術を使われている『大規模過去文明遺跡』だと分かるほどだからな。故に、ドワーフ国王が代々秘匿して来たのだ。外に漏れて竜人種、エルフ種、魔人種に破壊工作や没収などされないようにな! ライト殿もアレを一目見れば納得するはずじゃ。『ここに絶対何かある』と! もちろん技術、研究遺産関係は儂らに可能な限り分けて欲しいのだが、欲しいものがあれば協議の上ではあるが優先的に譲るし、他の金銀財宝は全てライト殿のものとし、必要な物は全て準備する! だからどうだ? 協力してはくれないか?」
「…………」
今まで見たことがない圧倒的熱量でドワーフ王が迫ってくる。
ダガンの瞳は興奮と期待で爛々と輝き、技術者として狂気的な色を浮かべていた。
(エリーが興味深い魔術テーマを発見して、研究している時に似たような瞳の色を浮かべていたな……)
つい僕は現実逃避的な考えを浮かべてしまう。
第一、情報を得たり復讐のために様々な工作をしようとドワーフ王国と会談をしようとしたら、気付けば相手側が過去文明遺跡を発掘したいから積極的に『手を組みたい』と熱弁してくるなんて……。
『想定しろ』という方が無理な話である。
(とはいえ、『大規模過去文明遺跡』に興味がないと言えば嘘になる。ダガンの言葉通り、本当に類を見ない大規模な過去文明遺跡なら、様々な高度文明が滅んだ原因、手がかりが隠されている可能性は高いか……)
竜人種、魔人種が秘匿しているだろう情報『技術を加速させると世界が滅ぶのか?』、『ますたー以外に危険視する存在』等について、2国に攻め入らなくても『大規模過去文明遺跡』を探れば判明するかもしれない。
また僕達なら未だ誰も帰還したことがない『大規模過去文明遺跡』だろうが、戦力的に十分攻略することが可能な筈だ。
……さらに言えば個人的な意見ながら、『大規模過去文明遺跡』に興味を感じている。結果的に求める情報が得られなかったとしても、何か有用なものは発掘される筈。例え成果がゼロだったとしても、『未知なる過去遺跡』と聞けば、冒険者であれば誰であれ潜ってみたいと思うだろう。
諸々の条件を加味して、僕は判断を下す。
「……分かりました。その提案に乗りましょう。詳細を詰めてもよろしいですか?」
「おおお! ありがとう、ライト殿! もちろん、早速詳しく話し合いを始めようではないか! ライト殿側の望み、譲って欲しいモノがあればガンガン言ってくれ! ドワーフ王の権限で準備できるモノは全て出すぞ!」
まだ話し合いもしていないのに『準備できるものは全て用意する』と宣言。
ドワーフ種にとって秘匿してきた『大規模過去文明遺跡』は悲願で、よほどその遺跡に眠る技術が彼にとって喉から手が出るほど欲しいモノらしい。
……本当にどれだけ大規模な過去文明遺跡なのだろうか?
僕は若干の不安を覚えつつ、『大規模過去文明遺跡』攻略について条件の話し合いを開始したのだった。
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