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6話 チーズケーキ

今日は5話を昼12時、6話を17時にアップしました。前話未読の方はそちらから読んで頂ければ幸いです(本話は6話)。

 ――少しだけ時間を戻す。




「ようこそおいで下さいましたわ。わたくしが『巨塔の魔女』ですの」


 頭からすっぽりとローブを被り顔を隠した少女が謁見室で待ち構えていた。

 顔は隠しているが、大きな胸が覗き、スタイルが良く、響く声音も美しかった。


(妖精のように美しいメイド達を侍らせていることから考えて、『巨塔の魔女』殿も相当に美しい女性なのだろうな……)と、第一王子クローは胸中で呟く。


「こちらこそお招き頂きありがとうございます。人種(ヒューマン)王国、第一王子クローと申します」

「同じく第一王女リリスです」


 3人が無難に挨拶を終えると謁見室で会談を始める。


 会議の内容自体は当たり障りがないものだった。

『巨塔』における人種(ヒューマン)の扱い、『人種(ヒューマン)絶対独立主義』の細かい内容や意図、『巨塔』の立場、見識、今後の方向性などについてエリーが説明をする。

 クローとリリスは基本的に聞き役にまわり、テーブルを挟みソファーに座って和やかな会議がおこなわれた。


 無難に会議を終えると、第一王子達は宿泊する居住区へとうながされる。


「詳しい視察は明日ということで。移動でお疲れでしょうから、まずは体を労ってくださいませですわ」

「『巨塔の魔女』殿のお心遣い痛み入ります」

「ではまた夕食時にですわ」


 クローは笑顔で返答するが、胸中で『長距離用アイテムを使って疲労も何もないけどな……』とツッコミを入れていた。

 口に出さないのは、言葉を交わしても『巨塔の魔女』の底が見えないことに恐れを感じているからだ。


 謁見室を出ると妖精メイド達と、既に待ち構えていたクロー達の護衛&従者が待ち構えていた。

 妖精メイド達に従い2階へと下りる。

 2階も3階と同じように改造されていた。

 2階は全て客室になっており、クロー、リリス、護衛、従者達に部屋が宛われる。

 案内された部屋には既に人種(ヒューマン)王国から持ち込んだ荷物が運び込まれていた。


 またリリスが案内された客室は、自国の自室より明らかに豪華だった。

 唯一、窓が無いため息苦しさを若干感じたが、配置された家具、美術品、見たことも食べたこともない果物達など――それ以上の品々に囲まれているため、気にならないレベルだ。


 メイド長、ノノの手を借りつつ外向け用ドレスから、室内着に着替える。

 夕食まで時間があるので、外向け用ドレスを着続けるのは気疲れするからだ。もちろん夕食には別のドレスを着て出席しなければならないが。


「……姫様『巨塔の魔女』様はどのようなお方でしたか?」

「ローブで顔を隠していたから分からないけど、理知的で博識、とても上品なお方だったわ。なによりただの移動で『長距離用アイテム』を使用したり、ドラゴンを従えたり、彼女は本物の実力者よ! 上手くお話ししてなんとしても人種(ヒューマン)王国にお力を貸して頂かないと。そのためにもお兄様をなんとかしないといけないのよね……」


 部屋着に着替えて、鏡台前に座り髪をとかしてもらう。

 ノノはメイド見習いのユメから櫛を受けとり、リリスの背後へと回る。


「ノノ達の方が何かあったかしら?」

「……いえ、特には。ただ色々ショックな出来事が多かったせいで疲労が溜まったのか、待合室ソファーに座ったら一瞬だけ眠ってしまったぐらいですね」


 メイド長であるノノ達は待合い室でライトとユメが感動の再会を目撃、『SR、睡眠』で眠らされた。

 しかし、『SR、催眠』によってその記憶は、ノノの発言通り『一瞬だけ寝オチした』と改ざんされていた。

 この発言にリリスが微苦笑を漏らす。


「珍しいわね。ノノが居眠りなんて。他にはないかしら?」

「……他ですか?」


 ノノが考え込む。

 鏡越しにリリスがユメに視線を向けて問う。

 ユメがにっこりと無邪気な笑みで応える。


「テーブルに置いてあったお菓子が美味しかったです! お茶がちょっと苦くて砂糖とミルクをいっぱい入れちゃいました」

「ふふふ、ユメにはまだお茶の良さが分からないわよね。あの苦みが良いのに。でも『巨塔の魔女』様のところで出されたお茶はどの高級茶葉より味、香りがはっきりとしていたわね。どこで手に入れたのかしら? 個人的に好みだから銘柄を知りたいわ」

「……姫様、あまり高い物は駄目ですよ」

「分かっているわよ。そんなお金があったら、貧しい人達や孤児院の子供達にお菓子の一つでも買ってあげたほうがいいもの」

「さすが姫さまです!」


 ユメがニコニコ笑顔でリリスを持ち上げる。

 主のリリス、教育係のノノ――他メイド、護衛女騎士もユメに対してまったく違和感を抱かなかった。

 既に彼女は『UR、2つ目の影(ダブル・シャドー)』によって入れ替わった偽者であるが、誰も違和感を感じない。

 言動、癖、記憶、恩恵(ギフト)すらコピー出来るのだ。


 例えマジックアイテム、鑑定を駆使しても偽者と判別するのは難しい。


 とはいえ弱点もゼロではない。

 恩恵(ギフト)は劣化するし、身に着けているマジックアイテムは複製できない。殺害されれば消滅するため偽者だと1発で分かる。さらに言えば、本人が実際に自分の意思で『無限ガチャ』カードを使用しなければコピーされないなどの制限もある。

 完璧なマジックアイテムなど無いということだ。


 髪をとかし終えると、ソファーに座りお茶を淹れてもらう。

 リリスはリラックスした体勢で今後について話を振る。


「夕食までまだ時間があるわ。どうにかしてお兄様を出し抜いて『巨塔の魔女』様に人種(ヒューマン)王国に協力を取り付けるよう言質を取らないと。ノノ、そのための会議をするわよ」

「……了解しました。ユメ、貴女は声をかけるまで別室に下がりなさい」

「はい、メイド長! それでは失礼致します」


 ユメ(偽者)が一礼し、寝室を出て隣のリビングへと移動する。

 客室の寝室に残されたリリス、ノノは夕飯まで今後の展開についての会議をおこなうのだった。




 ――この会議が無意味になることを、ただの人種(ヒューマン)である彼女達に『予想しろ』というのが無理な話だが。




 ☆ ☆ ☆




 夕食、雑談も終えて、リリスは客室ベッドへと潜り込む。

 彼女はベッドでゴロゴロしながら、夕食について想いを馳せていた。


『巨塔の魔女』も同席した夕食はコース料理で、彼女のテーブルマナーは王族である自分達より洗練してさえいた。

 なにより驚いたのは食事の美味しさである。


(野菜は全く苦みが無いし、魚介類やお肉すら仄かに甘かった。何よりチーズがあんな美味しいお菓子になるなんて! あまりに美味しすぎて、2つも食べてしまったのはやはりはしたなかったですよね……)


 リリスの苦手な食べ物のひとつがチーズだ。

 食感、味はともかく匂いが苦手で、出来れば食べたくない食材の一つだった。

 しかし、最後に出たデザートの『レアチーズケーキ』はこの世の食べ物ではない。天上の食べ物だと断言できるレベルで美味しかったのだ。


 思わず一つ目を一瞬で食べきり、二つ目を所望してしまったほどだ。

 兄クローも料理一つ一つの美味しさに驚き、妹が苦手なチーズ料理をおかわりする姿にも目を見開いていた。


(『巨塔の魔女』様にはしたない姿を見せたせいで、『協力関係を結ぶに値しない』と思われたらどうしましょう……。私の食い意地で人種(ヒューマン)の未来が決まるなど……)


 想像しただけ情けなくて落ち込む。


 だが、そんな気持ちも長くは続かなかった。


「――ご機嫌よう、リリス第一王女様」

「!?」


 声をかけられリリスがベッドから飛び起きる。

 天蓋ベッドのレースの隙間の先に、1人の女性が立っていた。

 声ですぐに理解する。


「……『巨塔の魔女』様?」

「夜分遅くに申し訳ありませんわ。ですが、リリス様にわたくしの主様にお会いして頂きたく参上しましたの」


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


明日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!

また今日は5話を12時に、6話を17時にアップしております!(本話は6話です)


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
[一言] チーズケーキと聞いてスフレタイプを想像してた…
[気になる点] 「黒歴史」とか「寝オチ」みたいなネットスラングはあまり使わない方がいい。 地の文に入れるにしても、その話の視点となる人物の思考がある程度反映されてるわけだから、 登場人物が明確に、現代…
[一言] 塔の魔女が実質のトップだと思ってたのに それのさらに上の身分が居ると聞くと驚くだろうな それもメイドのユメと同年代の少年とは。
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