10話 魔石の換金
今日は9話を昼12時、10話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は10話)。
その後夕食を皆でとり、夜になった。
テントが一つしかなく僕達はお礼と客人ということで勧められたが、独占をするのは申し訳ないので交代で野営の夜番も買って出た。
最初に僕とネムムがテントを使い、エリオとミヤ兄妹が野外で眠り、ギムラとワーディが最初の夜番を担当する。
途中でエリオとミヤ兄妹、ギムラとワーディが交代。
最後に僕とネムムとエリオとミヤ兄妹が夜番とテントを交換する――という予定を立てる。
ゴールドは『我輩は2、3日寝なくても良いから今晩はずっと起きているぞ』と宣言。
彼を含めた3名で夜番を担当することになった。
☆ ☆ ☆
問題なく夜番をこなし、一夜明けた朝。
朝食までお世話になるわけにはいかず、僕達は出発させてもらう。
エリオ達は引き続き、ゴブリンを狙って2、3日はダンジョンで寝泊まりするらしい。
「機会があればまた一緒にダンジョンで戦いましょう。その時も是非、ゴールドさんには剣と盾の扱い方を教えてもらえば嬉しいです」
「分かりました、その時はこちらこそ宜しくお願いします」
僕が代表してエリオと握手し、約束を交わすと、出入口目指して出発した。
エリオ達から距離を取り、周囲に人影が無いことを確認してから再度『SSR、存在隠蔽』と『SR、飛行』で移動開始。
1時間かからずダンジョン出入口に到着する。
早朝のこの時間はダンジョンを出るより、入場する冒険者達の方が多い。
お陰で楽に外へ出ることが出来た。
「主、この後はどうする? 宿へ戻るのか?」
「宿に戻る前に冒険者ギルドで魔石を換金しよう。いつまでも持っていても邪魔だしね」
ダンジョンに向かう冒険者の流れに逆らいギルドを目指す。
冒険者タグを作ってから1日ぶりにギルドに顔を出す。
壁にはボードがあり、クエスト依頼の紙が貼られてある。『ダンジョン1階層の川辺に生えている薬草を10束取ってきて欲しい』や『5階層の火山にある鉱石の採取を頼む』、ダンジョンだけではなく街中や外に関する依頼内容もあった。
まさに千差万別だ。
早朝にもかかわらず意外と冒険者が多い。
皆、より美味しい掲示板に貼られたクエスト仕事を得るため、早起きしているのだ。
クエストを無視して、ダンジョンに潜る冒険者も居るが、それは本人達のスタンスの違いである。
僕達は掲示板の反対側にある受付嬢がいる窓口へと向かう。
衝立で区切られ、冒険者ギルドの受付嬢が各窓口に立っている。
ドワーフ王国にあるギルドのためか、基本受付嬢はドワーフ種の女性が担当していた。
その内の一つへと向かう。
「おはようございます。クエストのご依頼でしょうか?」
「いえ、今朝ダンジョンから戻って来たので魔石の精算をお願いします」
ドワーフ種は背丈は低いが、男女問わずがっしりとした体格をしているためか弱さは感じない。
子供時代は年相応な体格だが、歳を取るにつれてどんどん骨太になっていくイメージである。
僕達の担当してもらう受付嬢も背丈は僕より少々高いぐらいだが、ガッチリとした体格をしていた。
そんな彼女に1、2、3階層で得た魔石が詰まった袋を渡す。
彼女は苦もなく受け取り、中身を確認する。
途端に眉間に皺が刻まれた。
「――色合いからして3階層の魔石までありますが、貴方たちは早くても一昨日ダンジョンに潜ったんですよね。冒険者登録をしに来たのを見かけた覚えがありますので」
「? 昨日の早朝からダンジョンに潜りましたが、何か問題でもありましたか?」
冒険者ランクを上げるため3階層のトロールを中心に魔石を集めてきた。
『種族の集い』時代、耳にしたことがあるが、ダンジョンによって魔石の買い取り額を維持するため過度な乱獲を禁止している場合もあるとか。
もしかしたら、このダンジョンにもその規制があって引っかかってしまったのだろうか?
受付嬢が盗人を見るような視線を向けてくる。
「他種ならともかく人種がたった1日でダンジョン2、3階層まで潜って、これほどの魔石を取ってくるなどありえません。ギルドでは、犯罪、違法行為で得た魔石の換金はおこなっておりません。よってこの魔石を買い取ることはできません!」
思わず仮面の下で顔を顰めてしまった。
『一般的に他種より劣っている人種が、これほどの魔石を1日で集めることなど不可能だ』=『何か犯罪行為をしているのだ』と決めつけられたようだ。
3階層の魔石を大量に持ち込めば、1人前は無理でも、一つ上の半人前へのランクアップは確実だろうと考えていたが……。
まさか犯罪、違法行為を疑われるとは。
本当に人種に対する偏見は根強い。
ネムムが怒りを露わに怒鳴りそうなのを気配で察して、片手を上げて諫める。
僕自身、内心の理不尽に対する怒りを抑えつつ口を開いた。
「僕達は誓って犯罪、違法行為はしていません。普通にダンジョンに潜ってモンスターを倒し、魔石を回収して戻って来ただけです。第一、どのような犯罪、違法手段で魔石を得たと言うんですか」
「そ、それは……ダンジョン内で他冒険者を襲い奪ったとか……」
「証拠も無く濡れ衣は止めてください。僕達は他冒険者を襲うなんてマネしてませんよ。実力を示すために今後もこうして魔石を納品するつもりです」
「…………今後も、ですか。チッ……確かに証拠もなく決めつけるのは問題行為でした。ルール上は問題が発覚してませんので、今回は魔石の計算をさせて頂きます。しかし、今後何かしら犯罪、違法行為が発覚した場合、ギルドは見過ごさないことをお忘れ無く」
実際、証拠も無いためこれ以上買い取りを拒否するのは難しく、受付嬢が悔しげに引き下がった。
しかし『今は証拠が無いから見逃すが、尻尾を見せたら徹底的に潰すからな』と受付嬢が声音に込める。
僕はその言葉に対して、慇懃に返事をする。
「もちろんです。ギルドにご迷惑をおかけしないよう真っ当に冒険者をやらせて頂ければと思います」
僕の返事を嫌味と取ったのか、受付嬢が荒い動作で魔石精算をおこなう。
『キッ』とこちらを睨み『ヒューマンのくせに生意気よ……ッ』と小さく漏らすが作業自体は速く、そう時間もかからず報酬を受け取ることが出来た。
☆ ☆ ☆
「ダーク様にあんな失礼な口を利くとは……。ご命令があればいつでもこの世から痕跡一つ残さず消してみせますよ?」
「ネムムが怒ってくれる気持ちは嬉しいけど、そういう危ない発言は控えるようにね。今僕達に関係なくあの受付嬢が姿を消したら、まず最初に疑われるのは僕達なんだよ。それこそ濡れ衣は勘弁して欲しいんだから」
「も、ももも申し訳ございません! そこまで気が回らず! ダーク様にご迷惑をおかけするつもりは微塵もなく……ッ」
「大丈夫、分かっているよ。けど、もう少し言動に気を付けようね」
「主……」
冒険者ギルドを出てネムムの言動に釘を刺していると、飄々とした態度のゴールドが声を潜める。
「分かっている。ネムム、人数は?」
「3人です。他2人が急ぎ自分達の道を塞ぐため動いているようです」
冒険者ギルドを出て直ぐ、僕達を尾行する存在に気付く。
『UR、レベル5000 アサシンブレイド ネムム』は尾行する人数、先回りする者達の数まで正確に把握していた。
「どんな相手か確認したい。何か有益な情報も持っている可能性もある。人気の無い場所で接触したいけど、ネムム誘導できるかい?」
「造作もありません。このまま宿には向かわず次の小道を左へ曲がってください」
冒険者ギルドを出て宿へと真っ直ぐ戻っていたが、途中でネムムの指示に従い裏通りに繋がる小道へと入る。
尾行者が慌てて後を付けてくるのが僕でも感じ取れた。
「ダーク様、前を行っていた2名と合流するため、後方から1人外れました。合流して、前を塞ぎやすいように少し歩行速度を落として頂ければと」
「了解、ゴールドもお願いね」
「もちろんだ、主」
ネムムの指示に従い歩行速度を落とす。
さらに前を塞ぎやすいように小道を曲がって、人気のない路地裏へと誘導する。
尾行者はまるでネムムに操作されているかのように動く。
そして僕達に都合がよい場所、タイミングで前後挟むように姿を現す。
「ちょっと待ちなヒューマン、俺様達と話をしようじゃねぇか」
背後から声をかけられる。
振り返ると背丈は2mを超えた二足歩行の熊の獣人種が、部下らしき人物を従えて下卑た笑みをニタニタ浮かべ立っていたのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
ダンジョン内部で野営するシーンで、最初は夜番もしっかりと書く予定でしたが、『ここを膨らませてもテンポが悪くなるかー』とばっさりカットしました。
ライトと歳が近い少年冒険者達の若者的な雑談を書こうかなと思いましたが、さすがにちょっと脱線過ぎますからね。
さて今日も2話を連続でアップしました。
9話を12時に、10話を17時にアップしたのでお見逃しないようよろしくお願い致します!(本話は9話です)。
では最後に――【明鏡からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想もお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




