7話 『巨塔の魔女』の主
今日は7話を昼12時、8話を17時にアップする予定です(本話は7話)。
「『巨塔の魔女』様の主?」
王女リリスは失礼が無いようにベッドから下りて、夜分に無断で訪れた『巨塔の魔女』と向き合う。
昼間の会談、夕食でも頑なにローブを取らなかった『巨塔の魔女』が素顔を晒す。
金髪をふたつ結んで流し、大きな瞳を長い睫が縁取る。『巨塔』内部で散々多種多様な美女や美少女を目にしたが、それ以上に顔立ちが整い、スタイルも良かった。
そんな『巨塔の魔女』が微笑みを浮かべて答える。
「はい、わたくしがお仕えする神――ライト神様がリリス様に直接お会いしたいとお望みなのです。非公式に極秘でお会いしたいとのことなので、失礼ながら夜に訪ねさせて頂きましたの。隣の部屋で寝ずの番をしている従者達には気付かれないよう処置を既に施しているので、気にせずご参加できますわ」
「非公式? 極秘ということは、兄は出席しないのですか?」
「ええ、リリス様のみですわ」
なぜ非公式で極秘に自分だけと会いたいのか?
リリスは胸中で素速く理由を想定する。
(人質? 政治的に私の方が動かしやすいため取り込もうとしている? もしくは魔術で洗脳するため?)
『巨塔の魔女』、エリーが好意的に微笑む。
彼女の胸中を見透かしたように、不安を払拭するため理由を説明する。
「ご安心くださいですわ。リリス様を害するつもりはございませんの。ライト神様はただリリス様にお礼を告げたいだけですわ」
「お礼、ですか?」
この理由にリリスはさらに混乱した。
『巨塔』を作り出し、エルフ女王国を下し、ほぼ配下にした『巨塔の魔女』。強大な力を持つ彼女を配下にするような存在が自分にお礼を告げたい、と言っている。
身に覚えが全くなくて、『リリス自身を洗脳するために呼び出す』と言われた方がまだ納得できた。
『巨塔の魔女』が好意的な笑顔で続ける。
「混乱し、訝しがるのも理解できますわ。ですが、今お伝えしたことは真実。リリス様がお助けになったユメ様、彼女こそわたくしの主、ライト神様の妹様ですの。ただそのお礼を伝えたいだけですわ」
「ユメのお兄様……?」
「はいですわ。少々事情がありましてライト神様は妹のユメ様、上の兄様の消息を見失い、ずっと探しておりましたの。そんな中、リリス様がユメ様の傷を治癒し、保護して頂いていたのを発見したのです」
(た、確かにユメから聞いた話では上に2人兄が居て、村を襲われて一番上の兄に腕を引っ張られて逃げ出したとか。次兄はその前に村を出てそれっきり会っていないと聞いていたけど……)
まさかその次兄が、『巨塔の魔女』の主だったとは……。
(で、でもユメは両親ともに貧農の出で、次兄も同じの筈よね? なのにどうやって『巨塔の魔女』様のような強大な力を持つ人を配下にしたの?)
自分に会いたいという理由を知れば知るほど、新しい疑問がリリスの胸中から湧き出る。
『巨塔の魔女』、エリーは彼女の胸中など気にせず話を続ける。
「今回の視察依頼も、実は噂で耳にした居城に勤めるメイド見習いが本物のユメ様かどうか、ライト神様が直接その目で確認するためにリリス様達をご招待したにすぎませんの」
「!? そ、そうだったんですか……」
「はい、失礼とは存じますがどうかご容赦を、ですわ。ですがお陰でライト神様が直接確認したことでユメ様ご本人と確定。偽者と入れ替えることで、無事にユメ様を保護し、わたくし達の下に保護することが出来ましたわ」
「ちょ、ちょっと待ってください! に、偽者? 今、私の側に居るユメは偽者なのですか!」
「はいですわ。許可も取らず偽者と入れ替えたことについては、どうかわたくし達の事情も考えてご容赦くださいですの」
「そ、そんな……ありえないわ。いつから? だってユメはいつも通りの反応で全然違和感なんて無かったのに……」
「そういう風に作られているので、見破ることが出来ないのは当然のことですの。だからあまり気を落とさないでくださいまし」
『そういう風に作られている』――つまり、その気になれば、リリスだけではなく兄、父の偽者すら『巨塔の魔女』側が作り出し、入れ替えることが出来ると言うことだ。
(目の前の魔女は、魔女達はどれだけの力を持っているの!?)
リリスは驚愕、戦慄するしかなかった。
同時に『この力を上手く使えば人種の未来を変えることが出来る』と計算も忘れない。
この辺りが王族としての正義感、義務感を持つリリスらしい態度だった。
つい考え込んでしまったリリスに『巨塔の魔女』がうながす。
「理由はご理解頂けましたわよね? これ以上、ライト神様をお待たせするのは不敬ですわ。そろそろ移動いたしましょうか」
「ま、待ってください! 非公式、極秘は理解しておりますが、さすがに寝間着姿で向かうのは……」
リリスが暗がりでも分かるほど赤い顔で自身の体を抱きしめる。
歳は15歳、花も恥じらう乙女だ。
さすがに寝間着姿で男性と会うのには抵抗がある。
エリーが申し訳なさそうに眉根を下げる。
「仰る通りですわ。気付かずにすみませんでしたの。少々お待ちくださいですわ」
「!?」
彼女が指を鳴らす。
一瞬でリリスの寝間着が彼女自身、所持している衣服を全部合わせても到底敵わないような高級ドレスに変わる。
各種宝石類も嫌みのない程度に程よく使われており、デザインも先進的で、このドレス、宝石類で社交に出たら男性、女性の視線全てを集めるほどだ。
エリーは満足そうに笑みを浮かべると、再びうながす。
「これなら問題ないですわよね?」
「は、はい、問題ありません……」
リリスはもう驚き過ぎて、拒否することなど出来なかった。
エリーは笑みを深め、手を差し伸べる。
「では、ライト神様の下へ向かいましょう。リリス様、お手を」
言われるがまま手を伸ばす。
エリーがリリスの手を握り締めると、1枚のカードを取り出した。
「転移、解放ですわ」
エリーとリリスの姿が『巨塔』2階客室から姿を消す。
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また今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!
7話を12時に、8話を17時にアップする予定です!(本話は7話です)
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