11話 サイレントキリング
今日は11話を昼12時、12話を17時にアップする予定です(本話は11話)。
元人種奴隷達は解放される際、基本的にドラゴンの背中に乗って『巨塔』まで移動させられる。
理由は『一番手っ取り早い』からだ。
『無限ガチャ』カード、『SSR、転移』を使用すればもっと早く移動できるが、元人種奴隷達の移動にまで使用するほど余裕はない。
故に基本的に移動はドラゴンによっておこなわれていた。
しかし、一部、『絶対に空なんて飛びたくない! 無理!』という層がいる。
その者達に配慮して馬車を手配し、護衛を付けて、地味に原生森林を越えて『巨塔』まで移動する者達も居る。
コストや手間はかかるが空を移動している最中、恐怖心から心臓などが止まって死亡、妊婦がショックで出産が早まる――なんてことになったら外聞が悪い。『人種絶対独立主義』を掲げている手前、一定の配慮は必要だった。
人種王国第一王子、第一王女一行が視察に来た今日も、原生森林を徒歩で移動する元人種奴隷達の姿があった。
妊婦、年老いた者、如何にも小心者な男女などが黙々と歩く。
基本的に『巨塔』周辺の原生森林は、レベル1000の『スネークヘルハウンド』達によって敵勢モンスターは排除されているため安全だ。
しかし、今回に限って問題が起きる。
森を移動する一団を粘っこい憎しみで濁らせた瞳で見つめる者の姿があった。
エルフ種、男性が1人、レベル300のジュノム。
その瞳には人種に対する確かな憎悪が宿っていた。
(誇り高きエルフ種が、ヒューマンの下に就き、言いなりになるなど絶対にあってはならない! 何が『巨塔の魔女』だ! 『人種絶対独立主義』だ! ヒューマンなど我々の下で大人しく奴隷をしていれば良かったのに! 魔女め! 余計なマネをしおって!)
ジュノムの思想をあえて表現するなら、ガチガチの『エルフ種絶対主義者』である。
ある意味、プライドが高いエルフ種の典型的なタイプだ。
ジュノムは普段は冒険者として他国で活動しているが、祖国エルフ女王国が『巨塔の魔女』に膝を屈したと耳にした。
実際に帰省すると、首都どころか、エルフ女王国では人種奴隷所持が法律で禁止され、その姿を見ない。
首都のエルフ種達も空を気にして、人種冒険者、商人に対しても以前と比べて怯えた姿を見せていた。
100匹を超えるドラゴンが首都上空を覆って一斉にブレスを吐き出し、地面が揺れ土煙で空を隠した光景を見て以来、首都に住むエルフ種は決して人種の機嫌を損ねるマネをしなくなった。
下手に機嫌を損ねて『人種絶対独立主義』を掲げた『巨塔の魔女』を刺激し、再び空をドラゴンに覆われたら――想像したくもない。
故に首都のエルフ種は人種から距離を取る態度を取っていた。
そんな姿がジュノム的には許せなかった。
(誇り高いエルフ種が、6種で最も劣るヒューマンに怯えるとは! 貴様らにはエルフ種としての誇りはないのか! 情けない! エルフ種の誇りを取り戻すためにも俺が何とかしなければ!)
噂ではエルフ女王国最強の『白の騎士団』を『巨塔の魔女』が壊滅させたとか。
所詮は噂だが同じ轍は踏まないと、ジュノムは確実に成果を出すため『巨塔』へ移動する元人種奴隷達を狙うことにする。
(人種を保護する政策を掲げているにもかかわらず、移動中の奴隷共が殺されたら――『巨塔の魔女』の外聞に傷が付くだろうな)
そうなれば『人種絶対独立主義』は崩壊……とまでは行かないが、あまりに人死にが頻発するようならば疑問を抱かれるだろう。
本当に『巨塔の魔女』は人種を護ろうとする意識があるのか?
掲げている思想は偽りではないのか?
(どれだけ強固な城塞も小さな穴から崩壊していくなど、古今東西よくある話だ。今回の一件を切っ掛けに評判に傷をつけ、将来的に『人種絶対独立主義』を崩壊させることができれば……上手くいけば俺はエルフ種にとっての英雄になれるかもしれない!)
人種に対する憎悪に、名誉欲が絡む。
ジュノムの瞳はより濁った色を強めた。
彼の脳内では薔薇色の夢が広がっていく。
(俺様、将来のエルフ種の英雄の踏み台になることを光栄に思うが良い、ヒューマン共!)
移動する元奴隷達の前後を挟むメイド服の美少女達は凄腕のようだが、自分の存在には気付いていない。
逃走経路を改めて確認した後、ジュノムは弓に矢をかけて息を吸い込む。
「死ね! ヒューマン共! 愚かな魔女に媚びを売ったことを悔やむがいい!」
ジュノムの弓から複数の矢が放たれる!
レベル300だけあり、1本の矢で十分以上に人種を殺害するだけの力があった。
――当たればの話だが。
放たれた数本の矢が途中で消失する。
文字通りジュノムの目の前で消えてしまったのだ。
さらに彼が大声をあげて矢を放ったにもかかわらず、森を移動する人種達は誰1人振り向かない。
まるでジュノムが存在しない、見えていないかのようにだ。
「い、いったいなにが起きて――ッ!?」
ジュノムの首が飛ぶ。
まるでワインのコルク栓をポンと開けるように軽く、飛び空中を舞う。
空中を舞う途中まで意識が残っていたため、ジュノムは背後に立つ褐色美少女の姿に気付く。
グルグルと視界が回転する中で、褐色の美少女は冷たい視線を彼に向け続けていた。
☆ ☆ ☆
褐色の美少女『UR、レベル5000 アサシンブレイド ネムム』が、溜息を漏らす。
「サイレントキリングのイロハも知らない素人が……。まったく、いつもならモンスターで十分問題ないのに……手間を増やすとは。迷惑な奴め」
彼女の言葉通り、いつもならレベル1000『スネークヘルハウンド』にこの手の輩は処理させている。
しかし、今回は『巨塔』に人種王国視察者達が来ているのだ。
襲撃者に気付いたアオユキがメイに指示を仰ぎ、万が一にも視察中の王族に悲鳴が聞こえることがないよう、ネムムを急行させた。
『R、サイレント』で周囲の音を消して、撃った矢も全て防ぎ、襲撃者を始末したのだ。
ライトと第一王女リリスとの非公式会議の最中に念話で声をかけられたため、メイは僅かに驚き、体を揺らしたのだ。
一連の問題に森を移動している人種達も気付かず、『巨塔』へと向かう。
首を刎ねたエルフ種の死体を『スネークヘルハウンド』に任せて、ネムムは再び『奈落』へ戻るため『SSR、転移』カードを取り出す。
「『人種絶対独立主義』を受け入れられないエルフ種の1人、か。世の中は変わっていくというのに、なぜ自分達と人種の立場が永遠に主と奴隷のままだと錯覚できるのか? 理解できないな……」
生き物には他人を蹴落とし、支配したいという本能がある。それは理解できる。
だが、自らの立場が有利であることが永遠に続くと、何故思えるのだろうか?
殴られ続けていれば、相手は黙ったままではいない。一方的に殴り続けることなど、続く訳がない。
それに気づかず、彼は命を失った。彼は夢を見続けていたのだろう。自らに都合のいい夢を。
「他にも散発的にこういう事態が起きて、自滅しているエルフ種がいるみたいだし。まだ状況を理解できず自分達に手を出そうとするエルフ種がいるなら、もう一度締めた方がいいのかも? 一度メイ様か、エリー様に進言しておいたがほうがいいわね」
エルフ女王国にとって最悪なことを呟きつつ、ネムムがその場から姿を消す。
同時にサイレントの効果も切れて、バリボリとエルフ種の死体を喰らう『スネークヘルハウンド』の咀嚼音だけが広がったのだった。
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
11話を12時に、12話を17時にアップする予定です!(本話は11話です)
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