9話 人種の希望?
今日は9話を昼12時、10話を17時にアップする予定です(本話は9話)。
「夜分遅くにお呼び立てして申し訳ない。人種王国第一王女リリス殿。僕がユメの兄、ライトです」
ユメの兄、ライト――と名乗った少年が黄金の玉座から立ち上がると、自ら階段を下りて人種王国第一王女リリスの下へ向かう。
ライトが彼女の正面に立つ。
リリスの方がやや身長が高いせいで見下ろす形になるが、彼は気にせず頭を下げる。
「妹のユメから話を聞かせて頂きました。リリス王女様にポーションで命を助けて頂いただけではなく、仕事まで与え手厚く保護して頂けたと。本当にありがとうございます」
ライトが頭を下げると、エリー一同、背後に居る怪物達まで一斉にリリスに対して頭を下げた。
『神』と言われても納得するほどの力を持つライトと『巨塔の魔女』や神話的怪物達に、頭を下げられて感謝されることに混乱してしまう。
だが同時に優越感を味わい、リリスは自身の脳内に多量の快楽物質が溢れ出るのを実感した。
とはいえこのまま何も言わないのは自分の命にかかわる。
彼女は慌てて両手をパタパタと左右に振った。
「い、いえ! 人として当然のことをしたまでです。なのでどうか頭をお上げください」
「リリス王女様の気高い精神に改めて感謝を」
「ンゥ……ッ」
ライトが満面の笑顔でお礼を告げる。
少女と見間違うほどの美貌を持つ、彼の笑顔にリリスがときめき、頬を赤くして口から小さく異音を漏らしてしまう。
ライトは気付かず話を進めた。
「妹を助けて頂いたご恩は忘れません。ユメの傷を治して頂いたポーションの代わりに僕達が用意できる最高級のポーションを用意いたしました。また礼金も用意しましたので、どうぞ納めてください」
「!?」
ライトがメイに視線を向けると、彼女はアイテムボックスから樽一杯の金貨、その上に最高級ポーションを載せてみせる。
この現物に内心リリスが慌てふためく。
(ユメに使ったのは中級ポーションで、あんな見るからに最高級ポーションじゃないんだけど……。しかも『樽一杯の金貨』って、も、文字通り樽一杯に金貨が入っているなんて! 信じられない!)
ポーションの瓶に金細工が施されており、見た目からして最高級品だと主張している。
樽一杯の金貨は下手すれば、人種王国の国家予算と同等か超えているかもしれない。そんな大金を個人で受け取り持ち帰るのは不可能だ。
まず理由が説明できない。
『元貧農の少女を助けたら最高級ポーション、金貨樽をお礼として受け取りました』など、誰に説明しても納得してもらえないだろう。
リリスが『どうやって断ろう』と苦い顔をする。
ライト側も当然、この事態は想定済みだ。
彼は笑顔で答える。
「高級ポーションはいざという時の保険としてリリス王女様がお持ちください。人前に出さなければいいだけの物ですから。金貨に関しては姫様個人の資金と考えて頂ければと。後ほど人種王国に店を構える商人をご紹介致します。彼にこの樽を預けるので、必要な金額をご連絡頂ければすぐに用意させて頂きますから」
「お、お心遣いありがとうございます」
用意周到な言葉に、断る術を失った。
リリスが愛想笑いを浮かべる。
なにより持ち帰れるならば、金銭があって困ることはない。
またライト側も面子的に高級ポーション&金貨樽を受け取ってもらいたいという思惑があった。
実妹の命を救い、仕事を与えて城で数年間保護されてきたのだ。
ただのお礼だけでは『奈落』の主としての面子が立たない。
第一王女である相手の予想を上回るものを示す必要があった。
故に高級ポーション&金貨樽を用意し、受け取ってもらえるよう下地まで準備しておいたのである。
さらにライトは追加の言葉を示す。
「ですが、この程度のお礼では僕の気持ちが収まりません。なので他に何かご希望はありませんか? もしお望みなら『不老の腕輪』や『若返りの薬』、『毒物無効化のピアス』など、ご用意できますが?」
「こ、これはまたなんとも……どれもお伽噺に出てくるような物ばかりでめ、目移り致しますわね」
彼の申し出にリリス王女が声を絞り出す。
心を読まずともドン引きしているのがありありと分かった。
他者が口にしたら笑い話だが、神話級の怪物達を従える少年――ライトなら『用意できてもおかしくない』という実感がある。
「遠慮せず仰ってください。妹の命の恩人なんですから。迷うようなら全部お渡ししましょうか?」
ライトはまるで街で買えるお菓子詰め合わせを贈るような気軽さで告げてきた。
『ど、どれだけ財力に、余裕があるのよ!』と胸中で驚愕するリリスの笑顔が引きつる。
リリスが心を落ち着けるため呼吸を繰り返す。
(この申し出は非常にありがたい……例えば提示されたマジックアイテムじゃなくて、ここに居るモンスターの1、2匹を従魔として借り受けられたら、人種王国への侮り、穀物の不当な値下げ圧力、関税、奴隷の売り払い――多くの問題に一石を投じることができるはず。けれど……)
ギュッとリリスが手のひらを固く握り締める。
『それで本当にいいのか?』と、彼女は産まれてきて最も思考を加速させる。
彼女の良心が訴える。
(彼らのような存在に頼ったら、どのような影響が出るか分からない。けれど望外の希望なのも事実。……そう、王女である私にとって、最も大事なことは人種の明日を守ること。私は人種の未来のため、悪魔と口付けしても、魔王と罵られようとも全てを受け入れましょう!)
リリスがライトへと改めて向き直る。
彼女は希望を口にした。
「ライト様、一つだけ望みが御座います――――人種の未来のため、どうかそのお力をお貸しください! お願い致します!」
「……分かりました。微力ではございますが、力をお貸ししましょう」
リリスの申し出に、ライトが笑顔で了承する。
何のためらいもない即答に、彼女はまるで自分が最初から彼の手のひらで踊らされていると錯覚してしまう。
だが口に出してしまった以上、もう後戻りはできない。
このリリスの選択が人種にとって恩恵か、絶望か、天恵か、天罰となるのか。
その結果は、現時点では分からなかった。
☆ ☆ ☆
――翌朝。
朝食を済ませた後、人種王国第一王子、第一王女達は『巨塔』周辺の視察をおこなう。
案内は『巨塔の魔女』エリーが務める。
「住居は金属の箱と木材の家屋、2つあるのですね」
「金属製の箱は『ぷれはぶ』という物ですわ。一時的な家屋として下げ渡したものですの。現在は単身者よりも子供がいる世帯を優先して随時、木材を加工して家を作っている最中ですわ」
リリスの質問に、『巨塔の魔女』エリーがすらすらと答える。
奴隷を保護した後、一時的な凌ぎとして『無限ガチャ』カードから出た『R、プレハブ』を使用。その後、家族を優先に周囲にある原生林の木材を伐採、魔術で乾燥させて一軒家を製作していた。
その製作に元人種職人達を採用し雇用対策にあて、他にも家具、食器類なども作り出していた。
次は兄であるクローが話しかける。
「畑などは……ゴーレムが耕しているんですね」
「その通りですわ。人種はどうしても腕力が足りないですから。それにゴーレムなら疲労を知らずガンガン耕すことができますの。ですが細かい作業……畑にタネや水を撒いたりするのはどうしても人の手が必要ですわ。ゴーレムに頼り切ることなく、互いに得意分野で貢献しあう。適材適所ですわね」
「素晴らしい考えかと。ちなみにあのゴーレムを貸し出して頂くことは?」
「考えておりませんわ。将来的にも外に出すつもりはありませんの」
「それは残念。我が国にも貸し出して頂ければ開発が進むと思ったのですが……」
クローは残念がる。
しかし、仮にゴーレムを希望通り外に持ち出し開発に貸し出したら、一時的ではあるかもしれないが、その分人種の仕事が無くなってしまう。
仕事が無ければ賃金を稼げずスープ、パンも食べられない。
『巨塔の魔女』は『人種絶対独立主義』を掲げる立場だ。他にも理由はあるが、『巨塔』が出来て間もない現時点で、一部であれ人種に恨まれることをする必要はない。
『巨塔の魔女』達の姿に気付くと、仕事途中の妖精メイド達は手を止めて一礼、他人種達は大地に両膝を突き、両手を組んで深々と祈るように頭を下げる。
『巨塔の魔女』エリーは慣れた様子で軽く手を上げ応え、リリスは『やはり人種の未来のため彼女達と手を組むべきだ』と瞳を輝かせ、兄クローは『人種王族を無視して……』とやや不満が顔に出てしまう。
エリーはその不満を流しつつ、次の案内場所へと向かう。
「次は外縁部について視察して頂きますわね」
――その様子を巨塔1階出入口から観察する影があった。
それは現在『巨塔』を視察している筈の、第一王女リリスその人だった。
「まさか本当に兄様だけではなく、メイド長のノノすら私が偽者だと気付かないなんて……」
本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
9話を12時に、10話を17時にアップする予定です!(本話は9話です)
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