prologue
「あああああああああああああああ!!!」
ごう、ごう、ごう。
円を描くように燃え盛る炎が、少女の慟哭に合わせて勢いを増して揺れた。周囲の木々は焼け落ち、炎蛇のようにうねる大火が全てを焼き尽くさんと暴れまわる。その中心で少女は、傷だらけで既に意識を失ってぐったりとしたソレを抱えて泣き叫ぶ。熱風が少女の衣服を、肌を、喉を舐める。当然、そこは焼けたけれど、それすら気にする余裕のない少女はひたすらに己の胸に渦巻くものを叫ぶ。それは幼い少女には抱えきれないほどに大きな感情の奔流。
怒り、悲しみ、恨み、不安、嫌悪、恐怖、殺意、絶望、喪失感……。生まれて初めて経験するそれらの感情が綯い交ぜになった掠れた咆哮が、炎の中に虚しく消えた。
少女はただ、平和に暮らしたかっただけなのに。大切な人と共に、ひっそりと…けれど幸せに暮らしたかっただけなのに。全部、全部、奪われる。全部、全部、壊される。いつだって自分たちは搾取されなければならないのだ。
ああ、許せぬ、許せぬ。
すべて燃えてしまえ。すべて消えてしまえ。自分たちの幸せを邪魔するものはすべて燃えてなくなればいい。
この日、少女は初めて『炎』を使った。




