10話 人種将来について話し合い
今日は9話を昼12時、10話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は10話)。
「まさか本当に兄様だけではなく、メイド長のノノすら私が偽者だと気付かないなんて……」
頭からすっぽりとフードを被り、視察の様子を盗み見る人種王国第一王女リリスが、驚きの声音を漏らす。
現在、エリー達と共に視察をしているのはリリスの偽者だ。
『UR、2つ目の影』を使い、彼女の偽者を作製。本物の代わりに視察へ回した。
理由としてこれからライト達と今後『人種の地位、未来を明るいモノにするため』、意見交換やすりあわせの話し合いをするのだ。
お互いの意見を確認し、目指すべき将来の着地地点を決めなければ齟齬が生じてしまう。
とはいえ話し合いはどう考えても長時間になるため、『UR、2つ目の影』を使いリリス(本人)と入れ替わってもらったのだ。
このまま視察だけではなく、人種王国まで場合によってはリリス(偽)に移動してもらう予定である。
リリス(偽)には複数のカードを持たせているため、本物と入れ替わるのはさほど難しくない。
「――リリス姫様、ご確認はもうよろしいかと」
「ですね。ありがとうございます、メイさん。私の我が儘を聞いてくださって」
「いえ、お礼など。全てはライト様のお望みですから」
リリスは背後に立つメイにお礼を告げると奥へ引っ込む。
今回視察を盗み見ていたのも、『本当に自分の偽者が見破られないのか』気になったからだ。
カードの力を信用していない訳ではないが、こればかりは言葉だけで実感を持てるものでもない。
故にライトの許可の下、視察をしているリリス(偽)を本物が盗み見ていたのである。
兄やメイド長にも見破られないことを理解したリリス(本物)が、メイにうながされ最上階で待つライトの下へと移動する。
もちろん1階から4階まで徒歩で移動するのは手間のため、『SSR、転移』をメイは使用した。
(4階に上がるだけで『転移』のマジックアイテムを使うなんて……。本当にライト様達は規格外ね)
内心、リリスが驚愕しつつ、大人しくメイの指示に従う。
周囲の風景は太い柱から、廊下へと一瞬で切り替わる。
メイの先導でリリスは、ライトが待つ執務室へと向かう。
☆ ☆ ☆
執務室で僕達は意見交換をおこなう。
ソファーに座るリリスが青い顔で漏らす。
「まさか、そんなおぞましい行いがなされていたなんて……」
僕が『ますたー』候補というだけで、『奈落』で殺害されかけたことを聞いて感想を漏らす。
リリスに僕達の事情や『ますたー』について、元『種族の集い』メンバー達への復讐、なぜ僕が殺されそうになったのかの真実を探していることを説明した。
もちろん必要以上の情報を聞かせるつもりはない。
『ますたー』や『ますたー』候補探しなどについて何か情報を所持していないか知るため話を向けてみたが、リリス本人は何も知らないらしい。
「申し訳ありません。王族なのに何も知らず……私を含めて父や兄達は外交の場でも基本相手にされませんから。念のため城に戻り次第、兄達にそれとなく聞いてみますね」
「いえ、お気になさらず。下手に触れて変な疑いを持たれても不味いので」
やんわりと釘を刺しつつ、話を続ける。
復讐や『ますたー』に関する情報を集める過程で人種の現状に自分が人種であることもあって憤りを感じ、結果、エリーを通して『人種絶対独立主義』を宣言し、『巨塔』周辺で元奴隷達を保護している現状について話す。
「ただ流石に人種の地位を向上させるためという理由で、こちらから好んで一般の人々を巻き込むような大規模な騒乱を起こすようなマネはしませんからね? 降りかかる火の粉は払いますし、復讐はおこないますが」
「もちろん理解しておりますわ。私も、父や兄を実力行使で下してまで玉座を得ようとは考えておりません。なにより武力で奪っても家臣達はついてきませんから。――それに恥ずかしいお話ですが、王城にはどれだけの各国の草達が生い茂っているか分かりません。それらをまず排除しなければ、安心して玉座に腰を下ろすこともできませんから」
『草』とは、間者のことだ。
人種王国の未来を築くため、リリスは自らが玉座に上ることを考えていた。だが、他国の間者を排除しなければリリスが強引に人種王国国王となって有利な改革を推し進めても、家臣達は同意せず、毒殺、暗殺、誘拐などに警戒し続けなければならない。
力で強引に推し進めるだけでは無理が生じるし、常に命の危機にさらされた状態で居続けるのはリリスの精神では耐えきれないだろう。
何よりそんな状態での国家運営は不可能だ。
「なのでまず間者達の炙り出し、特定が優先です。同時に私が女王として即位するために手を回す必要があります。――4年に1度おこなわれる『公国会議』までに、各国の承認を得るための多数派工作をしなければなりません」
リリスが気まずそうに、悲しそうに眉根を顰めた。
「私達人種王国は自国の王すら、自分達で決めることを許されていないのです……ッ」
彼女は心底悔しそうに奥歯を噛みしめる。
リリス曰く――建前上は、人種王国次期国王が公国会議で世代交代を報告し、他5ヶ国から受諾をうけるのが慣例となっている。
だが実際は、他5種によって人種王国の次期王が決定されているのだ。
現状の関係に不満を持つ者が人種の王座を得ないよう、排斥するのが狙いの制度である。
人種を除く5ヶ国による多数決制だとか。
(まさか自国の王様すら決める権利が無かったなんて……)
この事実を初めて聞いた僕は、人種の扱いの悪さに改めて頭痛を覚えてしまう。
「忸怩たる思いです……ですがこの制度を逆手に取り、正式な手続きに則って私が現国王を廃し、女王として即位することが可能となります」
それほど難しい話ではない。
僕達側がエルフ女王国のように言いなりにする国家を作り、5種中3種を従属させればいいだけだ。
人種の王座を力で手に入れることが問題を呼ぶのならば、裏から手を回し他種の国を押さえてから合法的に王座を手に入れることを認めさせればいい。
「まだ時間はありますし、今すぐどうこう出来る話ではないと考えています。何よりまずは王宮に蔓延る間者の特定が先ですから。ライト様、どうぞご協力お願い致します」
「約束した以上は是非協力させて頂きます。ですが特定した後はどうするのですか?」
「理由を作り解雇いたします。もしくは――」
リリスが一瞬言い淀むが、すぐに毅然とした態度で断言する。
「場合によっては裏で首を刎ねます。例えメイド長ノノが他国の間者だとしてもです。人種の明るい未来を掴むためなら、私の手などいくらでも汚しましょう」
彼女は断固たる決意を僕達に宣言するように見せる。
『自分は何があっても逃げない。だから最後まで協力して欲しい』と。
僕自身、人種の未来を開くことについては出来る範囲ではあるが、手を貸そうと思う。
「――」
「?」
給仕を務めるメイが僅かに何かに反応した。
リリスが気付かないほど微かな動きだったが、レベル9999の鋭敏になった僕の神経がその動きを捕らえる。
(何かの報告っぽいな。どこかで問題でも起きたのかな?)
僕は注意しながらもリリスとの会話を続ける。
「なので私が正式に王位を継承したら、ルールに基づいて関税の見直し、奴隷制度の廃止、穀物の不当安値の撤廃などを――」
リリスと将来的な人種王国の未来について会話を重ねる。
その時、メイは『スネークヘルハウンド』を操るアオユキと念話で連絡をとっていた。
『巨塔の魔女』が掲げた『人種絶対独立主義』――だがエルフ種には今までほぼ無料で使い潰すことが出来ていた労働力を奪われ、人種を虐げ君臨してきた快楽を忘れられない者が居る。
彼らの1人が、『巨塔の魔女』に対して敵対行動に出る動きを察知したのだ。
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また今日は9話を12時に、10話を17時にアップしております!(本話は10話です)
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