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隣の席のギャルっぽい子が私のことしゅきらしいので付き合ってみることにした  作者: にゃー
7月

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第26話 羽須美さんのそういうところ


 そんな流れで始まった本日の勉強会。

 やはりというかなんというか、家勉モードに入ってるはずのメガ羽須美さんの様子がちょっとおかしかった。うまくスイッチが切り替えられてないと言いますか。それでも私の十倍くらいは賢いですけれどもね。

 対面に座る彼女さんは、開かれた教科書を前にそわそわしたりぼーっとしたり、じんわり頬が赤かったり。そんなに腕組みが効いたのかなぁと思いつつも、まあ一応は真面目に勉強に励むことしばらく。分からないところが出てきたので、私はノートをひっくり返して羽須美さんの方へ向けた。体を前のめりにして、問題の箇所をシャーペンでつんつん突いて示す。


「羽須美さん、ここのさー」


「っ」


「──ってところが分っかんないんだけど」


「…………」


「……羽須美さん?」


 いつもならすらすらと出てくるはずの解説がない。顔を上げてみると、少しだけ前かがみになっていた羽須美さんと思いっきり目が合った。角度的にその視線はノートよりも少し上に向けられていたように思える。


「……ぁ」


 しまった、とでも言いたげな顔になる羽須美さん。眼鏡の奥の瞳に理知的な光は一切なく、もっとなんかこう、欲をダイレクトに感じた。視線の先にあったものを考える。ノートよりも上、私の顔よりも下。羽須美さんの目が釘付けになるようなもの。うーむ……


「…………あ、もしかして胸見てた?」


「はっひ、はぅ、ひひゃぁ……!」


 未知の言語を繰り出してきた。顔は青くなったり赤くなったり忙しい。たぶん正解の合図かなにかだろう。今日の私のシャツはかなり浅めのVネックで、Vとはいえ谷間はおろかデコルテすらほとんど見えないと思うんだけど……それでも、シャツの下から押し上げるお山を見てしまっていたらしい。


「うーん、やっぱりさっき当たってたのかな」


「ぁ、ぁぁ、あーーーーたっ、ては、いなかったけどっ……」


「けど」


「放射熱は感じた」


 おっぱい放射熱かぁ。あんまり口に出したくはないワードだ。テストにもたぶん出ないだろうし。


「ぁ、あと、黒居さんが当たってたとか当たってないとか言うから……」 


 余計に意識しちゃったと。相当にテンパってるのか羽須美さんは、それに、と全部喋ってくれそうな勢いで言葉を続ける。


「二の腕の柔らかさはむ、胸っの柔らかさと同じだって聞いたことが……ありまして……はい……」


「それほんとー?」


 やっぱり腕周りは羽須美さんの体に当たってたらしい。そこから胡乱な言説を元に私の胸の感触に思いを馳せようとは、やはり面白い彼女さんだ。


「ぅぅ……ご、ごめんなさいぃ……」


 しょげ返り、体を縮こませる羽須美さん。身体測定の日に胸の話をしたときも反応していたし、やっぱりキス以外にもそういう、もっと性欲性欲した性欲も抱いているらしい。当然といえば当然か。体育の着替えの際にも、今だにディフェンスに励みつつも私の着替えを見ようとはしないし、あれも興味があることの裏返しなんだろう。

 おっしゃそしたらここは彼女として責任持って触らせちゃるっ……とはさすがに言えないけど。でもまあ、羽須美さんが私の体に興味を持ってるって事実にイヤな気はしなくて。でもそれってつまり、かなーり絆されてきてることの証明でもある気がする。どうなんだろ。


「ぅぅぅ……」


 まあとりあえずこの、申し訳なさげにどんどん小さくなっていく彼女さんをどうにかせねば。


「私は羽須美さんのそういう──」


 ところも好きだよ、と何気なく言おうとして、途中でこくっと飲み込んでしまった。あんまりにも自然に好きって言葉が口をついて出かけたことへのびっくりが少し。“好きだよ”なんて気軽に言ってしまって良いものだろうかという疑問が大多数。いま私が口にしようとした“好き”と、羽須美さんが欲しい“しゅき”はたぶん別種のもので、そういうのって言われると逆にしんどい、みたいな話はままありがちだ。うーむ。うーーーーむ………………


 …………本人に聞けばいいか。


「羽須美さんさ」


「はい……」


「いまの私に好きって言われるのイヤ?」


「急になに!?!?」


「軽いノリでさぁ、羽須美さんのしゅきと違う好きを聞かされるのは、イヤかなーって」


 向こうからすれば話が斜め上に飛躍しちゃった感じかもしれないけれど、これはわりとはっきりさせておくべき案件な気がするんだよなぁ。どうですかね?と問いかけを乗せた目で見やる。俯いていた羽須美さんの顔が、ゆっくりとこちらへと向き直って──


「い、言われてみないと分からないかなーっ?うん、言われてみないと、言われてみないとなーっ??」


 ──めっちゃ言って欲しそうだった。“とりあえず何でもいいから私に好きって言われてみたい”以外の何ものでもない顔。強かだ。でもだからこそあの日、告白してきてくれたのかもしれない。例によって顔も耳も真っ赤にして、だけども期待に満ちた表情。ちらちらとこちらへ向けられる視線は、見るからに浮足立っている。


「そっか」


「そ、そうですそうです」

 

 ああかわゆい。そういう、羽須美さんのそういうところ。チリチリとうなじを焼く静かな衝動のままに、机にもたれかかって、両腕を胸の下で組む。寄せて上げて見せつける。


「……羽須美さんのそういうところ、けっこう好きだよ?」


「んぎゅっ」


 もっと小さくなってしまった。縮むっていうか、もはや圧縮。こーれは元のサイズに戻るまで少しかかりそうだ。こっちから色々やっておいてなんだけど、明後日からテスト始まっちゃうけど大丈夫かなぁ…………や、羽須美さんは大丈夫だと思うんだけどね?私の方がね??


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