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第七十一話 イーシ王国制圧(2)

 王国から派遣されていた武官達は、一瞬にして全員殺害された。タンソウ侯爵とユーイ伯爵は、最初からイーシ国王の命令に従う意図は無かったのだ。


 信長はこの1年間で、かなりの領主の調略に成功していた。まずは、門閥貴族と呼ばれる古くからの貴族を調査した。そして、その多くが現在のイーシ国王に不満を持っていることが解ったのだ。


 200年前に発生した列強との大戦において、イーシ王国は無残な敗北を喫してしまった。そして絶滅を免れるために、奴隷や食料の供出を約束したのだ。それで人族は一時の安堵を得ることが出来た。しかし、列強からの要求は年を追って苛烈になり、提供する奴隷の人数も増えている。そして現国王になってからは、幼い子供たちを「狩猟用」として奴隷に出しているのだ。


 前大戦において、人族の存亡のために戦った門閥貴族ほど現国王の態度に忸怩たる思いをしていることを知った信長は、現国王を廃して別の者を国王に据えることを画策した。


「信長殿、この日を待っていましたぞ。6万のドワーフ軍を撃退した力、見せてもらいましょう」


 タンソウ侯爵は信長に近づき親しげに声をかける。信長はこの1年間で4回タンソウ侯爵領を訪れて説得をしていたのだ。新しい武器や農業改革の技術を一部伝えて、信長に協力することこそ、人族の国を強化できるのだと。そして、信長に逆らったらどういう結末が待っているのかを。


「タンソウ侯爵、ユーイ伯爵、我が主アンジュン辺境伯様の求めに応じて出陣してくださり感謝の念に堪えませぬ。我ら力を合わせてイーシ国王を廃し、強固で豊かな人族の国家を作り上げましょう。これは、易姓革命です」


「列強の冊封を抜けて対等な国家になることは我がタンソウ家の悲願。それは我々だけの力では出来なかった。そんな我々にもチャンスを与えてくれて感謝いたしますぞ。我らはアンジュン辺境伯軍の一翼を担いましょう。アンジュン殿が我々の盟主です」


 ――――


 イーシ王国王城


「ば、ばかな!タンソウ侯爵とユーイ伯爵が寝返ってアンジュンに合流しただと!?どういうことだ宰相!!」


 激昂したイーシ国王は手に持ったロッドでコーキ宰相を何度も打ち据えていた。イーシ国王の顔は怒りに歪み、額には青筋が立っていた。


「わ、解りませぬ。派遣していた連絡武官は行方不明です。一人も帰ってきていないため、詳細は一切不明です。ただ。アンジュンに合流してこの王都に進軍してきております。タンソウ公爵とユーイ伯爵が裏切ったため、アンジュン領方面で抵抗できる戦力はありません。おそらくあと7日ほどで王都に到達します」


「くっ、すぐに兵を集めろ!公爵家も総動員だ!何としても王都を守れ!」


 コーキ宰相は各領主に対し王都防衛の為に上洛するよう勅命を送った。しかし、早馬を出しても地方に届くまで数日はかかってしまう。そこから上洛の軍を用意しても間に合うはずが無かった。


 ――――


 5日後


 アンジュン軍はほとんど抵抗らしい抵抗を受けずに、王都まであと2日の所まで来ていた。


「なあ、アンジュン軍の兵隊さんよぉ。そのぉ、また、例のあれ、もらえないか?」


「おお、ユーイ伯爵の所の兵隊さんか?いいぜ、好きなだけ、とは言えないが、20個くらいなら大丈夫だ。おい、出してやれ」


 この数日間、轡を並べて進軍しているため、兵士同士の交流が生まれていた。そして、タンソウ公爵とユーイ伯爵の兵士達は、アンジュン軍の兵が食べている糧食を恵んでもらうために、時々こうして訪れているのだ。


「ありがとよ!恩に着るぜ!これの味を覚えるとオレ達の糧食はブタの飯以下に思えてきちまうぜ」


 ユーイ伯爵軍の兵士は、麻袋に入ったアンジュン軍の糧食を受け取った。中にはその糧食が20個入っていると言うことだが、大きさに比べて非常に軽く感じる。


 受け取った兵士達は自軍の陣地に戻り麻袋から糧食と調味料の粉の入った竹筒を取り出した。そして、それを一つずつお椀に入れていく。


「湯も沸いたぜ。順番に入れるから火傷に注意しろよ」


 大きな鍋から沸騰した熱湯をお椀に注いでいく。そして蓋を乗せて3分。


 ずずずずっ


「うめぇー、たまんねぇなぁこりゃ」


 兵士達は木を削って創ったフォークをお椀に差し込んでくるくると回し、麺を絡めていく。そして、熱々の麺に息を吹きかけて少し冷ましてから口に運んだ。


 これは、小麦粉の麺を蒸した後に油で揚げて乾燥させたものだ。お湯を入れて3分待てばおいしくいただける。


 軍事行動において糧食の問題は避けて通れない。それを解決するために最優先で創らせたのがこの即席麺だ。


 現在では小麦粉ベースの「レッドフォックス」とそば粉ベースの「グリーンラクーン」の二種類を準備していて、その人気は二分していた。また、戦闘行動中にも食べることの出来る戦闘食として、きのこ型とたけのこ型のクッキーを作って持たせているのだが、どちらがより戦闘に適しているかの論争が兵士の間で起こっていた。


「こんなうめぇ物を毎日食べることができりゃ、戦争にも行きたくなるってもんだぜ」


「でも、アンジュン領の領民の食事はもっとおいしいらしいぞ。農民でも腹一杯の米と肉が食べれるそうだ。イーシ国王を打ち倒したら、オレ達もそれくらい食べられるようになるってよ。何でも、オレ達の創った米や麦の半分はイーシ国王がもぎ取って列強に貢いでいたらしいぜ。ひでぇ国王だ。オレ達の命より列強のエルフやドワーフたちが大事らしい。こんな王族は打ち倒してやろうぜ!」


最近かなり忙しく、なかなか更新できずに申し訳ありません。

先日は大日本帝国宇宙軍2巻の表紙の打ち合わせを湖川先生としてきました。また、原稿の校正作業もしております。5月ごろ発売予定ですので、何卒よろしくお願いいたします。

必ず完結させますので、気長に見て頂ければと思います。

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― 新着の感想 ―
気長に待ちます。
タンソウ侯爵とユーイ伯爵は、やはり調略の結果でしたか! 列強国の言いなりのイーシ国王は、かなり不満を持たれていたんですねェ。 そりゃ、狩猟用の奴隷に幼子まで出させられてはねえ。 そして戦場では糧食に…
>小麦粉ベースの「レッドフォックス」とそば粉ベースの「グリーンラクーン」 最近ネット放火されそうになったヤツぅw
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