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3話 ナーノと禁忌の剣2

今日は3話を昼12時、4話を17時にアップする予定です(本話は3話)。

「『禁忌の剣製造』について纏めた書籍だと……。人種(ヒューマン)の商人がそんな物をどうやって手に入れた? 偽物じゃないだろうな……」

「偽物なんかじゃありませんよ。偶然、手に入れることが出来たんです」


 彼は語り出す。

 行商で移動中に偶然、倒れている冒険者達を発見した。

 遺跡かダンジョンから脱出後、モンスターに襲われたのか死亡していた。死体から売れそうな物品を漁っていると、『禁忌の剣製造』方法が記された古書を発見したらしい。


(可能性としてはありえない話ではないな……)


 ナーノは胸中で呟く。

 実際、ダンジョン、遺跡を脱出後消耗した状態で移動している最中、モンスターの不意打ちで命を落とす冒険者達は一定数存在した。

 遺跡から出土する書籍も、現代に近い文法のもあれば、解読が必要な物まで多岐にわたる。今はまだ彼の手にする古書が偽物だと断定できる要素にはならない。

 ヒソミの言葉は否定しきれなかった。

 彼は続ける。


「最初は裏に流そうとも考えましたが、すぐにたいした金額にもならず買い叩かれ、最悪、罪だけを被され品物を巻き上げられてしまうと気付きました。しかし、捨てるには惜しい代物で……迷っているとナーノ様のお噂を耳にしたのですよ。なんでも『伝説の武器』を作り出したいとか?」

「…………」


 ナーノが瞳を細める。

 別に隠している訳ではないため、ちょっと調べればナーノが『伝説の武器』を作り出そうとしていることは誰でも知ることが出来る。

 そのせいで何度、押し売り商人に絡まれたことか。


「さらにナーノ様は冒険者として一山当てて、多額の資金を稼ぎだしたとか。小生はそのお噂を聞いて『ヒソミ、これこそ女神様がお与えになった天恵だぞ』と気付き、お話をお持ちしたのですよ」


 ヒソミがさらに胡散臭い笑みを深める。


「小生は自分自身の店を持ちたいのです。しかし、人種(ヒューマン)が店を営むには親子代々コツコツと貯蓄し手に入れるか、冒険者として一山当てるか、運良くパトロンを得て出店するしかありません。小生は一代目で、一山当てるのはもちろん、資金を借りられる宛もありません。どれだけ努力しても、一般的な方法では今生で店を持つことは不可能でしょう。ですが小生はどうしても自分の店が欲しいのです!」

「…………」

「……どうでしょうか、ナーノ様。小生が危険な橋を渡ってでもナーノ様にこの書籍をお持ちした理由はおわかり頂けると思います。人種(ヒューマン)にとって、自分の店を持つことは大それた夢です。そのためになら危ない橋ですら渡ってみせましょう。……僭越ながら、ナーノ様の反応から分の悪い賭けではなかったと自負させて頂いておりますが」


 商人の指摘通り、表には出さないがナーノは胸中で興奮していた。

『禁忌の剣』は呪いの剣だが、英雄物語に登場する『伝説の武器』の中に『禁忌の剣』が存在するのも確かだ。英雄が強靱な精神力で呪いを押さえ込み、力を振るう物語が実際に存在している。


 その製造方法が記されている書籍が目の前にあるのだ!


『伝説の武器』製造を夢見て、『ますたー』探しにも参加した。ライト抹殺後も成功報酬を辞退して再度『ますたー』探しを望み、拒絶された後も、『伝説の武器』製造の重大な切っ掛けになると考え、個人で探そうとまでしたのだ。

 その夢に近づくための手段が今目の前にある。


 例えそれが『禁忌の剣』、『呪いの武器』、『邪神剣』だとしてもだ。


 内心の興奮を表に出さぬ努力をしつつ、相手を試す。

 これが自分を嵌めるための罠の可能性もあるためだ。


「……儂が本当にそいつに金を払うと思っているのか? 第一、金など払わずともオマエを殺して、書籍を写した後、兵士に死体と一緒に主犯として引き渡してもいんだぞ?」


 ナーノが殺気を漏らしつつ脅す。

 レベル300前後のドワーフ種からの殺気をヒソミは正面から受けつつ、言葉を告げる。


「手元にあるのは書籍の半分です。残り半分は小生しか知らない場所に保管しております。小生を殺したら、もう半分は永遠に手に入りませんよ。この手狭な部屋で、隣室に誰かが居る状況で拷問が出来る腕があるのなら、どうぞ遠慮なく挑戦してください」

「……チッ、全て計算尽くか。これだから商人は嫌になるわい」

「お褒め頂き恐悦至極です」


 ナーノが吐き捨てる台詞に、ヒソミが芝居かかった動作で一礼した。

 気取った態度は気に食わなかったが、レベル300の本気の殺意を正面から受けても揺るがない姿勢から、ようやく彼が本気で『禁忌の剣製造』について記している書籍を売り渡すつもりだと実感した。


(言葉通り危ない橋を渡ってでも、自分の店を持ちたいのだな……。人種(ヒューマン)商人にとっては夢だからな)とナーノは胸の中で呟く。


 ヒソミが顔を上げると、彼は革鞄から『禁忌の剣製造』書籍を取り出し、ナーノへと差し出す。

 彼は内心の興奮を抑えつつ、『禁忌の剣製造』書籍を受け取った。


「金は出す。もう半分も寄こせ」

「まずは中身をご査収くださいませ。ナーノ様がご納得し、指定する金額を受け取りましたら残りをお渡し致します」

「チッ、本当に商人は抜け目が無い。分かった、準備次第声をかける」

「さすがナーノ様! ありがとうございます! これで自分の店を持つことができますよ!」


 ヒソミが思わず歓喜の声音を上げる。


 2人はすぐさま連絡手段、周囲に怪しまれず多額の資金を受け渡す方法、契約書を2枚用意し互いに納得した上で署名し1枚ずつ持つ等――細かいやりとりを交わしていった。

 お陰でナーノは『禁忌の剣製造』書籍(半分)を受け取ったにもかかわらず、一通り目を通すことさえ出来ずにいた。


 ようやく必要なやりとりを終えると、ヒソミが目をより細め揉み手をしながら告げる。


「『禁忌の剣製造』書籍に関しては以上ですが……以後、ナーノ様が製造に必要な物があれば、小生にお声をかけて頂ければすぐにご用意いたしますので」

「ふん! 小金まで拾おうっていうつもりか。まったく抜け目の無い奴め」

「ありがとうございます。商売人にとって最高の褒め言葉でございます」


 ナーノは嫌味半分、互いに人様に言えない秘密を共有している親密さ半分の軽口を漏らす。

 ヒソミは機嫌を損ねることなく、したたかな笑みで返事をした。


 一通りのやりとりを終えると、ヒソミが部屋を出て行く。


 残されたナーノはようやく『禁忌の剣製造』書籍へと視線を落とす。


「あのクソ忌々しいライト(ゴミ屑)に足を引っ張られ、もう2度と『ますたー』探しが出来ないと知った時は腑が煮えくりかえる思いをしたが……どうやら儂にも運が向いてきたようじゃな!」


 ナーノは狂喜乱舞して寝食をも忘れて、『禁忌の剣製造』書籍を貪り読む。




 一方、彼の部屋を後にした人種(ヒューマン)商人ヒソミも笑う。


 危ない橋を渡り大きな商談を纏めた男の笑みではない。

 今回の一件など彼にとって些事、『危険など一切感じていない』と言いたげな笑みを作る。


「さて、この件『巨塔』は絡んでくるのか否か……」


 彼の独り言は誰の耳にも入らずドワーフ王国首都の喧騒に飲まれ、溶けて消えてしまったのだった。


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


今日は頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!

3話を12時に、4話を17時にアップする予定です!(本話は3話です)


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
「自負」の使い方がおかしいですよね?
[気になる点]  ナーノが瞳を細める。 ドワーフ種は瞳孔を意識的に細めたりできるのでしょうか? ヒソミは「目を細める」という表現を使ってるところを見ると、奇をてらって他者とは違った表現をしたかった、…
[気になる点]  ヒソミはライトの関係者じゃなかったという事?
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