表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/571

3話 巨塔、視察へ

今日は3話を昼12時、4話を17時にアップする予定です(本話は3話)。


「まさかあの『巨塔』から直接、視察のお話を頂けるなんて。まさに女神様のお導きです!」


 人種(ヒューマン)王国首都にある王城、第一王女リリスの一室で彼女がお茶を口にしながら送られてきた手紙を前に喜びの声をあげる。

 送り主は今話題の『巨塔』。エルフ女王国を通してリリス宛に視察要請が来たのである。


『巨塔』は『人種(ヒューマン)絶対独立主義』を宣言。

 その宣言に則して奴隷から解放した人種(ヒューマン)が虐待されていないか、生活環境が悪くないか、しっかりと食事が与えられているかなど、人道支援に熱心なリリスに直接確認してもらい内外に『問題なし』と宣伝したいようだ。


 この要請にリリスは当然食いつく。

 彼女的には願ったり叶ったりである。

 父親――人種(ヒューマン)国王もエルフ女王国を通しての要請のため嫌とは言えない。


 喜びでテンションが高いリリスとは正反対に、給仕を務める彼女付きのメイド長ノノは気後れした態度を取る。


「……姫様、本当に『巨塔』へ向かうおつもりですか?」

「ノノは反対なのかしら?」

「……反対と申しますより、話があまりに出来すぎていて少々疑わしいな、と」


『巨塔』への視察を希望したが周囲から反対を受けたら、断れない筋からなぜか話が来た――事実だけ抜き出すと詐欺の手口のような怪しさを感じた。

 ノノは不安気な表情で続ける。


「……相手は魔術に長けたエルフ種すら凌ぐ魔術を使って、ドラゴンを多数使役しているとか。我々を『巨塔』へ招くのは視察ではなく、魔術で洗脳するためだとしたら……」


 彼女の指摘に浮かれていたリリスも表情を強ばらせる。

 相手はエルフ女王国を陥落させた『巨塔の魔女』だ。

 ノノの指摘が絶対に無いとは言い切れない。


「確かにその可能性は捨て切れませんが、エルフ女王国を通しての要請です。私達に拒否する権利はありません。私自身、断る気もありませんが。魔王の口に飛び込むつもりで視察に向かいます。……ですが、私に同行するメイド達はその情報を伝えた上で志願制にしなさい。ちゃんと最悪の事態も伝えた上でですよ?」

「……畏まりました。では僭越ながらノノは姫様とご同行させて頂ければと」

「無理などしなくていいのですよ?」

「……幼少時代からお側にいたノノが、今更姫様のお側を離れるなど考えられません。……何より目を離した姫様が何をしでかすか心配で、むしろお側に居る方が安心ですから」

「もう! ノノはすぐ私を子供扱いして。今年でもう15歳になるのよ!」

「……ノノにとって姫様はいつまで経っても可愛い姫様ですから、諦めてくださいませ」


 暗い話をしていたはずの主従はいつのまにか、クスクスと可笑しそうに談笑する。

 2人が固い絆を確かめあっているが、『巨塔』側――ライト達側としてはあくまで妹ユメが本物か確認し、本物の場合穏便に『奈落』へ保護するために視察を要請しているに過ぎない。

 故に彼女達の心配はまったくの杞憂でしかなかった。


 とはいえリリス達がまさかそんな事情を把握できるはずもなく、後日、決死隊的雰囲気を纏った希望者による選別がおこなわれた。




 ☆ ☆ ☆




『巨塔』出発、当日。

 人種(ヒューマン)王国の城の庭に、リリス達が姿を現す。

 事前に『ドラゴンに乗ってお迎えにあがるため許可を頂きたい』と通達を受けていたため、当日は城だけではなく、首都中の人々にも通達がなされていた。

 庭にはドラゴンを一目見ようと、『巨塔』へ向かうリリス達以外にも多くの人が集まっていた。


 建前は『巨塔の使者を出迎えるため』である。

 人数が多い方が国のメンツ的にもありがたいので、許可が下りた。

 ……尤も他に狙いがあるようだが。


「…………」


 やや生え際が怪しいリリス兄も兵士と一緒に、ドラゴン鑑賞とは別の目的で同席していた。

 ――時間になると、空に黒い粒が姿を現す。


 その粒はだんだんと大きくなっていく。

 体長約10mの青い鱗のドラゴンが人種(ヒューマン)王城の庭へと向かい舞い降りてくる。

 本来であれば『ドラゴンの襲撃!?』と騒ぎになるが、事前に通達されていたお陰で、驚き、興奮、ざわめきの声が広がるのみだった。

 ドラゴンが無事に庭へと降り立つ。


 その背から、1人のメイドが重力を感じさせない動きでドラゴンの背から下りる。

 ドラゴンを一目見ようと集まった人々は、ドラゴンよりその背から舞い降りたメイドに釘付けになった。

 夜の闇を切り取ったような黒く長い髪をリボンで結び、髪を遊ばせる。身長は女性にしては高く、顔立ちも大きな瞳に長い睫、赤い薔薇色の唇に筋の通った鼻。全てが完璧に配置され、肌も透き通るほど白く、まるで神様が丹精込めて作り上げた人形のように美しい女性だった。

 衣服も『メイド服』とは思えない一目で高級素材だと分かる生地を使い、デザインも洗練されている。

 その場に居る老若男女がメイドの美貌にみとれてしまう。


 彼女は丁寧に一礼すると、鈴を転がしたような声音で告げる。


「使者を務めさせて頂きますメイと申します。今回は視察要請にお応え頂き感謝致します」

「こ、こちらこそ名高き『巨塔』の視察をおこなえて光栄ですわ!」


 メイと名乗った女性の言葉に、いち早くリリスが立ち直り挨拶を交わす。

 国同士であればもっと堅苦しい歓迎式典をおこなわなければならないが、『巨塔は国か?』と問われたら正直返答に困る。

 ではどのような規模、歓迎の態度を示せばいいのか……事例が無いため加減が分からなかった。

 下手に格式張った歓迎式を開けばエルフ女王国以外の他国から『へぇー、巨塔と仲が良いんだ』と穿った目を向けられる。


『巨塔』が他国と争いになった場合、関係ない人種(ヒューマン)王国が巻き込まれる危険性すら出てくるのだ。

 なのであまり派手にやりすぎるのも不味い。


 結果、『王族、家臣達が多数出迎えれば良いだろう』というホームパーティー的雰囲気の歓迎会規模に落ち着いた。


『巨塔』側もメイド1人(美の女神と疑うほどの美貌の持ち主だが)しか派遣していない。

 他国から見て『仲が良い』と疑われないであろう、絶妙なバランスを保っていた。


「では早速で恐縮ですが、『巨塔』へ移動してもよろしいでしょうか?」

「私としてはお願いしたい所なのですが……」


 リリスが兄へと視線を向ける。

 兄は未だにメイの美貌に見とれ続けていた。

 流石に見かねた妹リリスが兄を小突き、意識を取り戻させる。

 兄は頬を赤く染めつつ要望を口にした。


「し、失礼しました。自分は人種(ヒューマン)王国第一王子クローです。体調を崩した国王に代わり、ご挨拶させて頂ければと」


 簡単な挨拶を終えると、クローが要望を伝える。


「今回の視察は妹リリスだけではなく、自分も同行させて頂ければと思いますがよろしいでしょうか?」

「…………」


 兄の横でリリスが面白くない感情を内側で抑える。

 視察の招待を受けたのはリリスのみで、兄クローは本来呼ばれていない。クローは下手にリリスが政治的に『巨塔』へ踏み込まないよう、監視するための見張りである。

『体調を崩した国王に代わり云々』もこの提案をするための芝居だ。

 実際、国王は体調を崩していない。クローが話題を振り許可を取るための方便である。


 リリス的には邪魔をしたいが、兄達がそれを許さずこうして胸中で苦々しく思うことしかできない。


(ドラゴンの背はそれほど広くありませんから、使者さん側から出来れば断って頂けないかしら……)と内心で考えるほどである。


 だがリリスの内心とは裏腹にメイは快く返事をした。


「もちろん構いません。移動する人数には余裕がありますので――ですから、こちらからも少々希望が」


 彼女の大きな瞳が、ドラゴン見物に来た使用人達に混じっているメイド服を着た幼い少女へと向けられる。


「『巨塔』周辺ではそちらの彼女と同世代の幼い少女達が多数生活を送っております。視察の際、彼女達との交流も予定しており、出来れば同世代の少女が同行して頂けると助かるのですが。もちろん安全は保証致しますし、かかる経費、衣服、飲食、部屋など諸々心配もございません。なので是非お願い致します」


 メイの要望にリリス、クローもやや疑問を抱く。

 幼い少女達との交流のため、リリス側から同世代の少女が同行するメリットがそれほどあるのかと問われれば……ゼロではないが、とてもあるとは思えない。

 だが、彼女――ユメを同行させるだけでクローの要望が通るのだ。断る理由はない。

 クローが笑顔で快諾する。


「もちろん、問題ありませんよ。なぁリリス?」

「……はい、お兄様の仰る通りです。ユメ、こちらに」

「は、はい」

「…………」


 リリスに声をかけられ注目が集まったせいで『ユメ』と呼ばれた少女が緊張気味に声を上擦らせる。

 彼女の名前が呼ばれると、メイが僅かながら動揺した気配を漏らす。

 幸運にも、彼女の動揺がこの場に居る人種(ヒューマン)達に悟られることはなかったが。


 男性騎士、5名。

 メイド3名+追加1名。

 女性騎士、1名。

 第一王子、第一王女を含めて、合計12名が『巨塔』視察へ向かう。


『ドラゴンの体長は約10mはあるが……本当に全員が乗れるのだろうか?』という雰囲気が漂う。

 人数だけではない。

 彼らが準備した荷物も含めると結構な重量と大きさがある。


 メイはその雰囲気を気にせず、ドラゴンへと語りかける。


「では貴方は後から『巨塔』へと戻ってください」

『グルゥ』


 ドラゴンは頷く。

 メイは返答を聞き終えると、1枚のカードを取り出した。


「では早速、『巨塔』へご案内します。移動は一瞬で危険は一切ございません。なのでどうぞご安心ください。では失礼致します。『転移』、解放(リリース)


 彼女が唱えると同時に、カードが力を発揮する。


『!?』


 メイの言葉通り、一瞬で人種(ヒューマン)王城の庭から見たことがない真っ白な広間へと景色が切り替わる。


 声もなく驚愕するリリス達に、メイは再び一礼した。


「ようこそ『巨塔』へ。皆様の視察を我々は心より歓迎致します」


本作『【連載版】無限ガチャ』を読んで頂きまして誠にありがとうございます。


今話で無限ガチャも話数がちょうど100話になります!

ここまで来れたのも読んで下さり、応援して下さっている皆様のお陰です。本当に、ありがとうございます!

流石に毎日2話アップし続けているので100話到達するのが早かったですね……100話はあくまで通過点として、これから200、300話と最後まで書ききれるよう頑張りたいと思います。

なので今後もどうか応援のほど、よろしくお願い致します!


また今日も頑張って2話をアップするので、是非チェックしてください!

3話を12時に、4話を17時にアップする予定です!(本話は3話です)


では最後に――【明鏡からのお願い】

『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。


感想もお待ちしております。


今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 実はユ−チューブの方から先に見たんですけどおもしろくて コチラの方を読み始める事にしました 頑張ってください  楽しみにしています
[一言] 好きなストーリーなので、ぜひ300話以上お願いします笑
[一言] 弱小国の必死の猜疑心や列強国への配慮が涙を誘いますね 何故だろう、他人の気がしません そりゃ生え際も後退するわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ